海では科学の常識を超えたことが起きる。生活の痕跡は残っているのに誰もいない船、全員が何かにおびえるようにして死んでいた船、などなど……。そしてこれから話すのは、「海上でピースボートの船が丸1日消滅した」という、世にも奇妙な体験談。ただのオカルトなどではない。まぎれもない真実である。
ピースボートのだれも覚えていない1日
僕が乗っていたピースボート第88回クルーズ。108日をかけて地球を一周した。
ところが、11月21日、船がどこで何をしていたか、一切の記録が残っていない。
ピースボート88回クルーズは11月19日にタヒチの楽園、ボラボラ島を出発し、11月24日には最後の寄港地、サモアに到着した。
11月20日は間違いなく太平洋の南半球側を航海していたはずだし、11月22日も太平洋上にいた。事実、この日については船内新聞などの記録が残っている。
11月21日の記録だけがどこにもない。
記録がないだけではない。
記憶もないのだ。
11月21日だけ、誰も覚えていないのだ。
その日、船はどこにいたのか、船内で何をしていたのか、船内で何が起こっていたのか、
誰一人覚えていない。
僕自身、まったく覚えていない。
その日、ピースボートの船は完全に海上から消滅したのである。
そして、翌日、まるで何事もなかったかのように、再び姿を現した。
姿を消していた24時間もの間のことは、誰も覚えていない。
まるで「サンチアゴ航空513便」だ。
サンチアゴ航空513便とは、1989年にブラジルの空港に、35年前に消息を絶った飛行機が突然着陸した、という事件だ。中を調べてみると、なんと92人の乗客は全員白骨化していたという……。
サンチアゴ航空513便は帰ってくるのに35年もかかったが、ピースボートは1日で帰ってこれた。幸い、乗客は白骨にならなかったが、その間のことをだれも覚えていない。
いったい、どういう事なのだろうか……。
怪奇!ピースボートの船内は1日が25時間ある
この奇妙な謎を解くカギはピースボートの船内にある。
なんと、ピースボートの船内は1日が25時間あるのだという。
前々からピースボートについて、やれ左翼洗脳だのカルトだのピンクボートだの海上のビジネスホテルだの海上の老人ホームだの船室がまるで雑居房だの、怪しい噂がささやかれているが、もはやそんな次元ではない。そう、次元が違う。異次元だ。ピースボートの船内は通常とは時間の流れが違う、異次元空間なのだろうか。精神と時の部屋なのだろうか。悪の力が3倍になる魔空空間なのだろうが。
……おふざけはこのあたりにして、そろそろ種明かしをしよう。
国によって、地域によって標準時間が違う。だから、時差がある。
飛行機で旅をすると目的地の標準時に合わせて、飛行機の中でいきなり時計をずらすわけだ。「目的地のロンドンは日本より9時間遅いので、時計を9時間遅らせてください」といった感じに。
一方、船旅は一気に何時間も時計をずらすことはない。海の上でも港でも、今いる場所の標準時間に時計を合わせる。
船内には「時差調整日」という日があって、文字通りこの日に時差を調整する。前いた場所の標準時間との時差はわずか1時間。ピースボートの船はほとんどが西へ西へと進むので、地球上を西へ約1500万キロ進むと、標準時間が1時間遅れることになる。なので、時差調整日の深夜12時になったら、時計の針を深夜11時に巻き戻す。
結果、1日が25時間になるのだ。なんか、得した気分である。「わーい! 1日がもう1時間増えたぞ!」と、ちょっとだけはしゃぐ。
それを時差を乗り越える分だけ繰り返す。日本に帰ってくる頃には計、24時間分増えているわけだ。
ところがこのまま日本に帰ってくると、非常に困ったことになる。
例えば88回クルーズが帰ってきたのは12月6日なのだが、ピースボートの船内のカレンダーは12月5日になっているのだ。
このずれを直すため、日付変更線をまたぐタイミングで、丸一日無かったことにするのだ。24時間増えちゃった分、24時間消すのだ。これを「消滅日」という。なんだか、ツタヤで借りられるSF洋画の日本版タイトルみたいだ。
88回クルーズでは11月21日が消滅日、つまり、なかったこととなった。
「日本時間11月21日」なら、たしかにピースボートの船は存在していた。だが、「船内時間11月21日」はどこにもないのだ。
これが、「ピースボートの消えた1日」の真相である。
ちなみに、サンチアゴ航空513便の真相であるが……、
あれ、ただのホラ話である。ハイ終了。
不可思議!ピースボートは同じ1日を繰り返す……
以上は、「西に向かっていった時」の話である。
勘のいい人なら、もう気付いているだろう。
東に向かっていったら、逆の現象が起こる。
時差を乗り越えるたびに、1時間ずつ減っていく。1日23時間。なんだかちょっと損した気分だ。
そして、日付変更線を乗り越えると、
そう、昨日と同じ1日を繰り返す。
みんな大好き、タイムリープである。
神秘!タイムスリップするピースボート
船内で新年を迎える冬クルーズではこういうことをする、らしい。
大みそかの夜、日付変更線をまたぐ形で、船を南下させるというのだ。
つまり、船の真ん中を日付変更線が貫く形になる。
すると、船の片側は新年、船の片側は前の年、という状況が発生する。
船の右から左を行ったり来たりするだけで、新年と前の年を行ったり来たりできるわけだ。まさに、夢のタイムスリップである。