『サクラクエスト』の描く町おこしの本質 彼女たちが間野山に留まる理由

架空の町・間野山の町おこしをテーマとしたアニメ『サクラクエスト』が2クール目に突入する。2クール目に突入する前に思うのが、サクラクエストは、本当に間野山の町おこしを描いたアニメなのか? ということだ。確かに、町おこしが物語の軸ではあるが、物語の本質は、そのわきで描かれる人間ドラマである。果たして、サクラクエストは本当に町おこしのアニメなのか?


『サクラクエスト』1クール目のあらすじ

知っている人は読み飛ばしてかまいません(笑)。

東京の短大生、木春由乃は就活で30社受けるもいまだ受からないという状況で、手違いから縁もゆかりもない富山県の間野山という町の観光大使「チュパカブラ王国国王」になってしまう(任期は1年)。

当初は東京に帰りたがっていたが、仲間にも恵まれ、次第に町おこしにやりがいを感じるようになった由乃。

特産品のアピール、映画撮影の誘致、B級グルメの開発、お見合いツアーと様々な企画を打ち、就任から半年の集大成として、チュパカブラ王国20周年の建国祭を行うことになった。

地元テレビ局の協力で人気ロックバンドを呼ぶことができ、イベント自体は大成功に終わったが、その際に配った商店会のクーポン券はほとんど使われることなく、結局、街は何も変わらなかった。

ただ、人を呼べばいいというわけでゃないのはわかっていたはずなのに……。無力感に襲われた由乃は、大荷物を抱えてバスへと乗り込む。由乃は東京に帰ってしまうのか……。

町おこしに必要なのは「魅力」ではなく「魔力」

さて、4月に書いた「アニメ「サクラクエスト」から見る、今、町おこしが必要なあの町」では、「東京には魅力はあるけど魔力がない」ということを書いた。東京には人をたくさん呼び寄せる「魅力」はいっぱいあるけれど、呼び寄せた人をそこに留まらせる「魔力」はない、という話だ。例えるなら、「おいしいし行列もできてるんだけど、一度行ったらもういいかな~、って感じのお店」。

この「魔力がない」という問題は東京だけでなく地方にも言えることだ。しかも、地方の場合は魅力も魔力もないという二重苦である。

さて、1クール目で由乃たちが行ってきた企画は、特産品である彫刻をアピールしたり、「空家が自由に使える」という条件で映画のロケを誘致したり、そうめんを使ったB級グルメを開発したり、お見合いツアーを企画したり、クイズ大会を開いたり。

これらは、いずれも間野山の「魅力」をアピールする企画だった。

ただ、酷なことを言ってしまえば、どれも別に「間野山でなくてもいい」ものでもある。

確かに、彫刻が国の伝統工芸に指定されていたり、空家がしこたま多かったり、そうめんが古くから親しまれてきたり、それらは「間野山ならでは」ではあるのだが、「別に間野山でなくても、他にもあるよね」という話である。

そして、いずれも「魔力」にはなりえない。

彫刻があるから、そうめんがおいしいから、そんな理由で間野山に移住する人はかなり少ないだろう。「映画のロケ地」という要素もそうだ。一時、人を呼ぶことはできるかもしれないが、「そこに留まらせる」ほどの力があるとは思えない。現に、お見合いツアーに参加した女性3人は全員、結局、間野山には嫁がなかった。由乃たちは一生懸命間野山の「魅力」を伝えるツアーを企画したが、そこに留まらせる「魔力」は伝えられなかったのだ。

サクラクエストは町おこしのアニメなのか?

果たして、伝えるべき間野山の魔力とはいったい何なのか。

そして、2クール目を前にしてふと思う。

サクラクエストって、本当に「町おこし」のアニメなのだろうか。

なぜなら、1クール目を見ていて思うのが、サクラクエストの面白い所は町おこしの企画の成否ではなく、その裏で由乃たちがいろいろなことに気づき、成長していく過程の方だからだ。

描写のウエイトは由乃たちの成長譚に置かれており、町おこしはそのきっかけという位置づけにすぎないのだ。

彫刻をアピールするエピソードでは、駅を100年かけて彫刻で彩るという、壮大すぎてすぐには結果が出ない企画を打ち出した。そして、このエピソードの肝は実はそこではなく、東京から逃げてきた早苗が自分の仕事と向き合えるかどうかだった。

映画のロケを誘致するエピソードでも、映画自体はB級ゾンビものという、誰が見てもこけそうな内容だった。話の肝はそこではなく、女優の夢が敗れて間野山に帰ってきた真希が再び自分の夢に向き合うという点と、映画の中で燃やされてしまう家に対する観光協会のしおりの想い、それをくみ取ろうとする由乃だった。

B級グルメのエピソードでも本筋はその裏で描かれた、しおりの姉の恋愛模様だった。

お見合いツアーもツアー自体は誰も嫁がないという結果に終わったが、話の本筋はひきこもりの凛々子の「みんなとなじめない」という想いと、それに向き合った由乃であった。

こうやって見ていくと、サクラクエストにとって町おこしとは、あくまでも物語のきっかけに過ぎないという風に見える。

だとしたらサクラクエストがわざわざ2クールもかけて伝えたいこととはいったい何なのだろうか。サクラクエストがキャラクターの成長に力を入れている物語だということは、キャラクターに答えがあるのかもしれない。

サクラクエストのキャラクターたち

サクラクエストのメインキャラクターは、国王である由乃、由乃を補佐する観光協会のしおり、詩織の幼馴染でひきこもりの凛々子、東京から移住してきた早苗、一度は東京で女優の夢を追いかける者の故郷である間野山に帰ってきた真希の5人だ。

この5人は3つのグループに分けることができる。

まず、東京からの移住組、由乃と早苗だ。

二人とも、間野山に来た理由はちょっと弱い。早苗は「東京でなければ別にどこでもよかった」というのを指摘されているし、由乃に至っては単なる手違いだ。

だが、「東京を出てきた」理由はかなり切実だ。

由乃は東京で就活するも30社全滅。つまり、東京の社会に必要とされなかったのだ。

国王就任後も当初は東京に帰りたがっていたが、東京に帰ったところで、東京は由乃を必要としていないというのが現実だ。

一方、早苗は東京生まれの東京育ち。東京のIT企業に勤めていたが、『自分の仕事には代わりがいる』という現実を知ってしまい、逃げるように間野山へやってくる。

つまり、二人とも「自分が東京にいなければいけない理由」を失ってしまったのだ。

次に間野山在住組のしおりと凛々子。

間野山が好きで観光協会で働いているしおりに比べ、ひきこもりでニートの凛々子。

凜々子は昔から周囲になじむことができなかった。人前に出るのが苦手で、高校卒業後はひきこもり気味に。間野山にずっと住んではいるが、間野山に彼女の居場所はないのだ。

最後は間野山出身で上京するも、再び故郷に帰ってきた真希。

女優の夢を追って上京した真希。東京には「女優の夢を叶えられる」という魅力があったわけだ。

しかし、現実は厳しく、真希は女優の夢を諦めて故郷の間野山へと帰ってくる。女優という夢に彼女の居場所はなく、その瞬間に東京にも魅力がなくなってしまったのだ。

つまり、彼女たちは「自分はここにいなくてもいい」という想いを抱えていたのだ。

そんな彼女たちだったが、町おこしの中で徐々に思いが変わっていく。

最初は東京に帰りたがっていた由乃だったが、「この4人と働けるなら」と国王の仕事を引き受ける。

早苗は由乃たちに出会うまで、2週間だれとも話さず、東京へ帰ろうと思っていたところに由乃たちが現れる。間野山で由乃たちとともに頑張る中で、『自分にしか出せない結果』を求めるようになる。

真希は一度諦めかけた夢のかけらを間野山で見つける。由乃たちとともに映画撮影の手伝いをする中で、「どうしようもなくお芝居の世界が好きだ」ということを思いだす。

凛々子は「普通」でいられる由乃に自分が持っていないものを見出し、一方、由乃は強い個性を持っている凜々子に尊敬の念を表す。のちに凛々子は由乃のことを「私をちゃんと見てくれているから、好き」と評している。

そう、彼女たちが間野山に留まる理由。彼女たちを間野山にとどめた魔力。それは「仲間がいるから」に他ならない。

町おこしの本質 居場所という魔力 間野山に留まる理由

サクラクエストは町おこしのアニメなのか。その答えはイエスだ。

ただし、「町おこしに必要なもの」を町おこしの活動自体ではなく、そのわきで繰り広げられる人間ドラマで描いている。なかなか高度なことをしている。

町おこしに必要なもの。町に人をとどめる魔力。それは簡単に言えば「居場所」である。

仲間がいるから、ここにいる。ここにいていいんだ。ここで頑張っていこう。

それこそが町おこしの本質なのではないだろうか。特産品や名物はよその町にも似たようなものがあるが、仲間、友達、そういったものはどこにでもあるものではない。一度そこに居場所ができれば、替えなんてきかない。どんなにその町自体には魅力がなくても、仲間がいれば、居場所があれば、「ここで頑張ろう」、そう思えるものだ。

東京には魅力がたくさんある。だが、この居場所の魔力が弱いため、無理して東京にいても疲れてしまうだけだ。「ここにいてもいいのかな」「ここじゃなくてもいいんじゃないか」そう思いながら居続けるのはつらいことだ。

一方で、その町がどんなに田舎でも、何の観光名所もなくても、「ここにいていいんだ」そう思った時、人はその町に魔力を感じ、そこに留まる。

しおりは酔っぱらいながら「弱っている人ウェルカ~ム! 間野山はそ~いう町なの!」と言っていた。この言葉が、間野山の持つ魔力の本質であろう。また、凛々子の尽力で間野山が元来よそ者の受け入れに積極的な町だったことが明らかとなる。由乃の周辺もよそのものである由乃に割と寛大だ。

ここにいたい。ここにいていいんだ。ここで頑張ろう。そう思わせる居場所を作ることが町おこしの本質なのではないだろうか。

そう考えると、しおりの存在というのは大きい。その町の出身で郷土愛が強い一方、由乃のようなよそ者にも寛大なしおりは、よそ者と町を結びつける役割を果たしている。さらに、その町の出身であるにもかかわらず町に居場所がなかった凛々子と居場所をつなぐ役割も果たしている。人となじめない凛々子にとって、ほんわかしたしおりは居場所への入り口でもあるのだ。


サクラクエストは7月から2クール目に入る。残り3か月、どのように話が展開していくのかはわからないが、この「居場所」という観点から見ていくのも面白いんじゃないかと思う。

少なくとも、5人の若者が「ここで頑張ろう」「ここにいたい」「ここにいていいんだ」と思えるのであれば、彼女たちの町おこしはすでに成功しているのかもしれない。

投稿者: ノック

民俗学ZINE作家。 「バズらないモノづくり」をテーマとする「ノンバズル企画」を主宰。民俗学専門ZINE「民俗学は好きですか?」を企画・執筆・製本・販売しています。「民俗学とは『生きること』を探求する学問」をテーマに、民俗学の魅力をわかりやすく、面白く、奥深く紹介していきます。