「たまきはたまきのままでいいんだよ」
「あしなれ」第8話はそんな話です。
数日前と比べても気温は変わらず、まだまだ天気予報では「熱中症注意」の言葉が躍る。
そんな中、たまきは相変わらず黒っぽい長袖の服を着て、公園で絵を描いていた。使うのは普通の鉛筆一本。白い紙を埋めるように、灰色の線が次々と書き込まれていく。隣には、例のごとくミチ。今日もまた汗だくになりながら、ギターをかき鳴らし歌っている。弦の弾ける音はアスファルトを震わし、ミチのハイトーンな歌声が夏の熱気に融けていく。
たまきは、この時間がどちらかというと好きだ。
絵を描いているときは、作業に集中できるため現実を忘れられる。
正直、絵を描くのは好きでもなければ、楽しくもない。ただただ時間を押し流すための作業。
だから、たまきは同じ題材を何度も描いた。絵にこだわりなどないからだ。斜め向かいに見える都庁を同じアングルから灰色の線で何度も描く。
何度描いても都庁はまるで魔王の城だし、その手前の公園の樹木は夜の樹海。白い雲でさえ、薄気味悪い煙のようにしかかけない。
そんな自分の絵が大嫌いだ。でも、絵を描くこと以外、現実を忘れることができないのだからしょうがない。
自分の絵は嫌い。でも、絵を描くことで時間を忘れることは好きだ。
そして、隣で歌うミチ。
何度も本人に入っているのだが、たまきはミチのことが嫌いだ。チャラいし軽いしいやらしいしめんどくさい。誉めるところが一個も見当たらない。
ただ一つ、彼の歌声は好きだった。ハイトーンで力強い歌声に、底抜けに明るい歌詞がよく映える。ミチの歌を聴きながら絵を描けば、こんな自分でも少しは明るい絵が描けるのではないかと期待してしまう。
歌ってる本人は嫌い。でも、彼が歌う歌とその歌声は好きだ。
プラスマイナス合わせて、どちらかというとたまきはこの時間が好きなのだ。
ふと、たまきはミチの方を見た。普段は並んで絵を描くことはあっても、嫌いだからほとんどたまきはミチを見ないのだが。
何とも楽しそうに歌っている。汗が音符のように滴る。大声を出してメロディに乗せることがそんなに楽しいのかな、とたまきは不思議に思う。
自分は隣で好きでもない絵を描き続けているのに、その一方でミチはこんなにも楽しそう。
ミチ君にとっての幸せってなんだろう。やっぱり、歌うことかな。
「ありがとうございました。『しあわせな時間』でした」
いつも通り、ミチは歌い終わると「世の中」に向けて挨拶をする。その後、しばらく休憩したら、また次の歌を歌い出す。
「あの・・・・・・」
「ん?」
珍しくたまきの方から声を掛けられ、ミチが振り向く。
「ミチ君にとって……、幸せってなんですか?」
「え?」
ミチは驚いたようにたまきを見た。
「……やっぱり、歌ってる時ですか?」
「うん」
間髪入れずにミチは答えた。
「あ、でも、今までで一番幸せだったのは、やっぱカノジョと一緒にいた時かな」
「カノジョいたんですか」
たまきが冷めた目で尋ねた。
「中学の時だけどな。流れで付き合って、しばらく遊んでたけど、自然消滅かな」
たまきには「流れ」も「遊び」も「自然消滅」もよくわからない。
「中学校、行ってたんですか?」
「え、うん」
ミチは「なんでそんなこと聞くの?」という目でたまきを見る。
「……卒業したんですか?」
「当たり前じゃん」
たまきはうつむいて、スケッチブックを見た。ぽたりと、たまきの遥か頭上の空の上から一滴スケッチブックに落ちてきた。
落ちてきた一滴は、すぐに山林のように降り注ぎ、やがて銃弾のように二人を襲った。さっきまで広がっていた青空は重い鈍色に染まっている。雨粒が地面にあたる音だけが二人の鼓膜を震わせる。
二人は公園の中のトイレの軒下で雨宿りをしていた。ここまで百メートルほど走ってきたが、二人ともかなり濡れてしまっていた。
たまきの黒い髪はびしょぬれで顔にぺったりと貼りつき、左目を完全に隠した。毛先から、メガネから、水滴がぽたぽたと胸のふくらみへめがけて落ちていく。たまきは胸の前でカバンをしっかりと抱きとめていた。カバンの中にはスケッチブックが半分むき出しのまま入っている。
ミチはそんなたまきをしばらく見ていたが、やがて目をそらした。茶色い髪はしょんぼりしたかのように濡れそぼっている。背中にはギターケース。Tシャツはびしょぬれで、ミチがそれを雑巾のように絞ると、雨粒と同じくらいの勢いで水が流れ落ちた。
ミチは絞ってよれよれになった裾を見る。裾はだいぶ水気が飛んだが、そこ以外はまだびしょびしょだ。
ミチはギターケースをおろすと、Tシャツを脱いだ。ミチの細くもやや筋肉のついている上半身があらわになり、たまきは顔を赤らめるとあわてて目をそらした。
「な、何脱いでるんですか?」
「だって、このままだと風邪ひくじゃん。明日、バイトの初日なんよ。たまきちゃんも脱いだら?」
ミチが冗談めかして笑い、たまきはますます顔を赤らめる。
「脱ぐわけないじゃないですか」
そう答えつつも、亜美さんだったらためらいもなく脱ぐのかな、などとしょうもないことを考えている。
ふと、雨粒の向こう側に、見覚えのあるシルエットを見つけた。
40代くらいの男が自転車を押しながら二人の前を横切ろうとしていた。荷台には空き缶でパンパンになったゴミ袋が取り付けられている。
深緑色のレインコートを着ているその男のおでこは広く、その輪郭はなんだかそら豆みたいだった。たまきは、男の輪郭に、顔に、見覚えがあった。
「あの……!」
たまきの問いかけに男が足を止めてたまきの方を見た。
数日前、「城(キャッスル)」に強盗に入ったおじさんだった。
そら豆顔のおじさんはたまきを見ると、驚いたように細い目を見開き、そして、どこか懐かしそうな笑みを浮かべ、自転車を止めてたまきの方に歩み寄った。
「……君はこの前の……」
「ん? 知り合い?」
ミチが二人の顔を見比べる。
そら豆顔のおじさんを見たら、たまきはなんだかほっとした。
生きてたんだ。
帰ったら、志保に教えよう。きっと喜ぶ。
「あのときは……迷惑かけたね」
おじさんはやさしく微笑んだ。
「……ここで何してるんですか?」
「君と一緒にいた長い髪の子に教えてもらったとおり、駅の地下に行ったんだ。そこであったホームレスの人に、ここに来ればこれからの生き方を教えてもらえるって聞いてね、お世話になってるんだ」
たまきは、目を赤らめて「さびしい」とつぶやいたおじさんの顔を思い出していた。あの時と比べて、おじさんの笑顔は少し軽くなったように見える。
「あの子にありがとうって伝えおいてよ。あの子の言葉で、だいぶ励まされたんだ」
それもきっと、志保が聞いたら喜ぶ。
おじさんは、ミチの方を見やった。
「お友達?」
一拍置いて、たまきが答える。
「……知り合いです」
こんな上半身半裸男と友達なわけがない。
「彼の方は何回かこの公園で見たことあるよ。知り合いだったんだ」
「私たち、二人とも傘持ってなくて……」
「降るなんて思ってねぇもん」
ミチが少し口をとがらせていった。
おじさんは二人を交互に眺めると、口を開いた。
「2人とも、だいぶ濡れちゃってるね。すぐそこに庵があるから、案内するよ。たき火もしてるし、ここよりはましだよ」
「イオリ?」
たまきの問いに答えることなく、おじさんは「ちょっと待ってね」といって、自転車を置いて小走りに走っていったが、やがて傘を2本持って帰ってきた。
「これ使って。すぐそこだから」
おじさんは二人に傘を渡すと、自転車を押して歩きだした。
たまきは、ミチの方を見た。ミチが不思議そうにたまきに尋ねる。
「どういう知り合い?」
「この前、ちょっと……。それより、どうします?」
「あのおっさん、どこ連れてくって言ってた?」
「イオリだって」
「なにそれ?」
「さあ……」
二人は首をかしげる。ミチはめんどくさそうに顔をしかめながら口を開いた。
「どこだかしんねーけど、あのおっさん、ホームレスだろ? ロクなところ連れていかねーって」
「でも……ここよりはましですよ、たぶん」
ミチは空から降り強いる雨粒を見る。まるで鉄柵のように、二人を公園から逃がすまいとしているようだ。
「まあ、風邪ひいたら困るしな……。たき火あるんだったら、そっち行こうか。でも、この公園、たき火禁止だぞ?」
「庵」とかいて「いおり」と読む。隠居や出家をしたものが住む小さな家のことで、たいていは森の中にポツンと、木漏れ日を浴びながら立つ木造の小さな離れのことを指す。
二人が連れてこられた庵は、公園の樹木に囲まれていたし、木造ではあったが、一般的な庵のイメージからはだいぶ違った。
木造は木造でもベニヤ板作り。その上にブルーシートがかけられていて、ベニヤの半分以上はそのシートに覆われている。入口は完全にシートに覆われ、人が通るところだけぽっかりと穴が開いている。その入り口は、昔、まだたまきが学校に行けたころ、教科書で見たモンゴルの遊牧民のテントを思い出させた。
大きさは、大型トラックの荷台くらい。天井はミチより少し高いぐらいか。きれいな立方体、というわけではなく、基盤となる大きな家に、中くらい、もしくはもっと小さい家がいくつもくっついている。
さながら、ベニヤ板のおばけのような風体だが、公園の最深部、木々やオブジェの死角となる場所で、積極的に探そうとしない限り、見つかることはないだろう。
おじさんは二人に少し外で待つように言うと、大きな空き缶の袋を抱えて中に入っていった。二人がどしゃ降りの中で傘を差し、外で1分ほど待っていると、おじさんが顔を出し、手招きをした。
中は薄暗く、意外と暖かかった。全体の四分の1は土間になっていて、残りはブルーシートが敷かれていた。シートの上にはちゃぶ台が置かれ、上にはカップ酒と、おつまみらしきものが置かれていた。ホームレスらしき男性が数人、その周りを囲んでいる。
光源は二つ。
一つは板張りの天井からつるされた電球だった。白熱電球というのだろうか。でも、白というよりはオレンジ色の光を放っているので、また別の名前があるのかもしれない。
そしてもう一つ。土間の奥の方にくず入れぐらいの大きさの四角い缶が置かれていた。缶の中には枝が突っ込まれていて、枝の下の方が赤々と光を放っている。たき火だ。
暖かいのはありがたいのだが、においが鼻につく。町中でホームレスの人とすれ違うとにおってくる、あの匂いだ。たまきは隣のミチの顔を見上げた。ミチは顔を少ししかめていた。
そのにおいのもとは、「イオリ」の奥にいるホームレスたちから漂っているのに間違いなかった。みな、四十歳を超えているだろうか。浅黒い肌と、白髪交じりの長い髪が対照的だった。
彼らはみな、異質なものを見る目で人のことを見ていた。中年のおじさんばかりの小屋の中に。未成年が二人入ってきたのだ。無理もない。人の視線が苦手なたまきは、少し後ずさりした。
そして、たまきはあることに気付いた。
この小屋の中で、女性は自分しかいない。
たまきはミチがわきに抱えていた彼のシャツをぎゅっと握ると、振り返って出口を確認した。
二人を案内したそら豆のおじさんが、ホームレス集団の中央にいる男に声をかけた。
「あっちの女の子の方が、前に話した女の子ですよ、センさん」
センさんと呼ばれた男は、二人をにらむように見ていた。品定めしているようでもある。浅黒い肌に長い白髪交じり、灰色のもじゃもじゃのひげ。キャップをかぶり、丸いメガネをかけている。その視線には、不思議と知性と貫禄を感じた。
ホームレスの一人が、二人によれよれのバスタオルを持ってきた。
「風邪ひくぞ。ふきな」
「ど、どうも……」
たまきはどもりながらもバスタオルを二つ受け取ると、少しきれいな方をミチに渡し、もう一方で自分の頭をわしゃわしゃと拭き始めた。服も濡れてしまっているが、こんな状況で脱ぐわけにもいかず、バスタオルを肩にかけると、たまきは焚火のそばに行き暖を取った。スカートの先からぽたぽたと水滴が地面に落ちる。
そら豆のおじさんが二人に近づくと、優しく微笑みかけた。
「雨が上がるまでここにいなよ」
「……おじさんは今、ここに住んでるんですか?」
「ああ、そうだよ」
おじさんがうなづく。
「今、センさんのところに泊めてもらっているんだ」
「センさん?」
たまきが、さっきセンさんと呼ばれていた眼光鋭い男をちらりと見る。
「そう、あの真ん中の人。『仙人』とか『仙さん』って呼ばれてるんだ」
そう言われてみると、確かに仙人っぽい。
「あの人が、この辺のホームレスのまとめ役なんだ。いろいろ面倒見てくれるんだよ」
舞先生みたいなものかな、たまきはそう思った。
たまきは仙人の方を見ると、「ありがとうございます」といってぺこりと頭を下げた。しかし、仙人は何も反応しない。
「しかし、すごい雨だねぇ」
そら豆のおじさんがテントの外を見ながら言う。その言葉に、ミチが笑いながら返した。
「まあ、よくあるゲリラ豪雨っすよ」
「いや」
重くハスキーな声が響き、たまきは声がしたほうを見た。
「わしらが若いころはこんな降り方はしなかった。地球温暖化の影響か、別に理由があるのか、いずれにしろ、異常気象だ」
声の主は仙人だった。仙人は腕組みしたまま、少し怒ったように続けた。
「異常が何年も続くと、みな異常だと思わんようになる。だが、異常は異常だ」
本当に面倒見がいい人なのかな、とたまきは思ったが、そういえば、舞もあんな突き放した言い方をする気がした。
「お前たち、見覚えがあるぞ。よく階段の上にいっしょにいるな」
仙人が再びハスキーな声で話し始めた。
「ボウズの方はほぼ毎日見るな。ギターでなんか歌っとる。お嬢ちゃんの方はたまに見るな。いつもボウズの隣で、何やら絵をかいとる」
見られていたのが恥ずかしくてたまきは下を向く。
「お前ら、付き合っとるのか?」
「あ、やっぱ、そういう風に見えます?」
「ちがいます! そういうんじゃないんです!」
「・・・・・・だろうなぁ」
仙人は顔を真っ赤にして首を横に振るたまきを見ると、納得したかのように呟いた。
「そういう風には見えんから、聞いてみたんだ」
雨はいまだやむ気配がない。それどころか雨脚は強くなり、傘をさしてもあまり役に立ちそうにない。
「ボウズ」
仙人はミチを見ると、ミチの持っているギターケースに目をやった。
「なんか歌え。いつもこの辺で歌ってるやつだ」
「え、なんで?」
ミチが少しいやそうに答えた。
「お前ら、わしらの家で雨宿りさせてもらってるんだから、わしらに何かお礼をするのが筋ってもんだろう?」
「いや、家ってここおっさんたちの家じゃないじゃん。不法占拠だろ?」
「……ごめんなさい」
謝ったのは仙人でもほかのホームレスでもなく、たまきだった。
「それに、たき火とかこういうのやっちゃいけないんじゃないの?」
どうしてそんな突っかかるような言い方なんだろう、とたまきはミチを見て、その後仙人の方を見た。しかし、仙人は表情を変えることなく口を開いた。
「なるほど。ボウズの言う通りだ。お前さんが正しい。おい、みんな、今すぐこの小屋をばらしてここから出ていこう。たき火は消しておけ。ただし、二人とも、傘は返してもらう。それはわしらの金で買った、正当なわしらの所有物だからな」
そういうと仙人はよいしょと立ち上がった。他のホームレスたちも立ち上がり、壁に手をかけ、ベニヤ板がみしみしと音を立てる。仙人はペットボトルを持ってたき火のもとへ来て、たき火に水をかけようとした。
「ちょ、ちょっと待って!」
あわてたのはミチの方だった。この大雨の中、傘を取り上げられて放り出せれてはたまらない。
「悪かったよ。歌うよ」
ミチがそういうと、ホームレスたちはみな、もといた場所に戻っていった。仙人も、にやりと笑いながら腰を下ろす。
ミチはギターを取り出すとピックを口にくわえてチューニングを始めた。チューニングしながら、隣のたまきに問いかける。
「何歌えばいいと思う? なんかリクエストある?」
たまきは下を向いて考えを巡らせたが、ミチを見上げて、自分の一番好きな曲名を伝えた。
「『未来』って曲が……私は好きです……」
「『未来』ね、オーケー」
ミチは口にくわえたピックを手に取ると、ホームレスたちの方を向いた。
「えー、ミチで『未来』です。聞いてください」
ミチは勢いよくギターをストロークすると、歌い始めた。
――青空の中、飛行機雲がどこまでの伸びていった
――あの先に未来が待っている そう信じ力強く羽ばたくよ
たまきは珍しく、ミチを見ていた。
ミチの声は力強く、ハイトーンながらも、ややハスキーなところもあった。
歌う前は渋っていたミチだが、歌い出すとなんだかんだ楽しそうだ。笑顔が焚火に照らされ、オレンジに輝いている。いつもはたまきしか聞いてくれる人がいないが、今日は他にも何人も聴衆がいる。それがミチのテンションをさらに上げているのかもしれない。
ミチ君は、本当に歌うことが好きなんだ。たまきはそんなミチがとてもうらやましかったが、なぜか口元が緩んでいる自分に気が付いた。
2番のさびが終わり、間奏に入る。間奏と言っても楽器はギターしかなく、ミチが口笛でメロディを奏でるのだが。たまきは、以前ミチが「ハーモニカが欲しい」とぼやいていたことを思い出した。
たまきはホームレスたちの方を見た。たまきより背の高いミチを見上げ続けて首が疲れてきたのもあるが、おじさんたちの反応も気になった。
おじさんたちはみな、つまらなそうにミチを見ていた。そのことにたまきは思わず目を見開いた。
曲調も決して、おじさんには受け入れられないようなジャンルじゃないはずだ。テンポはやや速いけど、ロック系の音楽が苦手なたまきでも好きだと言える曲なのだから。
――僕の歩く今が未来になる
――夢もいつか「今」に変わる
――明日を変えなければいけないんだ
――未来が僕を待っている
最後のサビが終わり、ミチがギターをじゃかじゃかじゃんと弾いて、演奏が終わった。ミチは「ありがとうございました」と言って頭を下げた。
そら豆のおじさんは微笑みながら拍手をしていた。他にもまばらに拍手があったが、大半は無反応だった。
しばらく静寂が流れる。やがて、仙人が口を開いた。
「声はよかった」
仙人は厳しい目つきのまま言った。
「メロディも悪くない。だがな、歌詞はひどい。ラジオでやっとるヒット曲の切り貼りだ」
「切り貼り?」
ミチが少し苛立ったように聞き返した。
「最近の若い者は、『コピペ』というのか?」
「あぁ?」
ミチの声に、たまきが驚きミチを見る。
「ふざけんな! 俺の歌は、パクリじゃねぇよ!」
「ミチ君……!」
たまきはミチのズボンを引っ張ったが、ミチはそれをふりほどいた。
そんなミチに対し、仙人は勤めて穏やかだった。
「別に盗作とは言っとらん」
「さっきコピペって言ったじゃねぇかよ!」
「そういう意味で言ったんじゃない。あの歌詞は、確かにお前さん自身が書いたものなんだろう。だがな、どこかで聞いたような言葉ばっかりだ。まるで、ヒット曲の歌詞を切って貼ったみたいだ。もちろん、お前さんにそんなつもりはないんだろうが、お前さんがこれまで聞いてきた曲の歌詞によく似た言葉で埋め尽くされている。違うか?」
ミチは黙ったまま仙人を見ている。
「お前さんの言葉で書いたんだろうが、本当の意味ではお前さんの言葉になっとらん。そんなんでは多少歌がうまくても、本当に人の心を打つことはできん。ま、売れる売れないはまた別の話だがな」
仙人の言葉を聞いていると、なんだかたまきまで悲しくなってきた。
ミチは肩を震わせながら仙人をにらむように見ていた。やがて、
「ホームレスなんかに何が分かんだよ……」とつぶやいた。
「ああそうだ。所詮はホームレスの戯言だ。社会の最底辺だ」
仙人はミチの言葉にも表情を崩さなかった。むしろ、少し笑っているようにも見える。
「だがな、そういったやつの心に響かないと意味がないんじゃないのか? 特に、さっきお前さんが歌ってたのは、いわゆる『応援歌』ってやつだろう? わしらみたいなものを励ませないと意味がないのではないのか? それとも、CDも買えないようなホームレスを励ますつもりなんかないか?」
仙人が喋っている間、ミチは口を堅く結んでいた。やがて口を開くと
「……おっさんのゆうとーりっす」
と力なくつぶやいた。
「……すんませんでした」
「何を謝る」
仙人は笑いながら言った。
「侮蔑と偏見は、若者だけの特権だ」
そういうと、仙人はたまきの方を見た。
「お嬢ちゃんの絵も見せてもらえんか?」
たまきは困ったように下を見た。
できれば、自分の絵なんて誰にも見せたくない。自分が好きなミチの歌がぼろカスにけなされたのだ。たまきのへたくそで暗い絵なんて、けちょんけちょんにけなされるに決まってる。
そうでなくても、絵を見られるのはとにかく嫌なのだ。何がそんなにいやなのかわからないが、今この場で裸になれと言われているような感覚だ。理由なんかない。恥ずかしいものは恥ずかしいし、嫌なものは嫌なのだ。
だけど、ミチが仙人たちの前で歌って、ぼろカスのけなされたのだ。なのにたまきが絵を見せないというのは、アンフェアである。
たまきは、肩にかけたかばんからスケッチブックを取り出した。スケッチブックの方がかばんより大きく、かばんからはみ出ていたが、たまきが身を挺して守ったおかげで大して濡れていない。
たまきは下を向きながらスケッチブックを仙人に差し出した。仙人は身を乗り出してスケッチブックを受け取ると、中を見始めた。
もういやだ。お願い。見ないで。
たまきは今にも泣きそうな顔で、ぱちぱちと燃えるたき火を見ていた。仙人に絵を渡さないで、たき火の中に突っ込んで燃やしてしまえばよかった。
たまきは、恐る恐る仙人を見た。仙人は目を見開いてたまきの絵を見つめていた。その後ろに群がるように、ほかのホームレスたちが覗き込んでいる。
もうやめて。お願い。そんなに見ないで。
小さいころからよく絵を描いていた。学校へ行っても友達があんまりいなかったので、休み時間もいつも絵を描いて過ごしていた。通知表で2と3が並ぶ中、図工だけは4だった。
中学に上がり、たまきは美術部に入った。美術部の仲間とは、クラスメイトよりは仲良くできた。しかし、そこでは新たな問題があった。
みんな、たまきよりも圧倒的に絵がうまかったのだ。たまきはクラスとは違う劣等感を感じざるを得なかった。
おまけにどうしても明るい絵が描けない。たまきの絵が美術部内やコンクールで評価されることなんてなかった。
「この絵を、お前さんが描いたのか」
仙人はそういうと顔をあげ、たまきをじっと見据えた。たまきはほんの少しだけ、仙人と目を合わせたが、すぐに下を向いてしまった。
「……はい……」
のどが自転車で轢かれて潰されたかのように声が出ない。
しばらく沈黙が続いた。たまきは、そら豆のおじさんにもう一度殺してほしいと頼みたくなった。
「都庁の絵が多いね。よく描けてるよ」
そら豆のおじさんは微笑みながらそう言った。しかし、
「いや」
という仙人の低いハスキーな声が、たまきのうなだれた頭をハンマーのように撃ちつけた。仙人はスケッチブックに目をやる。
「確かに、都庁を描いたんだろう。都庁に見える。だが、実際の都庁はこうではない。線の書き方、影の付け方、比率、そういうのが実際の都庁と違う」
たまきは、自分の濡れたスカートのすそをぎゅっと握った。水がジワリと指の間からにじみ出て、ぽたっぽたっと地面に落ちる。
「都庁の手前の木の描き方もおかしい。あの階段に腰かけて描いたんだろう。だったら、こういう風にはならない」
そう言うと、仙人はスケッチブックから目を離し、再びたまきを見た。うなだれるたまきの、メガネのふちを、さっきよりもしっかりと見据えた。
「お前さんには、世界がこんな風に見えてるのか……」
仙人の言っている意味がよくわからず、たまきは顔をあげた。仙人が真っ直ぐとたまきを見据えていたが、不思議と怖くなかった。
「……フィンセントを知っているか?」
だれだろう。たまきは首を横に振った。
「フィンセントは十九世紀のオランダの画家だ。フィンセントの絵は、風景画や静物画、自画像を描くくせに、ちっとも写実的ではない。写実的な絵が描けるにもかかわらず、だ」
仙人は、まっすぐたまきの方を見ながら語りかけた。
「絵筆の痕がはっきりとわかる荒々しいタッチだ。勢いに任せて筆を走らせ、その躍動感ごとカンバスに刻み付けている。それでいて、色の配置が絶妙だ。計算して色を置いているのか、直感で色を選んでいるのか、わしにはわからん」
そのフィンセントという画家の絵と私の絵、どう関係があるんだろう。
「きっと、フィンセントには世界がそう見えているんだろう」
そう言うと、仙人は今までで一番優しい目をした。
「お嬢ちゃんの絵を見て、フィンセントを思い出した」
たまきは不安げにミチを見上げて、再び仙人に視線を戻した。仙人の言っている言葉の意味が、今一つつかめない。
口を開いたのはミチだった。
「つまり、たまきちゃんの絵がフィンセントって画家の絵に似てるってこと……」
「まったく似てない」
ミチが言い終わる前に仙人が打ち消した。
「画風もタッチも全く違う。そもそも、技術に雲泥の差がある。フィンセントはプロとしての確かな技術があった。お嬢ちゃんのは、せいぜい中学校の美術部員ってところだろう」
正解すぎてぐうの音も出ない。
「だが、フィンセントの絵があそこまで人を惹きつけるのは、単に技術力の問題ではあるまい。素人目には、絵なんてうまいか下手かの二択でしかない」
仙人はたまきを見据えながら続けた。
「そうではなく、フィンセントにはああいう風に世界が見えていた。あの絵は、写実画なんだ。フィンセントは自分が見たままの世界をそのまま描いたんだ。だからこそ、いまなお高い評価を受けている」
そう言うと、仙人はたまきにスケッチブックを返した。たまきは申し訳なさそうに受け取る。
「お嬢ちゃんにも、フィンセントのような感性と表現力がある。画力はこれからあげていけばいい。そんなものよりも大切なものを、お嬢ちゃんは持っている。画力なんて、お嬢ちゃんの見ている世界を描くための道具にすぎない。むしろ、お嬢ちゃんの見ている世界をきちんと表現するために、画力を上げるんだ」
たまきは、この上なく不安げに仙人を見た。そして、ずっと気になっていたことを仙人に尋ねた。
「あの……私は……褒められているんでしょうか……」
「ああ、そうとも」
再び仙人はやさしく微笑んだ。仙人のメガネに、たき火のオレンジの暖かな光が写りこんでいた。
そら豆のおじさんが庵の外を見た。さっきまで泣きたいぐらいにどしゃ降りだったのに、いつのまにか雨はしとしと降っていた。これなら、傘を差せば帰れそうだ。
「その傘はお嬢ちゃんにあげよう。その代り、またお嬢ちゃんの絵を見せてくれんかね?」
「え、……は、はい」
たまきは戸惑ったように答えた。
「ボウズにも傘をやろう。新曲ができたら聞かせに来るといい」
「……またぼろくそに言うんでしょ?」
「また切り貼りだったらそうなるな」
仙人はにやりと笑いながらそう言った。
小雨がしとしと降る中、都庁のわきの道を二人は駅に向かって歩いていた。紺色のコウモリ傘を差したミチ。その後ろを若草色の折り畳み傘を差したたまきがとことこと歩いている。
たまきは歩きながら、ミチの背中を見ていた。絞ってよれよれになったシャツに、黒いギターケースを担いでいる。
ふと、ミチの方が大きく下がった。
「……自信失くした」
その声に、たまきはうつむいた。ミチは少し歩調を落として、たまきが横に並ぶのを待った。
「いや、実力もねぇのに、自信ばっかあったんだな、って思い知らされたよ。悔しいけどさ、あのおっさんのゆうとーりなんだよ」
二人は地下道に入った。傘をたたむ。休日の夕方近くだからか、ゲリラ豪雨の後だからか、いつもに比べて人が少ない。
「だからさ、たまきちゃんに言ってたことも、たぶん、あのおっさんのゆうとーりなんだと思う。すごいよ、たまきちゃん」
ミチの言葉に、たまきはブンブンとかぶりを横に振った。力強く振ったので、メガネが少しずれる。
「……私の絵なんか、すごくなんかないです」
「……俺さ、絵心ないし、絵の良しあしなんかわかんないけどさ、たまきちゃんはやっぱうまいとおもうよ」
「……中学の美術部レベルです」
「独特で面白いと思うし。あのおっさんみたいに何がいいとか細かく言えないけどさ」
「……中学の先生に『不気味』って言われました」
そう言いながらも、たまきは仙人の言葉を一つ一つ、頭の中で反芻していた。
褒められるなんてだいぶ久しぶりだ。それこそ、「はじめて歩いた」とか「はじめて喋った」時以来かもしれない。つまり、褒められた記憶なんてほとんどない。
中学の美術部では、決してたまきは特別な存在ではなかった。突出した技術も才能もなく、入賞するようなこともなかった。
なのに、なんで美術部に入ったんだろう?
小学校のころは、休み時間は絵を描いていてやり過ごしていた。自由帳がたまきの唯一の友達だった。
そう、「絵」はたまきにとって友達だった。誰も友達がいない教室で、絵を描いて世界と対話することがたまきの唯一の救いだった。
その時間だけが、たまきの唯一の楽しみだった。
もっと記憶をさかのぼれば、幼いころの自分が見えた。父と母、そして姉。姉が美少女アニメのお人形で遊んでいる中、たまきはクレヨンでずっと絵を描いていた。動物の絵、町の絵、家族の絵……。ずっと、ずっと、ずうっと。
「……思い出しました」
たまきがそう言って立ち止まった。ミチは2,3歩進んだところでたまきがついてこないことに気付き、振り返った。
「……私、絵を描くことが、好きだったんです」
いたくもない教室での唯一の友達。たまきは絵を描くことで時間を押し流し、なんとか学校に通っていた。でも、たまきよりうまい人なんていっぱいいて、たまきの絵は誰からも褒められない。むしろ、不気味だと顔をしかめられた。いつしか自信を無くし、「絵を描くことが好き」、そんな当たり前のことを忘れてしまっていた。
でも、たまきは絵が好きだった。
絵をほめられたことよりも、そのことを思い出せたことの方がうれしかった。そのきっかけをくれた仙人に、心の中で頭を下げた。
「……今まで、好きでもないのに絵を描いてたの?」
ミチの質問に、たまきはこっくりとうなづいた。
「ずっと忘れてました。むしろ、自分の絵なんて嫌いでした」
そう言うと、たまきはカバンを胸の前でしっかりと抱き止めた。カバンからスケッチブックが飛び出ている。
「……でも、好きになってもいいのかも……」
そう言うとたまきは、少し恥ずかしそうに笑った。
その横で、ミチは大きくため息をつく。
「いいなぁ。たまきちゃんはあんなに褒められて」
人に羨ましがられるなんて、初めての経験だ。たまきは思わず下を向く。自分の鼓動が早くなっているのがわかる。
「それに比べて俺なんて……。なんか、死にたくなってきた」
「簡単にそんなこと言わないでください!」
たまきの珍しくも強い口調に、ミチは半歩後ずさった。
『えぇ~、たまきちゃんがそれ言う?』
と、
『……なんかたまきちゃんが言うと、説得力あるなぁ』
の二つの言葉が声帯のところでぶつかって、言葉にならない。
「……私は、ミチ君の歌は、うまいと思います」
「……ありがとう。でも、うまくても、歌詞が切り貼りなんだってさ……」
そこでまた、ミチは深くため息をつく。
ふと気づくと、またたまきがついてこなかった。ミチは振り返る。
たまきにしては珍しく、たまきにしては本当に珍しく、まっすぐにミチの目を見ていた。
「私は……好きです。ミチ君の、バカみたいに前向きで明るい歌が。聞いてる間、何も考えなくていいので、……私は好きです」
「それってさ……俺……、褒められてるの……?」
たまきにしては珍しく、たまきにしては本当に珍しく、ミチの目をまっすぐ見つめながら、力強くうなづいた。
「はい、どうぞ」
志保がプラスチックのカップに、インスタントのスープを入れてたまきに渡した。
生暖かい風の吹く外とは違い、「城(キャッスル)」の中は冷房が効いていて、たまきは帰ってきてすぐにくしゃみをした。ようやく服を着替えられたが、志保が「風邪ひくといけない」とスープを作ってくれた。たまきはそれをふうふうと冷まして飲む。
「へえ、あのおじさん、元気だったんだ」
「はい」
志保は、たまきがおじさんに再会した話に喜んだ。
「志保さんの言葉に励まされたって言ってました」
「ほんと? よかったぁ! 気になってたんだぁ。亜美ちゃん、あのおじさん、元気だったって!」
志保は部屋の奥でソファに転がっている亜美に声をかけたが、亜美は興味がないらしく、
「ふうん」
とだけ言って携帯電話をいじっていた。
たまきは1つだけ、気になっていることがあった。志保なら知っているかもしれない。
「志保さん、聞きたいことがあるんですけど……」
「なに?」
志保は笑顔で聞き返した。ここしばらく、志保は体調がいいらしい。本当に笑顔が似合う。
志保に聞こうとして、たまきは聞きたかったことの名前をちゃんと覚えていないことに気付いた。何て名前だっけ。
「志保さん、……ピンセットって画家知ってます?」
「ピンセット?」
なんか違う、そう思いながら口にしたのだが、志保の反応を見る限り、やっぱり違うみたいだ。
「……ピンセットじゃなかったかもしれません」
「ごめん。美術史はあんまり詳しくないんだ」
たまきは、必死に仙人の言葉を思い出していた。
「オランダの人で……、十九世紀の人だて言ってました」
それは思い出せるのに、何で名前は出てこないんだろう。志保も頭を悩ませている。
「その画家がどうかしたの?」
「今日あった人が、私の絵を見て、その画家のことを思い出したって……」
「これじゃね?」
そう言ったのは亜美だった。どうやら、携帯電話で検索をかけたらしい。
「十九世紀のオランダ人の画家で、似た名前の奴いたぞ。フィンセント・ファン……」
「あ」
たまきの中で、パズルのピースがピタリとはまった音がした。
「それです。ピンセットじゃなくて、フィンセントです」
「じゃあこれだ。フィンセント・ファン・ゴッホ」
「ゴッホ?」
驚きの声を上げたのは志保の方だった。たまきも自分の耳を疑った。
「ゴッホって、あのゴッホ?」
「じゃねぇの?」
亜美は携帯電話の画面を見せた。画質の荒い「ひまわり」が出てきた。
画面をスクロールさせると、いくつかゴッホの絵が出てきた。夜空を描いた絵、海辺を描いた絵、自分を描いた絵。
絵筆の後がはっきりとわかる荒々しいタッチだ。まるで、絵筆の痕跡をわざと刻み付けたかのようだ。それでいて、計算したのか直感で選んだのかはわからないが、色の配置が絶妙だ。
そうかと思えば、本を描いた絵は細かく写実的だった。
たまきは、仙人の言葉を思い出した。ゴッホは、そういう風に世界が見えていたんだ。
「たまきちゃん、ゴッホの絵に似てるって言われたの? すごいじゃん!」
「……いや、『思い出した』って言われただけで、全然似てはいないそうです」
「それでもすごいよ! ねえ、見せて見せて!」
「あ、うちも見たい!」
たまきは困ったようにスケッチブックを見た。たまきにとって絵を見られるということは、裸を見られるに等しいことで……。
……この二人なら、べつにいいか。一緒にお風呂に入る関係だ。
たまきは少し顔を赤らめながら、スケッチブックを差し出した。二人がスケッチブックを覗き込む。
「へぇ、たまきちゃん、絵、うまいじゃん」
と志保。
「おもしろい絵だな。なんかさ、Ⅴ系のジャケットでこういう絵ない?」
と亜美。
「そういえばさ」
と亜美が切り出した。
「ゴッホって最後、死んじゃったんじゃないっけ」
「……そりゃ、十九世紀の人だもん。もう、死んじゃったよ」
「そうじゃなくてさ……、確か最後……」
「ああ」
志保が何かを思い出したように声を上げた。
「ゴッホって最後、自殺しちゃうんだよね」
そう言ってからしばしの沈黙を置いて、志保はタブーを口にしてしまったのではないかと不安げな顔でたまきを見た。
しかし、たまきは平然とした顔で、
「そこだけ……似てますね」
と言うと、いとおしげにスケッチブックを見つめていた。
次回 第9話 憂鬱のち誕生日(仮)
亜美の誕生日を祝うことになったたまき。祝いたい気持ちはあるんだけど、何をしたらいいのかがわからない。志保は絵を描けばいいじゃないかと勧めるが、たまきの暗い絵は誕生日には向いていない……。