ピースボート地球一周の船旅の魅力

飛行機ならわずか1時間で進む距離を、船旅だと丸1日かけて進む。ピースボートのように地球一周となると3か月ほどかかる。あるものは仕事を辞め、あるものは学校を休学して船に乗る。何がそこまで人を海へ、船旅へと駆り立てるのだろうか。今回は、乗った人にしかわからない、ピースボート地球一周の船旅の「魅力」に迫ってみる。

ピースボートの船旅への誤解

スイートルームに泊まり、シャンパン片手にキャビンの窓から水平線に沈む夕日を眺める。夜にはドレスを着て高級レストランで、豪華フルコースと素敵な音楽に舌鼓を討ちながら社交パーティに興じる。

そんな豪華絢爛な船旅に魅力を感じているのなら、ぜひ頑張ってお金をためて飛鳥Ⅱに乗ってほしい(笑)。

我らがオーシャンドリーム号でも、奮発すればいい部屋に泊まれるし、「リージェンシー」という立派なレストランもある。部屋でシャンパンは飲めるかどうかは知らない(寄港地でお酒を買っても、船に預けなければいけない)。

しかし、豪華絢爛船の旅を想像していると、乗った後でがっかりするという話をよく聞く。

オーシャンドリーム号は「地球一周できる客船」ではあるが、「豪華客船」ではない。

若者も多く、「海の上の合宿所」、よくて「海の上のビジネスホテル」である。

いきなり悪口から入ってしまった。まあ、当然である。

船に限らず、人も組織も国も、知れば知るほど良い面も悪い面も見えてくる。悪い面が全く見つからないなんてことはあり得ず、その悪い面に折り合いをつけて僕らはうまくやっていく。

人でも組織でも国でも、「すべてが好き」だったり「すべてが嫌い」などという人は、実は「何も知らない」と言っているのと同じなのだ。

いろいろ長くなったが、ピースボートの船旅は決して豪華な旅ではない。ピースボートの船旅の魅力は、「そこ」ではないのだ。

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船内はこんな感じ

ピースボートの船旅の魅力① 異国がすぐそこに

ピースボートの船旅に限らず、船旅の魅力の一つはなんといっても、飲んで食って起きたらもう外国」という点だろう。四角大輔さんの言葉を借りれば「Door to door」

バスや電車、飛行機でも飲んで食って寝ることはできるが、狭い椅子に座りっぱなしであまりリラックスはできない。ずっと座ってただけなのに、気づけばぐったり疲れている。

船の場合、それはない。船内は自由に歩けるので、好きな場所でのんびりと羽を伸ばすことができる。キャビンで寝ていてもいいし、ジムで汗を流すのもいい。フリースペースでソファに持たれながら仲間とおしゃべりするというのは、船内でよく見かける光景だ。

そして、朝起きたら、そこはもう異国の港である。モンテネグロではフィヨルドの山々に当たりを囲まれ、パナマ運河では目の前にジャングルが広がり、タヒチでは朝起きたら楽園だった。

僕自身、最初の寄港地セブ島では10年ぶりの海外ということで少し緊張していたが、最後の寄港地サモアでは財布も持たずに散歩気分で外を歩いていた。外を歩いてから「そういえば、ここ外国だった」と気付いたくらいだ。

「朝、起きたら異国」。そんな経験を繰り返すうちに、異国が身近になっていく。これが船旅の魅力の一つだ。

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タヒチ・ボラボラ島。船内で朝ご飯を食べながら。

ピースボートの船旅の魅力② 船からの絶景に価値観も変わる

「誰も見たことがない景色」というのはどこにあるのだろうか。

人類がいまだ到達していない、月よりさらに向こうの景色など、まさにそれだろう。だが、何も「人類史上誰も見たことがない景色」でなくても、「現代人のほとんどが見たことない景色」というのがある。

船旅はまさにそれだ。飛行機の登場以前は、「海外」といえば文字通り船に乗っていくのが当たり前だった。それは島国である日本だけでなく、遠くへ行こうとすれば、船に乗らなければいけなかったのだ。国内の移動でも汽車や電車が登場するまでは船が最も一般的な乗り物だったのだ。

交通網の発達で船旅をする人は希少になってしまった。

だからこそ、僕らは海に恋い焦がれる。船の上から見る景色はどんなものか、船に乗る前には想像もつかなかった。

船の上から見える景色は、毎日青い海と青い空ばっかり。だが不思議と飽きることがない。

どんな陸上の景色が変わっても、海の上の景色は何万年も前からずっと変わらない。古代ギリシャの商人も、大航海時代の探検家も、カリブの海賊たちも、戦艦大和の乗組員たちも、すべて同じ青い海を見てきたのだ。

青い空、青い海、夕日、朝日、星空。眼前をゆっくりと通り過ぎていく、名前も知らない島。価値観を揺さぶる風景など、一生忘れられない景色など、いくらでも見れる。

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坂本龍馬も、ナポレオンも、コロンブスも、きっとこんな景色を見ていたのだろう。

ピースボートの船旅の魅力③ 船の中の暮らし

船の中では様々なイベントがある。ピースボート側が用意するものもあるし、自分で企画することもできる。旅人の中には、船に乗る前から船内でチャレンジすることを決め、準備をしてきたものもいるくらいだ。

船の中ではなんだってできる。音楽活動だったり、ダンスだったり、美術作品制作だったり、映像制作だったり、イベントの企画・運営だったり、本当に何でも。

そして、旅人達は仲間のチャレンジを常に受け入れてくれる。陸の上では指差されて笑われそうなことでも、船の中では必ず誰かが面白がり、応援してくれる。

本当に不思議な空間だ。これこそが、ピースボートの船旅ならではの魅力だろう。

あるスタッフは、船に乗る前に「船は積極的じゃないと楽しめないよ」と言っていた。また、あるスタッフは「立場的には何度も船に乗ってほしいんだけど、個人的にはこう思っている」と前置きしたうえで「これが一生のうちで最後の地球一周だと思った方がいい」と言っていた。

船の中では決して受け身では楽しめない。至れり尽くせりの豪華客船が望みなら、悪いことは言わない。飛鳥Ⅱに乗りなさい。

そして、船の中でやりたいことがあったら、やり残してはならない。某麦わらの海賊は「気に食わなかったらもう一周する」などと言っていたが、「もう一周」などないと思って乗るべきだ。

そうでないと、楽しめない。「これを逃したら、もうこんなことするチャンスなんてない」、そう思うことだ。

投稿者: ノック

民俗学ZINE作家。 「バズらないモノづくり」をテーマとする「ノンバズル企画」を主宰。民俗学専門ZINE「民俗学は好きですか?」を企画・執筆・製本・販売しています。「民俗学とは『生きること』を探求する学問」をテーマに、民俗学の魅力をわかりやすく、面白く、奥深く紹介していきます。