ピースボートの海賊水域で自衛隊護衛の矛盾の実態を参加者がツッコんでみた

ピースボートを取り巻く問題の一つが、「海賊警戒水域での自衛隊護衛問題」だろう。自衛隊に否定的な立場をとっていたピースボートが護衛をつけてもらっていいのか?そこで、今回はまず海賊警戒水域について基本的なことを学んでから、この問題について考えてみよう。ピースボート、覚悟しろ(笑)


そもそも、海賊水域での自衛隊派遣問題とは?

世界の海には「海賊警戒水域」というのがある。その名の通り、海賊による襲撃を受ける可能性が高い水域のことだ。

そして、海賊が多いことで有名なのがソマリア沖である。

ピースボートの船がこのソマリア沖を航行する際、海上自衛隊に護衛をしてもらっているのだ。

その証拠写真がこちらだ。

私が撮影しました

さて、自衛隊に護衛してもらって何が問題なのかと言うと、

ピースボートは自衛隊の海外派兵に反対していたというところにある。

ハフィントンポスト紙によると、2009年の取材時に護衛を申請したのはピースボートではなくジャパングレイスだとしたうえで、そもそも海上自衛隊ではなく海上保安庁に要請したと説明。そして、「主張とは別に参加者の安全が第一」と述べている。

ピースボート、海上自衛隊の護衛艦でソマリア沖航海 「主張とギャップの声」 The Huffington Post

「主張とは別に」と言うことは、つまり、自衛隊の海外派遣に反対する主張を掲げている、と言うことである。

これが、「海外派兵に反対していたのに守ってもらうんかい!」と批判の的になったわけだ。

ちなみに、海上保安庁もソマリア沖での海賊対策は行っているが、その内容は「海上自衛隊の護衛艦に同乗する」なので、海上保安庁に護衛を要請しても、結局やってくるのは海上自衛隊の護衛艦である。

海賊対策 海上保安庁

海賊水域の基礎知識

ところで、読者の皆さんは海賊警戒水域と呼ばれるところへ行ったことはあるだろうか。

実は、海賊警戒水域はかなり広い。

ピースボート88回クルーズでは僕の記憶が正しければ、インドのムンバイからスエズ運河に入る直前までが海賊警戒水域だった。日数にしておよそ2週間

海賊警戒水域では具体的に何をやるのかと言うと、夜はカーテンを閉め、光が船の外に漏れないようにする。要は、「あそこに船があるぞ!」とばれないようにするのだ。

後は海賊対策の避難訓練だろう。もっとも、乗客は自分の部屋に戻って決して外に出ないこと以外にやることはない。海賊が乗り込んできても、決して「俺はオールブルーを見つけるんだ!」とかなんとか言って相手の船長の足にかみついてはいけない。

それ以外には、乗客の目から見た範囲では特に変わったことはない。

特に変わったことがなかったということは、私はその2週間の間、一隻の海賊船も見たことがないということだ。ソマリア沖でも命の危険を感じたことはおろか、不審な船すら見たことがない。見た船と言えば海上自衛隊の護衛艦くらい。

海賊なんてそんなめったやたらに出会うものではない。大体、船にはレーダーがついているのだ。不審な船があれば近づく前にわかる。

そもそも、どういう海賊が襲ってくるか、読者の皆さんは知っているだろうか。

イメージはこんな感じだろうか

 

だが、実際はこんな感じらしい。

 

ちなみに、35000tの我らがオーシャンドリーム号はこちら。

11階建て、総重量は35000tである。ちなみに、この写真は前半分であり、当然これに後ろ半分がつく。

どうやってぼろ船がこのオーシャンドリームを攻略するのか、逆に教えてほしい。

もっとも、海上自衛隊によると近年、ソマリアの海賊はマシンガンだのロケットランチャーだので武装しているらしい。

ただ、2005年以降、ソマリア沖で客船が襲撃されたケースはたったの1件のようだ。それも、占領されたわけではなく、ロケット弾の被弾による船体の破損である。

ソマリア沖にて海賊に襲撃された船舶の一覧 wikipedia

客船というのは海賊にとって、よほどうまみがないか、よほどハイリスクかのどちらかであろう。

ちなみに、こちらは2007年に海賊に捕まって解放された日本所有のタンカー「ゴールデン・ノリ」である。

オーシャンドリーム号と比べると、だいぶ小型である。もちろん、大型のタンカーも襲撃を受ける。

というわけで、海賊警戒水域で2週間旅をした私の見解は、「そんな怖い所じゃないよ」である。

とはいえ、世界一海賊の多い海であることは間違いなく、実際に被害も出ている。日本の船も被害にあっている。

そのため、海上自衛隊は2017年2月現在、護衛艦を一隻ソマリア沖・アデン湾に派遣し、年間約1600席通行する日本の民間船を守っている。

つまり、ムンバイから紅海までの長い海賊警戒水域の中で、ピースボートが自衛隊に護衛してもらっているのはソマリア沖・アデン湾という最も危険な水域に限定されている。海賊警戒水域の8割は、護衛艦なしで航行している。

ピースボートが自衛隊に守ってもらっているのは、やっぱり矛盾している

さて、確認できた事実は以下の通り。

①ソマリア沖・アデン湾では海賊による襲撃が多発している。中には未解決・拘束中となっているものも多い。 ソマリア沖にて海賊に襲撃された船舶の一覧 wikipedia

②自衛隊は海賊対処法に基づき、ソマリア沖・アデン湾の水域を通行する日本の船を護衛している。 海賊対処への取り組み 防衛省 統合幕僚監部

③ピースボートのオーシャンドリーム号は、ソマリア沖・アデン湾のみ自衛隊による護衛を受けている。(視認済み)

④ピースボートは自衛隊の海外派兵に反対しており、③の事実はピースボートの主張に反している ピースボート、海上自衛隊の護衛艦でソマリア沖航海 「主張とギャップの声」 The Huffington Post

なるほど。確かにピースボートの行動は矛盾している。

ただ一方で、この事実も見過ごせない。

⑤客船が海賊に襲撃された事例はほとんどない。 ソマリア沖にて海賊に襲撃された船舶の一覧 wikipedia

⑥海賊警戒水域にいた2週間の間、一隻の海賊船も見ていない(経験談)

⑦海賊警戒水域の大半は護衛なしで航行している(視認済み)

このことから、私のこの問題への個人的見解は以下の通りだ。

たぶん、護衛してもらわなくても、客船であるオーシャンドリーム号が襲撃を受ける可能性は低い。護衛を外してピースボートへのツッコみどころを一つ減らしてみてはどうか。

僕個人としては、自衛隊の海外派兵には特に意見はない。ただでさえ「日本は金しか出さない」と言われているのだから、憲法9条の範囲であれば派兵しても構わないと思っている(集団的自衛権はまた別の話なので、ここで意見を述べるつもりはない)。

ただ、護衛を外したら外したで問題があるのだ。

高確率で襲撃されるだろう。

海賊ではなく、クレーマーの。

外からではない。船の中から襲撃されるのだ。

「ソマリア沖で自衛隊の護衛を断るなんて、俺を殺す気か!」

新たな事実として⑧日本ではクレーマーが問題となっている クレーム wikipediaを挙げたい。

この手のクレーマーは自分の要求が通るまで折れることを知らない。「自分の意見は絶対に正しい」と思い込んでいるからだ。

日本社会でクレーマーが問題になっているなら、当然日本人が多い船の中にもクレーマーは存在するはずである。むしろ、いない方が怖い。

こういうブログを書いているとつくづく考えさせられるが、このような考え方はかなり危ない。「もしかしたら間違ったこと書いているかも。もしそうだったら、誰か訂正してくれ」ぐらいの不安感を抱きながら書くのがちょうどいい。

そうでないと、考え方が偏り、修正が効かなくなってしまう。

船はゆらゆら揺れているうちは沈むことはない。恐ろしいのは、傾いたまま元に戻らない場合である。

ところが、この手のクレーマーは傾いたまま元に戻らない。そうなると、「客船はほとんど襲われない」だの、「ほとんどの海賊警戒水域は護衛なしで航行している」と言った客観的なデータは意味をなさない。左脳で判断してくれないからだ。

海賊に遭遇するより、クレーマーに遭遇する確率の方がはるかに高いのだ。

この世で一番理不尽なのは海賊ではない、消費者と乗客と通行人である。

また、クレームを入れてくるのは船の客だけではない。おそらく、護衛を断った際のThe Haffington Postと産経新聞には次のような見出しが躍るであろう。

「ピースボート、海賊が横行するソマリア沖で自衛隊による護衛を拒否! 1000人の乗客の命より政治主張を尊重?」

うむ、我ながら、センセーショナルな見出しだ。

どうせ、誰かから批判されるのである。護衛をつければチキンと笑われ、護衛を外せば人命軽視の汚名をすする。

一体、ピースボートの何をそんなに恐れているのか。設立者の一人がのちに国会議員になってはいるが、本質は一民間団体にすぎないというのに。

要は、「安全だが批判される道」「危険なうえ批判される道」しかないのである。

この二者択一で「危険なうえ批判される道」を選ぶ奴がいるのだろうか。

どうせ批判されるなら『安全だが批判される道』を選ぶのが賢明な判断であろう。

公式にはもうピースボートは「海外派兵反対」を掲げていないらしいが、前言撤回と言うのはあまり効力がないらしい。政治家の「撤回します」が「どうせ本心は違うんだろ?」と解釈されるのと一緒である。

ちなみに、ツイッターを見ていたら、「船の乗組員の安全を考えてのことじゃない?」という意見があった。

確かに、オーシャンドリーム号の運航会社は「シーホークコーポレーションリミテッドインク」と言う全くの別会社だ。ピースボートはこの会社と「年間チャーター」と言いう形で要は船を借りている。今は船の側面にでかでかと「PEACE BOAT」と書かれているが、契約が切れたらこれも消されるであろう。

船内で働くクルー、つまり、部屋の掃除をしてくれたり、料理を作ってくれたり、船を動かしてくれる人のほとんどはこの会社に所属している。インドネシア人が多い。

いくらピースボートが『海外派兵反対』と言っても彼らには関係ない話。それで彼らを海賊の危険にさらすわけにはいかないだろう。そもそも、ほとんどが日本人ですらない。

確かに、ピースボートのやっていることは矛盾している。だが、政治的に筋を通したところで、どうせ批判されるのだ。だったら、矛盾を抱えてでも安全な道を選ぶべきではないだろうか。

海賊警戒水域の真実

海賊警戒水域では船の外に明かりが漏れないようにする。

つまり、オープンデッキの明かりもすべて消すのだ。

その結果何が起こるのかと言うと、星がよく見える。

僕が生まれて初めて「これが天の川か」とはっきり確認できたのは、この海賊警戒水域であった。

世界中の海を回ったが、世界一危険な海が世界一星がきれいだった。

この世界は矛盾で満ちている。

 

~追記 2018.6.29~

それでもやっぱり、ピースボートは一回どっかで、この問題にちゃんと向き合うべきだと思う。確かに今は「自衛隊派兵反対」は掲げていないが、その辺もなんかなあなあになっている気がするし、団体として「自衛隊派兵反対を撤回したこと」「恥を忍んで海上自衛隊に護衛を依頼していること」の2点を、正式な発表として出すべきではないかと思う。記者会見を開くなり、HPのわかりやすい所に掲載するなりして。

僕は「目的を達成するためにはどんな手段をとっても構わない」なんて絶対に思わない。乗客の安全は最優先だが、そのためにもやはり通すべき筋っていうのはあると思う。ピースボートがこの問題に対して何らかの声明を出せば、その内容がどうであれ、必ず何らかの批判の声は上がると思う。ただ、それでも、団体としてきちんと経緯の説明を行うことが通すべき筋なのではないだろうか。いかに人名再湯煎とはいえ、その辺をなあなあにするべきではないと思う。

投稿者: ノック

民俗学ZINE作家。 「バズらないモノづくり」をテーマとする「ノンバズル企画」を主宰。民俗学専門ZINE「民俗学は好きですか?」を企画・執筆・製本・販売しています。「民俗学とは『生きること』を探求する学問」をテーマに、民俗学の魅力をわかりやすく、面白く、奥深く紹介していきます。