経験者にしか実態はわからない!ピースボートのポスター貼り喜怒哀楽!

「ピースボートでポスター貼ってた」というと大半が「すごい」と言ってくれる。だが、その実態は、あなたの想像よりはるかに面白く、はるかに大変だ。ピースボートの乗船を目指す者たちは、いったいどんな思いでポスターを貼っているのだろうか。ネットには様々な風評が渦巻いているが、こればっかりは、経験者でないと語れない。


ピースボートのポスター貼り「楽」

まず最初に、「ラクな話」ではなく「楽しい話」である。

ラクなはずがない。

だが、ポスター貼りは楽しい。

まず、いろんな町に行けるという楽しみがある。

これまで行った中で最も都会だったのは、聖地・秋葉原だろう。あんまり枚数は稼げなかったが。

一方、一番田舎だったのは東武東上線で行った寄居町だろう。季節は春先だったと思う。緑のトンネルの中を電車が駆け抜けていく様は、ピクニック気分にさせる。町並みも古く、人柄もよく、ポスターもよく貼れた。

埼玉は街道沿いの街が多く、川越をはじめ意外と古い町並みが残っているので、そういうのが好きな人には、結構たまらない。

そしてお楽しみはポスター貼りが終わった後にもある。仲間たちと食卓を囲み、地球一周の夢を語り合う。

たまに勢い余ってカラオケに行ったり。休日にみんなでどこかへ遊びに行ったり。世代やそれまでのバックボーンを越えた交流が何よりも楽しい。

ピースボートの魅力の一つは、旅の前から仲間たちとともに楽しいひと時を過ごせる、というところでもあるだろう。もちろん、その絆は旅の後にも続いていく。

また、自分の頑張りが数字という形でわかりやすく表れるのもまた楽しい。

とまあ、これだけ「ピースボート楽しいよ」って話をしとけば、これからさきの話にも耐えられるだろう。ついてこれるかな、フッフッフ。

ピースボートのポスター貼り「哀」

ポスター貼り経験者は口をそろえてこういうだろう。「あのころは楽しかった」と。

また、口をそろえてこうも言うはずだ。「よくあんなことやってたよね」と。

ポスター貼りは決してラクではなく、とにかく、体はきつく、心は折れる。

最大の敵は何といっても天気だ。

まず、冬。

冬に関しては埼玉は、雪が降らないだけましだろう。

しかし、冷たいからっ風が吹く。これがかなり体力を削り取る。まるで、体の芯から熱を奪っていかれたかのようだ。

さらに、屋外でポスターを貼るときは、風にあおられてポスターが飛ばされる、なんてことも。東京のど真ん中で風に飛ばされたポスターを追っかけたこともある。

冬が過ぎて春がやってくると、つかの間の春が訪れる。春はいい。気候は暖かく、花は咲き乱れ、絶好のお弁当日和だ。

それが過ぎると、梅雨がやってくる。雨もまたきつい。

雨は体力を奪うだけでなく、雨に濡れた壁はポスターが貼りずらい。

雨の中、整備工場のトタンの塀にポスターを貼ろうとしたことがある。普段なら10秒もあれば終わるのだが、濡れた壁に両面テープがくっつかず、しこたま時間がかかった(それでも貼るのを断念したことは一度もない)。

そして、梅雨が明けたら夏が来る。埼玉の夏は、暑すぎて太陽から人類への殺意を感じるほどである。こまめな水分補給が欠かせない。

汗をかき、さらに暑さのあまり汗が渇く。すると、皮膚に乾いてできた塩がざらざらとついているのだ。

僕は夏の時期はバンダナをしてポスターを貼っていた。公衆トイレなどでこのバンダナを濡らして暑さをしのいでいた。

今までで一番きつかったのは、埼玉大学近辺で貼った時だろう。

雨と風が同時に来たのだ。

かなりのどしゃ降りだったのだが、傘をさすと強風で煽られて歩けない。結局、ぼくは傘をさすのを諦め、濡れながら歩いた。

さらに、それから3か月後、再びこの場所にポスターを貼りに行ったところ、まったく同じ天候だった。この時僕は、神様っているのかも、と思った。もちろん、悪い意味で。

そして、つらいのは天気だけではない。

ポスター貼りは、毎日何百というお店を尋ねる。

これは、断られる確率の方がはるかに高い。当然だ。見知らぬやつがいきなり店に来て、営業中にもかかわらず(営業中じゃないと入れないんだけど)ポスターを貼らせてくださいと頼むのだから。貼らせない方が普通だろう。

10軒以上断られ続けると、心が折れることもしばしばだ。

体力い的な意味では悪天候がきついが、精神的な意味では断られるというのがきつい。

それでも、ほとんどがやんわりとお断りをしてくれるので、心は折れるが傷つきはしない。

ピースボートのポスター貼り「怒」

しかし、中には、腹が立つとき、心が傷つくときもある。そんな時は自分にこう言い聞かせる。

「ケンカしたら負けだ」

ボランティアスタッフとはいえ、ポスター貼りの現場ではピースボートの代表である。自分の評判がそのままピースボートの評判へと変わる。

もし、自分がトラブルを起こしてしまったら、自分だけではなく、仲間や、自分より後に船に乗る者たちに迷惑をかけてしまう。

誰かの選択肢を奪うような真似だけは、絶対にしてはいけない。

ピースボートのポスター貼り「喜」

体力を削り、心折れて傷つき、そうまでしてポスターを貼るのはなぜなんだろう。

もちろん、夢のため、お金のためだ。

だが、決してそれだけでもない。

実は、腹が立つ場面なんて数か月に1回あるかないかで、それ以上にはるかに協力的な人の方が多いのだ。

そんな優しい人たちに出会えるから、僕らはポスター貼りを続けられる。

「若いうちに世界を見た方がいい」と言っていた自転車屋のおじさん。

「私はあんたたちのことを応援してるんだよ」と言ってくれた居酒屋のおばちゃん。

「孫に乗ってほしい」と言って貼らせてくれた美容院のおばさん。

暑いさなか道を歩いていて、ふと目があった瞬間に「兄ちゃん、休んでけ!」といった雑貨屋のおじさん。

快く3枚も貼らせてくれただけでなく、他の店に入ろうとしたら通りの向こう側から大声出して、「兄ちゃん、その店はだめだぁ! 隣の店いきな!」と言ってくれた八百屋のおばちゃん。

かつて船に乗っていたらしく、「いくらでも貼っていきなよ」と言ってくれた美容師さん。

「ピースボートだから貼らせるんだよ」と言ってくれたお花屋さん。

「貼らせてあげられないのが申し訳ない」と言っておやつをくれたラーメン屋さん。

夏の暑いさなか、コーラをごちそうしてくれたスナック。

決して、忘れるものか。

ポスター貼りをやって気づいたのが、

なんだかんだ、日本人は優しい、ということだ。

ピースボートのボランティアで出会った、心の温かい日本人たち

僕らはそんな人たちの善意におんぶにだっこで旅をする。優しい人の力で旅に出るわけだ。

たまに、よく知らずに上辺だけの知識で「ピースボートは反日だ」という人がいるが、冷静に考えてほしい。

日本が嫌いな人間に、日本の街で頭を下げてポスターを貼り続ける、なんて芸当ができるわけがない。

僕たちは、この国に住む人々の優しさを肌で知っている。ネットのうわさなど、単なる0と1のデジタル信号でしかない。『世界』は、自分の目で見たものしか、自分の肌で感じた者しか、存在しないのだ。

だから、僕の言いたいことはただ一つ。

こんなブログなんて信じないで、自分の目で、自分の肌で、世界を、日本を確かめてくれ。

投稿者: ノック

民俗学ZINE作家。 「バズらないモノづくり」をテーマとする「ノンバズル企画」を主宰。民俗学専門ZINE「民俗学は好きですか?」を企画・執筆・製本・販売しています。「民俗学とは『生きること』を探求する学問」をテーマに、民俗学の魅力をわかりやすく、面白く、奥深く紹介していきます。