間違えて映画「タイタニック2012」を見ちゃった

『タイタニック』。言わずと知れた歴史に残る映画である。一方、『タイタニック2012』という映画がある。「タイタニック2」と呼ばれることもあるが、あのタイタニックとは全くの別物。続編でも何でもない。今回はその「タイタニック2012」を見てしまった感想である。


どうして「タイタニック2012」を見ようと思ったのか。

『タイタニック2012』を知ったのは、ビデオ屋で「タイタニック」のビデオを探していた時。

なかなか見つからずに、なにを間違えたか「アクション映画」の棚を探す僕。

するとそこに「タイタニック2012」が置いてあったのだ。

「えー! タイタニックってアクション映画のくくりだったの―!?」と驚きつつ、よくよくタイトルを見ると「タイタニック2012」。

2012? タイタニックは1997年の映画のはず。

どうやら、名前のよく似た、というか、あの映画に便乗してるとしか思えない全くの別物のようだ。

パッケージは沈む船と抱き合う男女という、どこかで見たようなデザイン。

明らかにパチモン感、B級感が漂うのだが、せっかくだ。見てみよう。

『タイタニック2012』のあらすじ

注意!映画のネタバレがありますが、結末を知っても特に問題ない映画だと思います。

映画はまず、一面の銀世界から始まる。雪と氷に閉ざされた世界……。

あれ、借りる映画を間違えたかな?

と思ったのもつかの間、今度は海岸警備隊のシーン、そして、港のシーンへと移行する。どうやらちゃんと「タイタニック2012」のようだ。

2012年。それはタイタニックが沈没してちょうど100年の年だ。

その年にお金持ちの男性ヘイデン(どういう事業でお金持ちなのかは不明)は「タイタニック2」を建造し、タイタニックが出航した4月10日に同じように大西洋横断を企画する。

……つけんなよそんな名前。するなよそんな企画。

船乗りというのはずいぶん迷信にこだわると聞く。そんな沈んだ船の名前なんて……。

と思ったけど、よくよく考えたら我が国は宇宙に飛び立ちイスカンダルに空気清浄機を取りに行く宇宙戦艦に、撃沈した船の名前を付けるような国だった。

しかし、わざわざタイタニックと100年後の同じ日に合わせて航海を企画するなんて不謹慎だ!

……と思ったけど、実はタイタニック沈没直後に姉妹船であるオリンピック号に乗って、タイタニック沈没を検証する航海が行われている。

タイタニックと構造の似ているオリンピック号に乗って、「ここで沈んだのか」「ここで○○さんはこんな行動を……」などと検証して楽しんだ。不謹慎もへったくれもありゃしない。

しかしこのタイタニック2、見た感じめちゃくちゃでかい。さすが、あのタイタニックを再現しただけはある。

見た目はタイタニックによく似ているが、設備は最新鋭だ。

なんと、今回は全員分の救命ボートを乗せているという。あのタイタニック号は半分しか積んでいなかったというのに。

まあ、当たり前なんだけどね。タイタニック号の事故を契機に、救命ボートは全員分を乗せるということが義務付けられた。

それまでは救命ボートは「沈む船と、救助に来た船の間を、往復するもの」と考えられていた。だから、別に全員分の救命ボートがなくても、往復すればいい、そう考えられていたのだ。タイタニック号の時も「8時間は沈まないだろう」などという楽観的な意見もあったが、実際は2時間40分でタイタニックは沈み、それまでに救助船は間に合わなかった。

だが、オーナーのヘイデンは言う。

「デッキに積んである救命ボートはただの飾りさ。本物は船底にある」

え、船底?

救命ボートって、船底に積むものなの?

自分が船に乗っていた時のことを思い出してみても、避難訓練の終わりはいつも甲板にある救命ボートの前。船底に連れて行ってもらったことも、船底にボートがあるという話や船底に避難しろという話を聞いたことも、ない。

タイタニック号は船底から徐々に浸水していったはずなのに、そこに救命ボートを置いて大丈夫なのか?

さて、船にはヘイデンのかつての恋人で看護師のエイミーも乗っていた。このエイミーが主人公だ。

タイタニック号の出航からちょうど100年後に出航したタイタニックⅡだが、100年前とは造船技術が全然違う。レーダーで氷山も見つけられる。そもそも今回は氷山のあるような地域にはいかない。

だから大丈夫だ、と船の速度をグングン上げる船長。

100年前の事故の原因の一つじゃないかと言われてるのが、「船長が調子乗って船の速度を上げ、よけきれなくなった」なのだが……。

一方そのころ、カナダのグリーンランドではエイミーの父でヘリで海上の安全を守っているメイン大佐が、グリーンランドの大規模な氷山崩落による津波の発生の情報をつかんでいた。

とはいえ、船は実は津波に強い。東日本大震災の時も、漁船があえて沖に出ることで津波をぷかぷか浮かんでやり過ごした、などという話がある。津波の威力が増すのは浅瀬、つまり沿岸部。入江の奥に行くとさらに威力が集約されて危ないが、沖で遭う津波はそんなに怖くない。

だが、問題は津波が押し流すであろう氷山の方だという。すごいスピードで氷の塊が海の上を転がってくるわけだ。

この情報はタイタニック2にも伝えられ、船は津波を避けようとする。まず乗客たちに船底に避難するように指示が出て、次に船内放送で乗客に救命胴衣を着るようにアナウンスが流れ、パニックに陥る乗客たち。悲鳴をあげながら走り回り、転ぶ人が続出する。

いや、パニクりすぎだ! 「救命胴衣を着ろ」と言っただけで、まだ船体を放棄するとか、沈没するとか、そんな話してない。

そもそも、この時点で船にはまだ何も起きていない。これから津波が来て、運が悪かったら氷山と激突するかもしれないから、一応救命胴衣を着ておいてください、というだけの話だ。

なのに蜘蛛の子を散らしたかのように逃げ惑う人たち。

う~む、避難訓練をうけていれば「やばい事態なのかもしれないけれど、パニックを起こすほどのことではない」とわかりそうなものだが……。

さてはこいつら、避難訓練を受けてないな?

そんなはずはない。タイタニックの事故以降、24時間以上船に乗る場合は、「まず最初に避難訓練を受ける」というのは義務となったはずなのだから。やってないなんてまさかそんなことは……。

そして、ついに津波が到達し、津波に押し流された氷山がタイタニック2と激突。船底に穴が開き、浸水を始めてしまう。

沈没までのタイムリミットは3時間。だが、もしタービンが吹き飛べば、30分しか持たないという。

そしてここでとんでもない知らせが。

「船底に積んでいた救命ボートが、浸水の影響で全部壊されました!」

全部!? 全部だめになったの!?

ほらぁ。だから言ったじゃん。船底になんて積んでおくから……。

でもまだ、甲板の方の救命ボートがあるはず……。

ヘイデン「あんなのは飾りだ」

えー!? 飾り!? 役立たず!?

さて、このままでは船が沈む、となって船底に避難を始める乗客たち。

なぜ船底? どうやら、まだ使える救命ボートが船底にあるらしい。そしてやっぱり甲板にあるボートは飾りらしい。

パニックになり押し合いへし合いする乗客たち。「女性と子供を優先しろ」という、100年前と全く同じアナウンス。

このパニックっぷりを見る限り、やっぱりこいつら、避難訓練受けてないな。

ああ、なんということだろう。ヘイデンも船長も「100年前の悲しい歴史を乗り越える」と息巻いていたのに、100年前の悲劇の教訓をないがしろにしていたのだ。これじゃ初代タイタニック号も浮かばれない。いや、沈んだんだけどさ。

一方、主人公のエイミーはヘイデンとともに仲間を助けに行ったりしているうちに逃げ遅れる。

救命ボートで脱出できた乗客たち(船底がぱかっと開いて、そこから救命ボートで脱出できるのだ!)は、100年前の乗客たちがそうしたように、沈みゆくタイタニック2を見る。船はもう半分ほど水につかっている。

結構早いな。こりゃ、3時間もかからずに沈むかも。

と思った矢先、タービンが爆発! 恐れていた事態が起きたわけだ。その様子を察したヘイデンも、あと30分しか持たないとエイミーに告げる。

脱出しようとするエイミーとヘイデンだったがさまざまなアトラクション、じゃなかった、障害が待ち受けていて、なんだかSASUKEを見ている気分だ。だが、二人して身動きできない状況の陥り、そこでメイン大佐からの通信が届く。

それはより大きな津波が迫っており、この規模では救命ボートも役に立たない。むしろ、タイタニック2に残っていた方がまだ安全だ、というもの。

なんてこった! もう救命ボートは出ちまったぜ。

そうとは知らない救命ボートの乗客たちは、沈みゆくタイタニック号を見つめる。船はすでに半分ほどが水につかり……。

待って! さっきから結構な時間がたっているのに、全然船が沈んでない!

あれ、案外この船、大丈夫かも。う~む、みんなが大慌てでボートに乗り込んだ意味とは……。

そして、津波が直撃し船は転覆。そしてどんどん水が入ってくる。

ヘイデンは一つしかない潜水スーツと酸素ボンベをエイミーに渡す。自分は死ぬと覚悟して。

二人のいた部屋は完全に水没。エイミーはなんとかヘイデンを連れて脱出し、メイン大佐のヘリへと乗せるが、すでにヘイデンは帰らぬ人となっていた……。

おしまい。

……ここで終わり!? もうちょっとさあ、感傷に浸る時間とか、余韻に浸る時間とかないの!? それとも、船が沈没する映画で「浸る時間」とかNGなのか?

だが、ヘイデンは助かっても、「生きててよかったねぇ」といえる結末になったかどうかはちょっと疑問だ。

初代タイタニック号の社長、イズメイはタイタニックに乗船していたが、生還した。しかし、一番の責任者がおめおめと生きて帰ってきたということを快く歓迎する人は少なかった。

イズメイ自身も後ろめたさがあったらしく、早々にタイタニックを運航していたホワイト・ライン社の社長を辞め、隠居してしまう。イズメイの婦人いわく、イズメイの人生はあの事故で終わってしまった、とのこと。

タイタニック2も事故自体はしょうがなかったとはいえ、ヘイデンも生きて帰ったとしてもオーナーとして同じような運命をたどっていたと思う。

だって、避難訓練やってないんだもん。

「タイタニック2012」の感想

「ダメな映画を盛り上げるために簡単に命が捨てられていく」

Mr.Childrenの「HERO」という曲の歌詞だが、まさにこの映画のためにあるような言葉だ。

あまり筆舌尽くして「こんなのは駄作だ!」と吠え立てるのも悪趣味でどうかと思うが、1点だけ。

アクション映画の棚にあったのだが、アクションが薄い。

もっとも、この映画は決して予算が高くはない。制作費は50万$。日本円にして約6500万円ほど。映画には詳しくないが、一説には日本映画の製作費の平均は5000万円ほどといわれている。

ハリウッドの超大作は300億円。本家のタイタニックはこれよりも高い。泡吹いて倒れたくなる金額だ。

ハリウッドの超大作と比べて予算がないのだからアクションが薄いのはしょうがないとして、もう少し緩急があったほうがいいのかな、と思った。「息つく暇もない」というが、息つく暇はあったほうがいい。

たとえば、「天空の城ラピュタ」だと、手に汗握るアクションシーンと、ほっこり一息つくシーンが交互に繰り返されていて、それによりアクションシーンにメリハリが生まれている。

ちなみに

なんと、実際に「タイタニック2号」を建造して、同じルートを航海するという計画があるらしい。世の中には物好きがいるものである。とりあえず、避難訓練はしっかりと。

投稿者: ノック

民俗学ZINE作家。 「バズらないモノづくり」をテーマとする「ノンバズル企画」を主宰。民俗学専門ZINE「民俗学は好きですか?」を企画・執筆・製本・販売しています。「民俗学とは『生きること』を探求する学問」をテーマに、民俗学の魅力をわかりやすく、面白く、奥深く紹介していきます。