ピースボートのボランティアスタッフになったらこんな毎日だった

ピースボート地球一周の船旅の特徴。その一つがボランティア割引制度だろう。僕はこの割引をためるボランティアスタッフ(通称「ボラスタ」)として8か月活動した。外からはなかなか見えてこないであろう、ピースボートのボラスタがどんな毎日を送っているのか、どんな思いでポスターを貼っているのかを書いていこう。


ピースボートのボランティア割引制度とは?

「ボランティア」といっても、ゴミ拾いなどをしているわけではない。

感覚としては、アルバイトに近い。

NGOピースボートの活動を手伝うことにより、バイト代が支給されない代わりに、働いた分だけ乗船費が安くなるという制度だ。ボランティア割引、通称ボラ割という。

30歳未満なら、最大で全額割引き、タダで乗ることができる。これを「全クリ」といい、全クリした人を「全クリスト」という。

僕も全クリストだ。だから、ピースボートに乗船費は1円も払っていない。

30歳以上の場合、割引きは半額までしか適用されない。これは、ピースボートが若い世代に世界を見てもらいたいという理念を持っていて、なるべく若い人に乗ってもらいたいからだ。

ボラスタには比較的若い世代が多く、学生やフリーターが多い。

ボランティア割引① ポスター貼り

ここからはボラスタの日常について見ていこう。

まず最初に書かなければいけないのが、僕は「ボランティアセンターおおみや」しか知らない。大宮ボラセンは今はないので、他のピースボートセンターに行くと、「あれ、話と違う」ということがあるかもしれない。そこをわかったうえで読んでほしい。

ボラスタが行う活動のメインがポスター貼り、通称ポス貼りだ。

ピースボートのポスターを街中で見たことがある人は多いだろう。このポスターは、ボラスタたちがせっせと貼っている。

3枚で1000円分の割引がたまる。1日で1万円分、うまくいけば2万、それ以上ためることができる。1件1件を店を回り、頭を下げ、ピースボートの活動を説明し、交渉し、時に怒られ、時に励まされながらポスターを貼っている。

朝の10時に事務所が開き、まずは今日のエリアを決める。自分で選べるところもあるらしいが、大宮は規模が小さい分、ピースボート職員とボラスタの距離が近く、職員がボラスタの力量を把握していたので、職員がそれぞれの力量にあった場所を選んでくれていた。

エリアが決まったら電車に乗ってその町に行く。そしてひたすら歩き、お店に入り、交渉して、ポスターを貼る。場所によっては夜遅くまでかかることもある。

ただ、人によって得意不得意がある。やはり、営業経験のある人が優位のようだ。ただ、ポス貼りを続けていく中で交渉の技術を鍛えた人もいる。

また、体力も必要不可欠だ。毎回約2万歩近くを歩く。

さらに、冬は寒いからっ風にさらされ、梅雨時には雨に打たれ、夏には(特に僕の活動していた埼玉ではより一層)暑い日差しに汗も乾き、体に噴き出た塩がこびりついている、なんてことも。

雨にも負けず、風にも負けず、雪にも、夏の熱さにも負けない丈夫な体が必要だ。ん? どこかで見たことのある文章だ。

その上、精神力も必要だ。営業中のお店にって「ポスターを貼らせてください」などといっても、断られるのが普通だ。何軒も連続で断られたり、心無い人に罵声を浴びせられたり。「心が折れた」なんて日常的に使う言葉だ。

そんな思いをしてまでなぜポスターを貼るのか。

そこに、どうしても叶えたい夢があるからだ。

どうしても見たい景色がある。どうしても行きたい場所がある。

だから、僕らはポスターを貼る。

ボラスタの活動をしていれば、船に乗る前から仲間ができる。一人ぼっちで船に乗ることがなくなるのだ。

また、悪い人がいれば同じくらい、いや、悪い人なんかよりもずっと多く、励ましてくれる人たちがいる。そんな人に出会えるのが、何よりの喜びだ。

「今日もまたどこへ行く。愛を探しに行こう」

 

ボランティア割引② 内勤

このポスターを準備することでもボラ割をためることができる。ポス貼りと比べれば額は少ないが。

ポス貼りと違い室内で行うので、「内勤」と呼ばれている。

全国の事務所によってやり方は変わるが、大宮では次のようなことをやっていた。

まず、ポスター貼りに使う両面テープを準備する。5㎝ほどに切りそろえるのだ。

準備が終わったら、それをポスターに貼っていく。全部で9か所。こうすれば、現場ではテープの紙をはがすだけだ。

10枚ポスターができたら、丸めて輪ゴムで止める。その繰り返し。ポスター以外に、ポスターに張り付けるチラシも準備する。

単純作業だが、仲間たちとおしゃべりをしながら作業できる。ポス貼りと比べて肉体的疲労もない。時間も自分の都合に合わせて作業できる。

こちらは、年配の人がやることが多いが、若いボラスタも内勤をする。

ボランティア割引③ 船内見学会

ピースボートでは年に3回くらい、全国の港でオーシャンドリーム号の見学会を行っている。その受付を手伝うこともボランティア割引の適用内だ。

しかも、休憩時間に船内を見学することができる。いつか「我が家」となる船を見学するのはとてもテンションが上がる。

また、船が帰ってきたときにもボラスタの出番はある。船から降りてくる人たちは、歩いて持ち帰るのが無理なレベルの荷物を抱えて降りてくる。そういった荷物は宅配で自宅へと送られるのだが、その際に佐川急便さんのお手伝いをするのだ。

こういったピースボート全体を上げたイベントは、普段はあまり接点のないよそのピースボートセンター所属のボラスタと交流できる貴重な機会の一つだ。

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オーシャンドリーム号 in タヒチ

ボランティアスタッフの日常① 定例会

どこのピーセンでも、週に1回定例会を行っている。大宮ボラセンでは「さいた丸」という名前で毎週水曜日に行われていた。

定例会開催の名目上は連絡事項の伝達だが、親睦を深めるという意味が大きい。

職員がせっせと作ってくれたこだわりの料理をみんなで食べ、連絡事項が終わったら、楽しいイベントの時間。さいころトークのようなレクレーションをやったり、時にはゲストが来たりする。

乗船を控えたメンバーがいるときはいってらっしゃいパーティ、略して「いってらっぱ」が開かれる。いわば、ボラスタの卒業式だ。

このような定例会以外でも、ポス貼りが終わったらすぐ帰るボラスタというのはあまりいない(終電の都合などで早く帰る人ももちろんいるが)。事務所に残り、地球一周という夢を語り合う。そんな毎日だった。

ボランティアスタッフの日常② P-1グランプリ

数か月に一度、p-1グランプリという大会が開催される。全国のピーセンごとに、1週間のポス貼りの成果を競い合うのだ。

とはいえ、「枚数」では日本一の商業都市である東京と埼玉では勝負にならない。それぞれのピーセンごとに目標枚数が設定され、その枚数に対する「伸び率」を競い合う。

P-1の週になると、ボラスタも職員も7日間身をすり減らしてポスターを貼りまくる。その分、目標を達成した時の達成感は半端ない。

普段は一人で貼るもの、自分との戦いだが、P-1になると「自分が手を抜いたら目標を達成できないかもしれない」というチームへの責任感を感じるようになる。

いつもよりも枚数を稼げるエリアに行くことができるので、ポス貼りの腕をレベルアップさせる絶好の機会でもある。

ボランティアスタッフの日常③ アルバイト

ボラスタとして活動しても、1円ももらえない。だから、多くのボラスタはアルバイトで生計を立てている。

正社員の仕事をしながらボラスタとして活動することもできる。ボラスタとしての活動は、完全に自分のペースで進めることができるのだ。都合のいい時だけピーセンに顔を出せばよい。

ただ、全クリを目指すのであれば、バイト生活の方が多くの時間を割ける。

僕の経験上、このようなバイトがおすすめだ。

週末のバイト ポス貼りは日曜が休みなので、僕は平日はボラスタをメインに、週末はバイトをメインに活動していた。ボラスタの方が融通が利くので、バイトのシフトと自身の体力に合わせて週に3~4日ほどポス貼りをしていた。

夜勤のバイト 夜勤をメインにバイトをしていれば、日中は内勤をして、夜はバイトという風に1日を使うことができる。バイトではかなり体力を使ったが、内勤は体力を使わないので両立できた。ただし、深夜の夜勤だと生活リズムがくるってしまうのでお勧めできない。

すぐやめれるバイト どうせ、船に乗るときにやめるのだ。すぐやめられるようなバイトがいい。

ボラスタの日常④ 休日

大宮ボラセンでは、月に1度みんなでどこかへ出かけていた。

鴨川シーワールドやディズニーランドをはじめとした遊園地や、電車に乗って秩父に行ったり。

印象に残っているのが、みんなで日野に行ったことだ。

大宮ボラセンには幕末好きが多く、新選組ゆかりの地、日野に行き、資料館をはじめ、新選組にまつわる場所を回って歩いた。資料館では新撰組の浅葱色の服や、土方歳三の洋装のコスプレをして記念写真を撮って楽しんだ。

このほかにも、乗船を間近に控えた仲間がいる場合は、お別れ会を兼ねてどこかに出かけたりする。

また、平日に堂々と休めるのもボラセンの特権である。平日に堂々とディズニーランドに行ったこともある。

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こんなコスプレをして楽しんだ。 出典:http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/17/a2/38e86c360372d82c1f397c07f9e9972b.png

ボラスタとは不思議な縁だ。年代も経歴も将来の夢すらも違う人たちが、一つの場所に集まり、夢を語らいあう。彼らをつなぐ絆はただ一つ「地球一周にロマンを見た」

夢を追いかけ、仲間たちと語り、笑いあったかけがえのない日々。「俺たちのドラマは今、最高に視聴率が熱いところなんだ!」が合言葉だった。

「閉塞感」という言葉が恐怖の大魔王のように支配している昨今、ピースボートの事務所のように、「勇者の酒場」となるべき場所が必要なんだと僕は思っている。

ポスター貼りのもっと細かい実態についての記事はこちら!

経験者にしか絶対にわからない!ピースボートのポスター貼り喜怒哀楽!

投稿者: ノック

民俗学ZINE作家。 「バズらないモノづくり」をテーマとする「ノンバズル企画」を主宰。民俗学専門ZINE「民俗学は好きですか?」を企画・執筆・製本・販売しています。「民俗学とは『生きること』を探求する学問」をテーマに、民俗学の魅力をわかりやすく、面白く、奥深く紹介していきます。