「裏」が好きという話

僕は「裏」という言葉が大好きだ。

たとえば、表通りよりも路地裏の方が好きだ。ネコしか歩かなさそうな路地裏の通りを見つけると、ワクワクしてしまう。そこに隠れた名店があればなおさら。

身の回りをぐるりと見てみても、「裏」が似合うようなものばかりだ。

一番の趣味は何かと聞かれたら、ラジオだ。テレビの時代が終わり、時代はyou tubeだV チューバーだといわれている中、ラジオばっかり聞いている。

ラジオというのは「裏」の放送メディアなのだ。テレビやyou tubeが何万人もの視聴者がいるのに対し、ラジオを熱心に聞くリスナーは少ない。その時間、その周波数にダイヤルを合わせれば放送していると、知っている人たちだけが聞ける路地裏の名店のようなものだ。

というわけで、you tubeなんぞはたまにしか見ない。たまにそのyou tubeで何を見ているかと言うと、アニメの番組を見ている。アニメそのものじゃない。好きなアニメの声優さんたちが出演して、そのアニメの裏話とか新情報とかを話す生配信番組だ。

そのような僕が好きになるアニメはたいてい、そこまで派手にヒットしていないものが多い。

とはいえ、大コケしたわけでもない。大コケしたアニメに「新情報」なんてない。

大ヒットはしてないけど、でもクオリティが高く、ファンを中心に根強い人気があって、何とかして新作が作られている、そう、アニメ業界の裏街道を行くようなアニメが好きなのだ。

みんなが知ってる人気アニメにはあまり興味がない。いや、おもしろいと思っても、爆発的な人気が出てしまうと妙に冷めてしまう。

そうじゃなくて、知る人知る名作、そんなアニメが見たくて、アニメの裏通りをうろうろしているわけだ。

僕がやっている民俗学だって、「裏の歴史学」なのだ。

戦国武将とか、幕末の志士とか、フランス革命とか、有名人や大事件を取り上げるのが歴史の表通りなら、「ふつうの人のふつうの暮らし」の歴史を研究する民俗学はまさに「裏の歴史学」だ。そもそも、民俗学は書物に残らない歴史を探求することが目的で生まれたのだ。書物が表通りの歴史なら、暮らしの文化や言い伝えに残された「裏の歴史」があるのである。

そういった裏の歴史を求めて、農村などを調査するのだけれど、さらにそういった農村文化の外にも、漂泊の民だの化外の民だのと呼ばれる人の文化がある。裏の歴史のさらに裏があって、裏の裏は表ではなく、より深い裏の世界となっている。

「裏」とはつまり、人の集まらない場所、人の目が向かない場所のこと。表と裏というのは、単に前か後かという話じゃない。人の目が集まるか集まらないかなのだ。

人の目が集まる場所というのはどんなところかと言うと、つまりは「密」になるような場所だ。「裏」を好むということは、そういうところを避け、人目につかない場所、人目につかないものを好むということ。

だから、そろそろ「密」を避けて「裏」が流行ってもいいんじゃないか、と思うのだけれど、流行っちゃったらそれはもう「裏」ではないような気もするし、流行ったら冷めちゃうから、はやらなくていいか。

投稿者: ノック

民俗学ZINE作家。 「バズらないモノづくり」をテーマとする「ノンバズル企画」を主宰。民俗学専門ZINE「民俗学は好きですか?」を企画・執筆・製本・販売しています。「民俗学とは『生きること』を探求する学問」をテーマに、民俗学の魅力をわかりやすく、面白く、奥深く紹介していきます。