評判を無視してピースボートの船に乗ってみたら、こんな毎日だった

実際にピースボートの船に乗ると、どのような生活が待ているのか。やはり一番気になるのはそこだろう。そこで、今回はピースボートの船内生活の概要について書いていこうと思う。もちろん、あくまでも僕の視点だ。ぼくは88回クルーズしか知らないし、同じクルーズの仲間と話していても、人によって見える景色はかなり違うということがわかる。

ピースボート88回クルーズとは?

2015年8月21日から12月6日までの108日かけて地球を一周したクルーズが、ピースボート88回クルーズである。寄港地は次の通り。

・「貧富の島」セブ島(フィリピン) 2日間

・「森の中の都」シンガポール

・「神秘の街」ムンバイ(インド)

・「砂上の楼閣」ドバイ(UAE) 2日間

・「灼熱の街」ドーハ(カタール)

・「空の上の街」サントリーニ島(ギリシャ)

・「猫と遺跡の港町」クシャダス(トルコ)

・「丘の上の港町」ピレウス(ギリシャ)

・「水の上の美術館」ヴェネツィア(イタリア)

・「石造りの迷宮」ドブロブニク(クロアチア)

・「天空の城」コトル(モンテネグロ)

・「古美術の街」パレルモ(イタリア)

・「曇り空の街」マルセイユ(フランス)

・「陽気な港町」バルセロナ(スペイン)

・「おもちゃ箱の街」ジブラルタル(イギリス領)

・「緑と青と霧の島」ポンタデルガーダ(ポルトガル領)

・「海賊の港町」コズメル(メキシコ) 2日間

・「海賊のリゾート地」ベリーズシティ(ベリーズ)

・「リアル・ロワナプラ」クリストバル(パナマ)

・「最果ての街」カヤオ(ペルー) 4日間

・「楽園の島」パペーテ(フランス領タヒチ)

・「恐竜の島」ボラボラ島(フランス領タヒチ)

・「最後の島」アピア(サモア)

なお、途中でスエズとパナマの2大運河を通る。

そもそも、「ピースボート」という船はない

これはよく誤解されがちなのだが、「ピースボート」という 船は存在しな
い。「ピースボート」はNGO団体の名前である。ピースボートに代わって船会社と契約しているのはジャ パングレイスという旅行会社で、1年間船をチャーターして いる。

2016年現在、ピースボートがチャーターしている船の名前はオーシャンドリーム号。3万5千トンのパナマ船籍の船である。11階建てだが、乗客が立ち入れるのは4階から上だ。

中にはレストランやバー、居酒屋などのほかに、売店や美容室、小さなスポーツジムなどがある。まさに、一つの村だ。

「ピースボート 船」で検索すると、たまに「ご飯がまずい」だの評判の悪い口コミがあるが、これは大抵、先代の船の悪口だ。先代は確かにごはんがまずかったらしいが、オーシャンドリーム号はチャーハンがおいしいので、安心して乗っていただきたい。

ただし、よく「豪華客船の旅だと思って乗ったら、質素でがっかりした」という話を聞く。ここではっきりと言わせてもらおう。

オーシャンドリームは豪華客船ではない!

もちろん、地球一周できる船なのだからしっかりしているが、「豪華」な船ではない。「海の上の合宿所」よくても「海の上のビジネスホテル」だろう。何せ、3食昼寝付きで1日約1万円ちょっとなのだから。

だが、ぼくは若者たちがTシャツ姿でのんべんだらりとしているこの船が大好きだ。あんまり高級すぎるものでは息が詰まってしまう。美術館で生活することはできないのだ。

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我らがHOME、オーシャンドリーム号

 

ピースボートって船の中で働くの?

これも、よく聞かれることだ。ポスターに貼ってある「ボランティアして船に乗ろう」みたいな文言がそう誤解させるのだろう。

ここでいう「ボランティア」とは、船に乗る前の話。船に乗る前にポスター貼りなどのボランティアで割引をためよう、ということを指しているわけで、一度船に乗ってしまったら、毎日寝ていても構わない。

とはいえ、仕事が全くないわけではない。ボランティアで、部活のようなノリで、船内での仕事を楽しむ人たちがいる。

「船内チーム」と呼ばれる活動がそれだ。船内で音響を担当したり、映像の撮影や編集を行ったり、新聞やタイムテーブルを作成したり、イベントを企画したり。必ず入らなければいけないわけではなく、有志が集まって、担当のピースボートスタッフの下で動いている。チームによっては音響機材や映像編集の技術が身に付く。

僕は「新聞局」に所属し、船内で発行される新聞づくりに携わっていた。自分の書いた文章が新聞という形で残るので、日本に戻ってから家族や仲間に船内での活動を見せられるというのが強みだ。

他にも、働きながら船に乗る仲間はいっぱいいる。

CCGET TEACHERがその代表だ。

CCは簡単に言えば通訳さんだ。船内や寄港地での通訳業務に携わる代わりに、ただで船に乗ることができる。忙しそうだし大変そうではあるが、語学の勉強をしている人にとって見れば、この上ない成長の機会なのかもしれない。

GET TEACHERは船内の有料英会話教室「GET」の先生で、外国人の方がほとんどだ。その多くが、日本の学校で英語を教えた経験を持っている。なので、簡単な日本語の会話ができる人もいるが、まったくできない人もいる。だが、みなフレンドリーな人ばかりだ。

他にも、船の中で看護師や美容師として働いている人もいる。また、ヨガの先生や水彩画の先生もいる。彼らも、技能を生かして働くことを条件にタダで船に乗っている。

船の生活ってどんな感じ?

基本的に、毎日青い海と青い空ばかり眺めることになる。地中海以外では島影などほとんど見えない。青い海と白い波、青い空と白い雲ばかり。

それでいて全く飽きないのだから、海というのは偉大だ。

どれだけ地上の景色が変わろうと、海の上の景色は絶対に変わらない。ヴァスコ・ダ・ガマも、カリブの海賊も、インドへ香辛料を求めた商人たちも、旧日本軍の戦艦の兵士たちも、みな同じ景色を見てきたのだ。

船内では毎日いろんな企画が行われている。ピースボート側が用意した真面目な企画から、乗客が自分で企画したくだらないものまで千差万別。「水先案内人」と呼ばれるゲストの講演会をきいたり、ちょっとまじめなワークショップに参加してみたり、音楽やダンスの練習をしてみたり、くだらない企画で仲間同士と笑いあったり、自分で企画をやってみたり。

僕が積極的にかかわった企画は「PBタックル」「フネトーーク!」の二つだ。名前を見ればわかるように、日本のテレビ番組のパロディ企画だ。

PBとはピースボートの略。PBタックルでは本家のTVタックルよろしく真面目な議題を議論するのだが、この企画の軸は、「答えを押し付けるのではなく、議論することを根付かせる」ことを目指すというものだ。

「日本は核武装するべきか否か」という議題では、僕は核武装賛成側に回った。本来は反対側なのだが、反対派の数が多すぎて、そういう「やらせ」をしないと、議論にならないのだ。

すると、これがなかなか面白い。それまでは「核武装などもってのほか!」だったのだが、一回賛成派として反対派の主張を聞いてみると、結構、穴が多い。現在は「核武装は反対なんだけど、それが絶対の正解ではない」という立場をとるようになった。

一方、「フネトーーク!」は基本、完全なバラエティ企画だ。最初は「教育」をテーマに「学校大好き芸人」と「学校大嫌い芸人」に分かれてトークするなど少し真面目要素があったが、3回目にして「ワンピース芸人VSナルト芸人」という、完全なバラエティ企画と化した。

僕はワンピース芸人として出演し、ただひたすら「ワンピースがいかに面白い漫画か」を語った。振り返っても、これが一番、純粋に楽しかった。

他にも、船内では夏祭りや大運動会といったビッグベントもある。

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「見渡せやせぬ……!! それが”世界”だ!!」(ONE PIECE 第82巻55ページより)
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船の8階後方デッキ。プールがあり、9階に上ると「パノラマ」がある。

船室ってどんな感じ?

まず、ぼくは一番安い部屋しか知らない。

一番安い部屋は窓がない。おまけに、4人部屋だ。うなぎの寝床のようなキャビンに、二段ベッドが二つ並んでいる。年の近い人が同じ部屋になる。実際船に乗るまで、誰が同じ部屋になるかはわからない。同室の仲間のことを船内では「部屋メン」と呼び、クルーズの間、共に生活をする。部屋メンがフルでそろっている時は、結構狭い。

もちろん、大奮発すれば個室に泊まれる。

船のごはんってどんな感じ?

先代の船はまずかったらしいが、オーシャンドリーム号のごはんは美味しい。

レストランは3つあって、4階のレストラン「リージェンシー」と9階の屋外スペース「リド」、同じ9階の屋内スペース「パノラマ」の3つのレストランから選べる。和食、洋食、ガッツリ系、ファーストフード風といろいろ選べる。夜のリージェンシー以外は、基本ビュッフェスタイルだ。

ただ、パノラマは夜の営業はしていない。ここは夜になると居酒屋「波へい」として営業している。有料だが、居酒屋メニューが食べられ、いつも賑わっている。

波へいのほかにも、昼は喫茶店、夜はバーとして営業している「カサブランカ」、ピアノ演奏を楽しみながらお酒が飲める「ピアノバー」、カラオケが楽しめる「クラブ・バイーア」などがある。大体、人によって入り浸る店は違っていて、ぼくはカラオケ目当てでバイーアに入り浸っていた(入るだけならただだし)。

ピースボートの合言葉は「船に終電はない!」

また、パノラマは午後3時になるとティータイムになり、洋菓子が食べられる。これが結構な人気である。

船内の意外な人気メニューがカップラーメンだ。カサブランカとバイーアで食べることができる。

地球一周してわかったことが、「日本のカップラーメンが日本人には一番」ということだ。寄港地で買うカップめんは、どれも口に合わない。

だが、このカップめんには限りがある。クルーズ終盤にはどんどん売り切れてしまい、何ともひもじく、さびしい思いをした。

食事についてさらに詳しくはこちら!

毎日がタダで食べ放題? ピースボート船内の食事は実はこんな感じ

船のなかって清潔?

まず、部屋の掃除はハウスキーパーがやってくれる。何も心配する必要はない。

次にお風呂であるが、多くの船室に湯船はない。シャワーがあるのみだ。そのシャワーも4人で1個だから、他の部屋メンのお伺いを立てねばならないが、ぼくは取り合いになったことはない。

お風呂に入りたければオープンデッキにジャグジーがあるが、もちろん水着着用だし、いろんな人に見られる可能性がある。

さて、問題は洗濯である。洗濯の選択肢は二つ。300円払ってクリーニングに出すか、自分で手洗いするか。ぼくはケチなので、自分で手洗いしていた。

船内のお金事情

船内で財布を使うことはない。しかし、お金は使う。売店でおやつを買ったり、酒場でお酒やラーメンを食べたりするのにはお金がかかる。

これらは、首に下げているIDカードがクレジットカードとなって支払うことができる。

このIDカードは寄港地で船に乗り込むときの本人確認に必要なものであり、部屋のカギでもある。

ピースボートの寄港地

ピースボートでは毎回20前後の寄港地に停まる。シンガポールやドバイ、バルセロナといった大都市や、セブ島やタヒチのような楽園、はたまたコトルやベリーズシティ、アピアなどの「どこだよ!」と言いたくなるような場所にもいく。

寄港地ではそれぞれ魅力的なオプショナルツアーがある。定番の名所を巡るものもあれば、その土地の歴史を学べるものや、現地の人と交流できるツアー、アクティビティ系のツアーなどがある。

もちろん、自由行動もできる。お金のない若者は自由行動の方が多い。気の合う仲間と自由気ままに寄港地を旅できる。

ただし、中南米は治安が悪いので、何らかのツアーに参加しないと、命の保証ができない。

僕は、地中海あたりから一人で行動することが多くなった。

一人で歩いていても、小さな寄港地だと誰かしら仲間に出くわす。そこで目的地が一緒ならともに行動するし、行きたい場所が変われば「じゃあ、また船で」と言って別れる。お互い我慢することなく、気ままに旅できるのでこのスタイルが好きだ。

ツアーの中には、飛行機などを駆使して移動するオーバーランドと呼ばれるものがある。また、自由行動でも「離脱」というものが許されている。いったん船を離れ、船ではいかない場所などを巡り、数日して別の寄港地から再び船に乗り込むことができるのだ。人気のあるオーバーランドツアーでごっそり人がいなくなったときは少しさびしい。

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アラビアの世界観は、日本ではなかなか味わえない
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「アドリア海の真珠」と呼ばれる、ドブロブニクの旧市街
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湖ではない。フィヨルドという入り江の朝だ。
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クルーズの終盤に訪れたタヒチのボラボラ島。

ピースボート最大の魅力とは?

ピースボートに乗ったと話すとよく、「どこの国が一番良かった?」と聞かれる。国」と聞かれたので「クロアチアとモンテネグロかな」と国名で答えるが、正直な話、一番良いのは船の中だ。

まず、船から見える青い海と青い空。どこまでも広がる海を毎日見てると、今まで自分がなんて狭い世界に囚われて生きてきたのか痛感させられる。日本なんて世界のごく一部に過ぎず、東京なんてさらにその一部にすぎない。世界には無限の選択肢が広がっていた。

船から見る夕焼けや日の出もこの上ないものだ。海賊対策中には明りを消すので天の川も見える。

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こんな心躍る夕焼けが見たくて、僕らは船に乗る

そして、何よりも108日間共に過ごした仲間の存在だ。横浜を出航した時は、全くの他人だった彼らが、船を降りるころにはかけがえなのない仲間である。

地球一周を終えて横浜で仲間たちと別れる時、口を突いて出てきた言葉は「さようなら」ではなく「ありがとう」だった。

投稿者: ノック

民俗学ZINE作家。 「バズらないモノづくり」をテーマとする「ノンバズル企画」を主宰。民俗学専門ZINE「民俗学は好きですか?」を企画・執筆・製本・販売しています。「民俗学とは『生きること』を探求する学問」をテーマに、民俗学の魅力をわかりやすく、面白く、奥深く紹介していきます。