旅路の果てに ~ピースボートの船旅の後も、僕らは旅を続ける~

ピースボートは「多様性」というのを一つのテーマに掲げている。その言葉が示すように、船旅の後に旅人達の歩んでいく道もまた様々だ。ピースボートで出会った仲間たちは、船旅が終わってもそれぞれがそれぞれの旅をつづけている。今回はそんな旅人達の、船旅という旅路の果てに迫っていきたい。

ピースボートの船旅を終えて① 新たな道に進む者

ピースボートの船旅をきっかけに、それまでの人生とは違う道へと歩む者たちがいる。今まで知らなかった世界を知り、今までとは違うことを学ぶために学校へ行く者。東京に移り住んで新たな生活を始める者。逆に地方に移り住んで、自然の中で暮らし始める者。新たなチャレンジを始める者。自衛隊に入って国民のために働く者。

船旅の話をするとたいていの人がうらやましがってくれる。しかし、そこから自分も船に乗ろうと決断する人は少ない。その理由の一つが、「船を降りたとき、復職できるのか」という問題だ。

しかし、仲間の一人がこんなことを言っていた。

「船に乗ると価値観が変わる」

どこまでも広い海を見ていると、今まで生きていた世界がいかに狭いものだったか思い知らされる。世界のいろんな町でいろんな人々と触れ合うと、日本も所詮は世界の一部にしか過ぎないことを思い知らされる。

船の中でいろんな企画に積極的にかかわっていくと、思ってもみないことで褒められたり認められたりして、自分の新たな可能性の中に気づくことがある。

だから、下船後の人生設計をしっかりと建てて船に乗るというのはあまりお勧めしない。プランそのものが大きく変更されることが多いからだ。船の中でゆっくり考える時間はいくらでもある。

そう言えば、警備員から無職を経て船に乗り、船旅を終えて何を勘違いしたのかフリーライターになった、自由堂ノックという男もいる。彼もまた、新たな道に進んだものの一人だ。

ピースボートの船旅を終えて② それまでの日常に帰る者

船に乗ると、旅に出ると、確かに価値観が変わる。だが、すべての人が新たな道に進むわけではない。

ピースボートには学生も多い。その多くが、大学を休学して乗ってくる。中には、ピースボートに乗ることに単位が出るという奇特な学校もある。こういった学生の多くは、再び大学へと戻っていく。

また、船旅の後、もともとやっていた職業に戻る人もいる。

しかし、もともとの道へ戻っていったとしても、船旅で得た物の影響というものは確実にあるだろう。

新たな道に進む者と、元いた道に戻るもの。どちらが偉い、という問題ではない。

一見すると新たな道に進む方が大変そうに見えるが、元いた道に戻るということは、船旅よりも前に「自分はこの道を行く」と決めていた人たちなのかもしれない。要は、自分の人生を変える出会いが、決断のタイミングが船旅の前か後かという違いなのだろう。

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ピースボートの船旅を終えて③ いまだ、迷い続ける者

すべての人が船旅を終えた後に確固たる道を歩むわけではない。船旅を終えた後も、自分の進むべきが見つからないというものももちろんいる。むしろ、人としてそれが一番自然なのかもしれない。旅で得た刺激はあまりにも多く、そのすべてを消化して自分のものとし、どの道を歩くのかを見定めるには長い時間が必要だろう。

僕自身も、「新たな道に進んだ」とは書いたが、壮絶な決断を下したというよりは、「そこしか行くところがなかった」が本音だ。決めたはいいが、お世辞にも稼いでいるとは言えず、不安は尽きない。船を降りてからの1年、果たしてこのままでいいのか、いまだ答えは出ない。そうして先の見えない道を歩いている僕もまた、迷いの中でくすぶっている。

不安のない人生など面白みがない。不安がある限り迷いは尽きない。だから、答えを急ぐ必要などどこにもない。一つ迷いを抜けても、またすぐに次の迷いがやってくる。どうせ迷いが尽きないのなら、一つの迷いにとことん向き合ってみるのもまた一興だろう。

仲間の一人が、「ピースボートに乗る奴は前向きなプータロー」だと言っていた。迷いながらも、くすぶりながらも、ゆっくりと前に進んでいる。まあそのうち、なんとかなるさ。

 

ピースボートの船旅を終えて④ 夢に向かう者

船旅を終え、かねてからの自分の夢をかなえたもの、夢にチャレンジする者、夢をかなえるための準備を始めた者。

その中には、ピースボートでの地球一周が、夢に一歩近づくために必要なプロセスであった、というものもいる。

夢を追い続けるものと、迷い続ける者。一見、矛盾しているようで、きっと本質は同じなのだと思う。

なぜなら、今の世の中で夢を追うことほど迷いを多く生むことはないのだから。

夢に向かってまっすぐ進んでいたつもりだったけど、振り返ったら同じとこで足踏みしていただけで愕然とする、なんてこともある。

夢があるから迷うもの。夢が見つからずに迷うもの。だが、どっちにしろ歩かなければ迷うことはない。苦しむこともない。迷うということは、自分の足でちゃんと歩いている証なのだ。

ピースボートの船旅を終えて⑤ 船を出す者

船旅を終え、ピースボートのスタッフになったり、提携する旅行会社「ジャパングレイス」に就職したりする者もいる。

逆に、この二つは地球一周経験者しか採用していない。ピースボートに乗らない限り、この二つの組織で働くことはまずないだろう。

船旅を終えたものがピースボートで働く理由は様々だ。確固たる強い目的があるものもいれば、何となく流れで入ったが性にあっていたのかそのまま働き続ける者もいる。

だが、ほとんどの職員が、何か問題意識を抱いている。それは、国際情勢にだったり、日本の現状だったり、その人の歩んできた道によって大きく異なる。

あるスタッフはピースボートをなくすためにピースボートで働いているという。ピースボートなどなくても、みんなが笑顔で暮らせる日が来ることを、もうピースボートは役目を果たした」と言える日を目指して活動している。

こういった社会貢献ができる仕事は、何もピースボートだけではない。船旅を終えた後、よその団体で働き、社会貢献している者もいる。

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ピースボートの船旅を終えて⑥ 旅を続ける者

船を降りてバックパッカーになる者、再びピースボートに乗船する者、日本をヒッチハイクで旅する者。船を降りてなお旅を続けるものはとても多い。

「旅」とは少し違うのかもしれないが、ワーキングホリデーなどで外国で生活する者もいる。厳密な意味では旅ではないのかもしれないが、日本を離れ異国で生活するというのも旅の一つだろう。

言葉の通じない国での生活というのは、一つ一つが冒険だ。買い物の仕方がまるで違ったり、交通事情がまるで違ったり。言葉が通じないから、バス一つ乗るのも怖い。日本ではなかなか見られないが、タクシーの値段交渉なんてしょっちゅうだ。

今、どこどこの旅路にいる、なんて話を聞くと、うらやましさを感じる一方、何か力をもらった気もする。船であれ電車であれ飛行機であれヒッチハイクであれ、旅というのは常に直感を研ぎ澄まし、日々挑戦が続いていくものだ。この旅の中で日々様々な出会いと別れを繰り返す彼らは、本当に尊敬に値する。

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ピースボートの旅路の果てに

こうやって見ていくと、船旅を終えた後、それぞれが進む道は実に様々だ。

だが、ぼくは、それをたった一言でくくることができると考えている。

僕らは、旅人だ。

新たな道に行くもの、元いた道に戻るもの、いまだ迷い続ける者、夢を追うもの、船を出す者、旅を続けるもの。道は様々なれど、僕らは旅人なのだ。

僕らは旅人。まつろわない。とどまることなく、常に移ろい続ける。

新たな道に進むというのは、まさしく旅だ。何物でもない自分が、何かのなろうともがく旅路。その道の先にあるゴールにたどり着く保証なんてどこにもない。

元いた道に戻るというのもまた旅だ。さっきも書いた通り、新たな道に進む者も、元いた道に戻るものも、タイミングの違いでしかない。元いた旅路に戻っただけである。「日常に戻る」と書くと留まっているように錯覚するが、実際のところ、彼らはとどまることなく、自分のペースで歩き続ける。むしろ、すでに自分のペースで旅する方法を知っていたともいえる。

迷い続けるものなど、旅の醍醐味にいるようなものだ。迷いのない旅ほどつまらないものはない。むしろ、道に迷うことが旅人を強くさせる。

フランス・マルセイユで道に迷い、帰船リミット30分前にぎりぎりたどり着いた、なんてことがあった。相当焦ったが、方位磁針ひとつで何とか船に帰りついた経験は相当な自信になった。

迷いのない人生なんて、敵キャラの出てこないドラクエみたいなものだ。どうやってレベルアップしろというのだ。

夢に向かって進むというのもまた、果てしない旅の一つだろう。迷いや悩みは尽きないが、自分で決断し行動する、果てしない旅路の途中だ。

ピースボートで働くというのも旅路の一つにすぎないと思う。仕事そのものが船に乗るというのもあるが、ピースボートの仕事からまた別の目的地を見つけ、新たな旅路へと進んでいく者も多い。やはり、本質は旅人のようだ。

新たな旅を続けるものなど、改めて書く必要などあるまい。旅人だ。

どのような道を選んでも、みな迷い、それでも決断し、何かを求めて、自分のペースで一歩ずつ歩く旅人である。

僕らは旅人。それこそが僕らの本質なんだろうと思う。

投稿者: ノック

民俗学ZINE作家。 「バズらないモノづくり」をテーマとする「ノンバズル企画」を主宰。民俗学専門ZINE「民俗学は好きですか?」を企画・執筆・製本・販売しています。「民俗学とは『生きること』を探求する学問」をテーマに、民俗学の魅力をわかりやすく、面白く、奥深く紹介していきます。