ノンバズル企画3周年!

ノンバズル企画の活動が3周年を迎えました。

3年と言うと、体力づくりのためにバスケを始めた木暮君が、「バスケが好きなんだ」と言えるくらいの年月が経ってますね。

ここまでの3年を振り返ってみると

1年目:ZINEを作り始めるため、いろいろと勉強。半年かけて1冊完成させる。

2年目:コロナ禍に突入して即売イベントが激減するも、何とか活動を進める。11月には初めて文学フリマに出店。

3年目:リアルやオンラインで、少しずついろいろなイベントに出るようになる。

ここまで、「民俗学は好きですか?」をvol.6まで発行。現在、vol.7の制作も大詰め!

こうやって振り返ると、「スタートの3年」って考えると、決して悪くはないなぁ、と思いますね。謙遜はしないです。

考える限りいちばん最悪な状況が「誰にも見向きされない」「さっぱり売れない」だけど、ありがたいことに、そのルートにはなってないわけで。

さて、4年目はどうしよう。

販路拡大、と言うのも考えるんだけど、やっぱりノンバズル企画に「成長路線」と言うのは似合わない。

いまや、何でも何でも数字じゃないですか。フォロワー何人とか、いいねが何個とか、再生回数が何回とか。どれだけそれに中身が伴ってるんだか。

振り返って自分に置き換えると、「成長路線」とか「販路拡大」という言葉が似合うほどに中身が伴っているんだろうか。

そもそも、中身とは何だ。

ノンバズル企画を立ち上げた時に掲げたのが、「量」より「質」であって、それは「バズることが正義」となっている現代社会への反骨なんです。だから「ノンバズル」という名前なんです。

となると、質が伴っていないのに、量の拡大ばかりに気が向く、と言うのはちがうでしょう。

まず、質が高いものをしっかりと作って、その質の高さが容れ物からあふれ出して、量を増やしていく、というのがスジじゃないですか。

じゃあ、質の高さをどうやって確認するのかだけど、まずは自分が満足できるものを作ること、そして、人からの反響がしっかりと返ってくることかな、と思うのです。

もちろん、そこに至る道はあまりに険しい。いつも「正解がわからない!」と言いながら作ってますから。「こうすれば質が上がる!」っていう確実な道があるなら、ぜひ教えてください。

正解はわかんないけど、「こういうものを作りたい!」っていう理想はあって、ただ、そこに至るための「正解がわからない!」。

でも、正解がわかんないからモノ作りは面白いんですね。「こうすればうまくいくよ」なんて方法論が開拓されているんだったら、やる意味がない。正解がわからない道を歩いていくからこそ、冒険なのです。

まだまだまだまだ止まんないよ!

小説 あしたてんきになぁれ 第34話「モノレールのちブレスレット」

ケンカしたり仲直りしたりのお泊りの翌日、ミチはたまきを外に連れ出すことに。二人でお出かけ、と言ってもミチとたまきの場合は……。あしなれ第34話、お待たせしました!


第33話「柿の実、のち月」

「あしたてんきになぁれ」によく出てくる人たち


目覚めると、朝だった。

ミチは昨日の買い物で、朝ごはん用に菓子パンを二つ買っておいた。二人でそれをモチャモチャと食べる。

ミチもたまきも、何もしゃべらない。

朝、目が覚めた時、たまきはふとんを独り占めして寝ていた。ゆうべ、たしかにたまきは、ミチにもふとんがかかるようにとふとんを横にしたのに。

そして、ミチはとっくに起きていて、テレビを見ていた。

つまり、ミチはたまきより早く起きて、またふとんの位置を変えたということである。

ということは、たまきが夜中にふとんの位置を変えたことにミチは気づいたはずだ、ということであり、さらに突っ込んでいえば、「ミチが自分のふとんをたまきに使わせて、自分は腹を出して寝ていたことに、たまきが気づいた」ということに気づいたはずなのだ。

そのことに関して、ミチは何も言わないし、たまきも何も言わない。

男子というのは、女子に柿の実をぶつけて痛がるのを喜ぶような野蛮なサルであり、その中でもミチというサルは、優しくパスを出したつもりで思い切り柿の実をぶつけてくるような奴である。力のさじ加減がわからないようなヤツなのだ。

だからこそ、稀に、そして、急に、やさしく柿の実をパスされると、どうしたらいいのかわからず、困る。

ただでさえおしゃべりが苦手なうえに、こんな時に相手にかける言葉なんてたまきは持ち合わせていないのだ。

むしろ、ミチが何も言わないのは、不自然じゃないか。いつも、大した用もないのに話しかけてくるくせに。「俺がふとんかけてあげたこと気づいた?」って自分から自慢したっておかしくないくらいだ。

なのに、どうして、今朝に限って黙っているんだろう。

たまきはミチの方に目をやった。ミチは二つ目のコロッケパンの袋を開けていた。

「その……」

たまきは、パンの袋をくしゃりと潰しながら言葉をつづけた。

「……なんかないんですか?」

「……なんかって?」

ミチは怪訝な顔をした。

「あ、パン二個じゃ足りなかった?」

「……いえ……別に……」

これ以上考えるとおなかが痛くなるので、たまきは考えるのをやめた。きっとふとんが勝手に動いたんだ。そうにちがいない。「ミチがこっそりふとんをかけてくれた」と考えるより、まだこっちの方が現実的だ。

「それでさ、たまきちゃんはこの後、どうするの?」

「えっと、夕方の六時に『城』に集合、って約束になってます」

「六時まで、どうしてるの?」

今は朝の八時だ。

「えっと……いつもの公園に行って、絵を描いたり、ぼうっとしてたりしようかなと……」

「十時間も?」

「はい」

たまきは、特に深く考えずに返事をしたが、しばらくしてミチの顔を見て、

「……ヘンですか?」

と聞き返した。

「さすがに十時間はおかしいって。そんなに長く公園にいたら、補導されちゃうんじゃないの?」

「……たしかに」

たまきとしてみれば、公園で十時間ぼうっとしてるくらい、たいしたことないのだけれど、フツウの人が見れば、子供が公園で十時間もぼうっとしてたら、やっぱり警察を呼びたくもなるのだろう。社会的にはたまきは、家出中の不良少女なのだ。不良と言っても家出してぼうっとしてるだけなのだけど。

太田ビルの屋上でぼうっとするのはどうだろうか。だけど、万が一、オーナーが屋上にやってきたら面倒だ。たまきみたいな子が屋上でぼうっとしてたら、それこそ、思い詰めて飛び降りようとしているようにしか見えないだろう。

誰にも迷惑をかけずに、ただぼうっとしていたいだけなのに、それすらできないなんて、なんて理不尽な世の中なんだろう。

それにしても困った。困った、困った。これから十時間、どこでぼうっとしたらいいんだろう。

そんなことを考えながら、食べかけのパンをじっと見ていたたまきだったが、そこにミチが口を開いた。

「特に予定ないならさ、今日一日、付き合ってよ。ちょうど行きたい場所があって」

「ほへ?」

不意の申し出に、たまきはパンを落としそうになった。

「予定、ないんでしょ?」

「ないですけど……なんで……わ……」

そう言って、たまきは口を閉じた。しばし、沈黙が流れる。

「……ムリです」

「無理って何が? 俺と一緒に行くのが?」

「あ、そういうんじゃなくて……」

たまきはそういうと再び黙り込んだ。それから、ごくりとつばを飲み込んだ。

「……行きたい場所って、どこですか?」

「オダイバのモール」

だからそれはどこだ、と聞こうとしたけど、やめた。

「……一人で行けばいいじゃないですか」

「いや、一人じゃいけない場所なんだよ」

そんな場所などあるのだろうか。二人で石の上に手を置いて呪文を唱えないと開かないとか、そんな場所なのだろうか。

さっぱり気が進まないが、どうせ他に行く場所もないし、何より、一晩お世話になったんだから、ここは多少気が進まなくても、ミチのいうことを聞くべきなのではないか。

「……じゃあ……行きます」

「よし、行こう」

そういうことになった。

 

写真はイメージです

お昼近くになってから、二人はミチの家を出た。

電車に乗って、東京の東の方に向かうにつれて、たまきは不安になってきた。東京の東側にはいい思い出がない。「オダイバノモール」という所もきっと、おしゃれ警察どころかおしゃれ軍隊が跋扈するような、恐ろしい場所に違いない。

電車の中では、ミチがずっと話しかけてきて、たまきはただただ曖昧な返事をするだけだった。ゆうべもずっと一緒にいたのに、よくもまだ話すネタがあるもんだ、と妙に感心した。

やがて、モノレールの始発駅にやって来た。ここで乗り換えのようだ。

たまきは、モノレールに乗るのは始めてだ。正直、電車との違いがよくわからない。電車はレールが二本で、モノレールは一本だ、なんて話を聞いたことがあるけど、だからなんだというのだろう。

乗り換えで移動している時も、ホームでモノレールを待っている時も、ミチはずっと話しかけてきた。この男が、今朝に限って何も言わずにパンを食べていたことが、本当に不思議でならない。

モノレールがやって来た。モノレールの中は電車に比べると、どことなく未来っぽい。二人は、窓側の席に並んで腰を下ろした。

ドアが閉まり、モノレールは静かに動き出す。ガタンゴトンいわないのも、未来って感じだ。

たまきは、ミチが座っている方とは反対側、モノレールの進行方向に首をねじって、窓の外を見ていた。ミチにはたまきの後頭部が見えているはずなのだけど、かまわずに彼はしゃべり続けている。もしかして、たまきの背後霊にでも話してるんじゃないか、とちょっと不安になった。

モノレールはホームを抜けて、東京の街中へと滑り出す。

窓から見える景色は、たまきが今まで見たことのないものだった。

地面よりも高いところを、モノレールは走っていく。周囲には、さらに高いビルばかり。まるで森の木々の間を飛ぶ鳥のように、モノレールは高層ビルの立ち並ぶ東京を滑走していく。

そう、モノレールから見える景色は、まるで空を飛んでいるかのようだった。「モノレール」なんだから、レールの上を走っているはずなんだけど、窓から見える景色は、「空を飛ぶ不思議な乗り物」のそれだった。ガタンゴトンという音すら聞こえないので、本当にレールの上を走っているのか、疑いたくなる。

飛行機から見える景色というのもこんな感じだろうか。いや、飛行機はこんな低空を、それもビルとビルの間を縫うように飛ぶことなんてできない。

音のない乗り物に乗って、ビルとビルの間を縫うように飛ぶ不思議な乗り物。まるで自分が、鳥か幽霊にでもなったかのようで、たまきにはとても新鮮だった。

やがて、ビルやマンションが立ち並ぶエリアから、物流倉庫が目立つエリアへと入っていった。と同時に、倉庫の後ろには海が広がっているのがわかる。たまきにとって、海を目にするのは久しぶりだった。

さらに進むと、大きな橋が現れる。橋は海の上を渡り、対岸の島へと続いている。島にはこれまた未来っぽい建物。たしか、どこかのテレビ局だったはずだ。

この時、たまきは初めて、ミチが言っていた「オダイバノモール」が「オダイバのなにか」であることに気づいた。

 

写真はイメージです

 

もちろん、たまきがオダイバに来るのは初めてだ。

駅の外に出て振り返ると、高いところにあるレールの上を、モノレールが走っている。なんだか、枝の上をもにょもにょ動くイモムシみたいだった。

オダイバのことなんて、ほとんど知らない。海の上にあるということと、テレビ局があるということぐらいだ。

「オダイバはね、昔、大砲が置かれた場所なんだって。だから『オダイバ』っていうらしいよ」

と、ミチが携帯電話の画面を見ながら言った。なんのことはない。こいつも調べながら話しているだけだ。そうまでしても、おしゃべりのネタが欲しいのだろうか。

オダイバは島のはずなんだけど、ぜんぜん島にいるという感じがしない。道路の上は何かの宣伝カーがワンワンとけたたましく通り過ぎ、おしゃれな人たちが歩道の上を行きかう。周りを見渡すと、どこか直線的で、近未来っぽい無機質なビルが見えた。きっと、ここが「おしゃれ軍隊」の基地に違いない。

ほかには、どこかのお店のロゴマークを多く連ねる巨大な建物がある。ロゴマークも、シンジュクの居酒屋のような主張の強いものではなく、スタイリッシュなものばかり。ビル、というよりは、横に長い。こっちはきっとおしゃれ要塞に違いない。

そうだ、オダイバには大砲がある、とミチが言っていたではないか。きっとたまきみたいな子は、このおしゃれ要塞から大砲を撃たれて死んでしまうのだ。いかに死にたがりのたまきと言えど、「おしゃれ軍隊に殺される」は、「絶対にイヤな死に方ランキング」のトップを狙えるだろう。

ところが、こともあろうにミチはそのおしゃれ要塞に向かって歩き出したのだ。

しばらく歩いてから、たまきがついてこないことに気づいたミチは、立ち止まった。

「どうしたの、たまきちゃん。こっちだよ?」

「その……行きたかった場所というのは……」

「ここだよ。オダイバのモール」

きらびやかなモールに、若者たちが次々と吸い込まれていくのを尻目に、まるでそこに張り付いた貝のように、たまきは動こうとしない。それが、ミチには奇妙に映る。

「どうしたの? 行こうよ」

「……一人で行けばよかったじゃないですか。なんで、二人じゃないといけないんですか……?」

「え、だって、一人で入るのは、なんかイタいじゃん?」

ああ、やっぱり。

場違いな人間が入ってきたら、即座におしゃれ軍隊に囲まれて銃弾の雨を浴びせられ、ハチノスにされてしまうのだろう。さぞかし痛いに違いない。

それならば、たまきみたいな子は、やっぱり入ってはいけない場所じゃないか。たまきみたいな子は一人で入ろうが二人で入ろうが、たとえ団体ツアーでやって来たって、銃殺されるに決まってる。

「ほら、せっかく来たんだから、行くよ」

そういうと、ミチは先に進んでしまった。

おしゃれ要塞の中に入っていくのは嫌だけど、おしゃれ要塞を目の前にして、一人でポツンと待っているのは、心細すぎる。そうだ、シブヤのスクランブル交差点で一人、亜美と志保を待っていた時も、心細かった。あそこだって、おしゃれ戦場ヶ原だったじゃないか。

たまきは意を決して、深くため息をつくと、ミチの後についていった。

 

写真はイメージです

服屋。チョコ屋。服屋。服屋。靴屋。

かばん屋。メガネ屋。服屋。なんかよくわかんない店。

おしゃれ要塞の中は、シブヤで入ったおしゃれ摩天楼によく似ていた。

たまきにとってはなじみ深いメガネ屋ですら、SF映画に出てきそうなつくりだ。たまきみたいに地味メガネの子が入ったら、ビームの出る剣で斬られてしまうに違いない。

だいたいどうしてこんなに服屋さんばっかりなんだろう。シブヤも、シンジュクも、ギンザも、どこへ行っても服、服、服である。服なんてめったやたらには破れたりしないんだから、服屋さんなんて何個もなくたっていいじゃないか。

かばん屋さんもやたらに目立つ。驚いたことに、かばん屋さんの正面に、別のかばん屋さんがあるのだ。ケンカとかにならないのだろうか。

たまきはミチの後ろをとぼとぼとついていく。すれ違う他の若者たちとのおしゃれ勝負にすっかり負けている気がするので、たまきは下を向きながら歩いた。

ミチの靴が見える。たまきの前を歩いている。

ミチの靴を視界の端にとらえながら、たまきは床のタイルを見ていた。

普段はこういうお店に入らないし、入ったとしても床のタイルなんて気にしたことなかったけど、注意して見てみると、意外と模様が色とりどりで面白い。幾何学的な規則にのっとって図形が描かれていたり、不規則に線が走っていたりで、思ったより飽きない。

それでいて、商業施設の床のタイルってやつは、主張しすぎない。それはそうだろう。お店の主役はなんていっても商品なのだ。床のタイルの方が目立ってはいけない。あくまでも、背景でなくてはいけない。

ところが、改めて床のタイルを見てみると、意外と美しいのである。デザインした人間のこだわりと、それでいて目立ち過ぎてはいけないのだという美学を感じる。床のタイル専門の美術館があったっていいくらいだ。

区画ごとに変化していくタイルを目で追っていると、不意に、たまきは何かにぶつかった。

顔を上げてみると、すぐそばにミチがいて、たまきの方を向いている。どうやら、立ち止まったミチに気づかずに、ぶつかってしまったみたいだ。

「ご、ごめんなさい」

「たまきちゃんさ、どうしてとなり歩かないの?」

「……?」

そんなこと言ったって、たまきは行き先もわからず、ミチについてきただけなのだから、ミチの後ろを歩くに決まっているじゃないか。

「となり歩かないと、恋人感が出ないだろ?」

相変わらずこの男は、言ってることがわからない。

「私……、ミチ君の恋人じゃないです」

「いや、そうだけどさ……、ほら、せっかく来たんだし……」

そういうと、ミチはまわりをきょろきょろと見渡す。

「ほら、この店、カップル率高いしさ……。せっかく二人で来たんだしさ、カップルっぽく見えた方が、恥ずかしくなくない?」

「……私は、ミチ君とカップルに見られることの方が、恥ずかしいんですけど」

「いや、でもそれじゃ、なんのためにたまきちゃん連れてきたのか……」

たまきは、半歩、ミチに近づいた。

「なんのために私を連れてきたんですか?」

「え、いや、それは、……たまきちゃんに楽しんでもらおうと……」

「……じゃあ、私のことは、ほっといてください」

そういうと、たまきは、半歩、ミチから離れた。

 

ミチが行きたかったという靴屋に二人は立ち寄った。

あれこれ靴を選ぶミチを、たまきはちょっと離れたところから見ている。

限定のスニーカーがどうのこうのと言っていたが、だいたいどうして、靴なんて欲しいのだろう。靴なら今、履いてるじゃないか。今ある靴の何が不満だというのだろう。

「このモデル、欲しかったんだよねぇ。でも、色で迷っちゃってさ」

買ったばかりの靴の入った紙袋をぶら下げながら、ミチが言う。

靴を履いているのに新しく靴を買うのも不可解だけど、靴を買うためにわざわざオダイバに来るのも意味が分からない。靴屋だったらシンジュクに大きなお店があることぐらい、たまきも知っている。どうして、わざわざオダイバなんだろうか。

「たまきちゃんはさ、なんかほしいものないの?」

前を歩くミチが、たまきの方を振り向きながら言った。

「……特には」

「せっかく来たんだから、なんか買ってあげるよ」

欲しいものなんてない、と言ったのに、どうして「買え」というのだろうか。

そういえば、さっき、大きな本屋さんを見かけた。たまきには興味のない服屋さんばっかりの場所だからか、いつもよりも本屋さんに立ち寄りたいような気がしてくる。

「あの、じゃあ、さっき見かけた本屋さんに……」

「本屋さん? そんなの、どこにでもあるじゃん。そうだ、なんかアクセサリーとか買ってあげるよ」

どうしてこの男は、たまきが欲しいものを勝手に決めるのか。

 

ミチとたまきが訪れたテナントは、アクセサリーをはじめとする小物を売る雑貨店だった。アクセサリーと言っても、宝石をあしらったような高額なものではない。髪飾りとか、ブレスレットとか、数百円か、高くても数千円で買えるような安価なものがそろっている。

「なんかほしいものないの?」

とミチは言うが、とくにはない。

たまきはとりあえず、店の中をうろうろしては見たものの、別にこれと言ってほしいものはなかった。

耳につけるタイプのアクセサリーをぼんやりと眺めていた時だった。

「なにかお探しでしょうか~」

とつぜん背後から声をかけられ、たまきはビクッとなって振り返った。

女性の店員さんがニコニコしながら立っている。おしゃれ戦闘力は明らかに高い。

「イヤーアクセサリーをお探しですか~」

え、えっと、それ、私に話しかけてます?

見れば、店員さんはまっすぐたまきの方を見ている。たまきに話しかけているのだ。

「こちら、今月入荷の新作でして、お客様の髪型でしたらこの辺りのカラーがオススメでして……」

「あ、あの、じ、自分で探すんで、だだだ、だいじょうぶです」

たまきは、殺虫剤でもかけられたかのようにその場を離れた。

黙って買い物させてくれればいいのに、どうして話しかけてくるんだろう。

同じ売り場の、別の場所で、さてどうしたもんかと佇むたまき。

すると背後から

「お客様、なにかお探しでしょうか~」

「ふぁっ!」

まるでお化け屋敷にいるかのような声を出して、たまきは振り返った。

見ると、そこにはさっきとは違う女性店員が、やっぱりニコニコ微笑みながら立っていた。

「こちら、今月入荷の新作になってまして~」

そ、それはさっき、聞きました。

「どういったものをお探しですか~」

「ま、ま、まみむめ……」

もうだめだ。ころされる。

たまきが何かに絶望しかけた時、横からミチが現れた。

「あ、あの今っすね、この子ににあうアクセサリー探してるんっすよ」

そういってミチはたまきの肩に手を置いた。

たまきは身をよじってミチから離れる。

「だから、私は別にいらないって言ってるじゃないですか。ミチ君が勝手に買わせようとしてるだけです」

「でも、アクセサリーつけたら、女子力上がるよ」

「……別にいいです」

「えー、女子力あげて、もっとかわいくなった方がいいと思わない?」

ミチは店員の方を見ると、

「ブレスレットなんてどうっすかね。頭じゃなくて腕とかにつけるようなやつだったら、恥ずかしがりの子でもつけやすいと思うんすよ」

「それでしたら~、こちらの商品などは、色あえいが控えめですので、シャイな方にも良いかと……」

「わ、私、別に恥ずかしいわけじゃありません。ほんとにいらないんです……」

「いいじゃんいいじゃん、買ってあげるって言ってるんだから。じゃあ、これひとつください」

そういうとミチは、緑色の千円そこらのブレスレットをレジに持って行った。

「だから、いらないって言ってるのに……」

というたまきを横目に、レジでミチは財布を開く。

「プレゼントですか~」

店員さんがバーコード片手に尋ねてきた。

「まあ、そういうことになるんすかね。ハハハ」

「後輩さんにプレゼントなんて、素敵な先輩さんですね~」

「センパイ……」

ミチはなぜか、ちょっとがっかりした表情を見せた。

 

二人は、商業施設の中にあるカフェでお昼ご飯を食べることにした。

ご飯をあらまし食べ終え、たまきは残ったアイスカフェラテを飲んでいる。

たまきは買ってもらったブレスレットを手にしていたが、身につけずに、リュックの中にしまった。

「つけないの、それ? せっかくなんだから、つけなよ」

「……いらないって何度も言いましたよね」

そういうとたまきは、アイスカフェラテのストローに口をつけた。

コップの中にはブクブクと茶色い泡が立っては消える。

ミチはそんなたまきを、何か不満げに見ていた。

「……たまきちゃんさ」

「なんですか」

「敬語、やめてみない?」

ミチは、左手で頬杖しながら話し始めた。

「俺らさ、出会ってもうそこそこ経つわけじゃん。昨日から、ずっと一緒にいるわけだし。それに年だって一個しか違わないんだしさ、もうそんな気を使わなくていいっつーか、もっとラクにしていいと思うんだ。亜美さんや志保ちゃんにも敬語なんでしょ? 一緒に暮らしててさ、疲れるでしょ。だからさ、敬語やめてさ、タメで話してみない?」

そういってミチはたまきの反応を見た。いいこと言うもんだと感心しているか、驚いているか、はたまた、照れくさそうにしているのか。

だから、ミチの「タメ口提案」に、たまきが心底嫌そうな顔をしているとは、全くの予想外だった。

たまきは、すごくイヤそうにミチの方を見た後、何も言わずにストローに口をつけた。

「……えっと、タメ口でいいんじゃない、って話んなんだけど……」

「……どうしてそんなこと言うんですか?」

え、えっと、オレ、なんかマズいこと言いました?

「私はこういうしゃべり方がいちばん楽だから、そうしてるんです。なのに敬語をやめてため口で話せとか、なんでそんなひどいことを言うんですか?」

「ひ、ひどくはないでしょ? 俺は別に、たまきちゃんもタメ口で話した方がラクかなって思って……」

「だから、私は今の話し方のほうが、楽なんです。なのに、私が気を使ってるとか、疲れてるとか、なんで勝手に決めつけるんですか? おかしいですよね? おかしくないですか?」

え、オレ、怒られてるの、これ?

「でもさ、俺ら、ほらさ、一夜を共にした仲じゃん」

「ヘンな言い方しないでください。たまたま一緒にいただけです」

そういうとたまきは、ふうっとため息をついた。

「むしろ、私の心に土足で入ってこようとするミチ君こそ、ため口やめて敬語で話すべきです」

……解せぬ。

たまきはストローに口をつける。ブクブクと泡が湧いては消える。なんだか、この場の空気に出したくはない感情を、アイスカフェラテの中に閉じ込めているかのようだ。

「……ミチ君は」

たまきは、ミチの目を見ずに切りだした。

「ほんとは海乃って人と、ここに来たかったんじゃないですか?」

カフェのテラス席への入り口を誰かが開けた。少し冷たい海風が一瞬、店内に入ってきた。

「……あの人の代わりに私をここに連れてきたんですよね」

ミチは何も言わず、目をそらした。

「……なんとなくですけど」

そういうと、たまきはアイスカフェラテを飲み干した。

「……わかりました。いいですよ」

「……えっと、いいっていうのは?」

「今日一日、あの人の代わりをしてもいい、ってことです」

「え?」

きょとんとするミチにたまきは

「そろそろ行きません?」

とミチを促して立ち上がった。

ミチが会計を済ませてカフェを出ると、たまきがその横に立った。

「えっと、横に並んで歩けばいいんですか?」

「え、あ、うん」

「『それだけ』ですからね。それと……」

たまきはリュックの中から、先程しまったブレスレットを取り出すと腕につけた。

「……敬語をやめればいいん……だよね?」

 

つづく


次回 第35話「ねこのちネコ、ところにより猫」

第35話目にして、「タメ口たまき」、爆誕!つづきはこちら!


クソ青春冒険小説「あしたてんきになぁれ」

「あしなれ」第34話のアップが大いに遅れてる言い訳

お待たせしております。

お待たせしすぎているかもしれません。

えー、小説「あしたてんきになぁれ」の第33話をアップしたのが去年の9月。

第34話の公開予定としていたのが12月。

……今、3月です。

つまり、「あしなれ」が中途半端なところで止まったまま、半年たってしまった、と言うわけです。まったく、ふざけてんじゃないよ。

原因は二つありまして。

まず一つは、純粋に書くのに手間取った、ということです。

なにせ、第34話の初稿の段階で2万字を越えてまして。

さすがに長すぎる、ということで、原稿を半分に折りまして、「第34話」の予定だったものを、第34話と第35話に分けて掲載することにした、ってくらい長くなってしまったのです。

ハリポタが4巻目あたりから上下巻に分かれてるようなものです。

そして、もう一つの理由が新型コロナです。

第34話はこれまで「あしなれ」では出てきてない町が舞台なんです。移動距離だけだったら、今までで一番遠いです。

ところが、年明けからのオミクロン株の流行で、その町に僕が行くチャンスがなかなかなかったんですね。

ロケハンもしたいし、写真も撮りたいのに。

まあ、過去に何度か行ったことのある街だったんで、記憶とネットを頼りに原稿を書き上げたんですが、

やっぱり、ロケハンしたいし、写真も撮りたい。で、アップするのをちょっと待ってたんです。

で、感染が少しだけ落ち着いてきて、「いくらオミクロンと言えど、何も電車に乗っちゃいかんということはないんじゃないか。別にお台場でパーティするわけじゃないんやで。一人で写真撮ってくるだけやで」ということで、先日、その街に行ってきたんですね。

正直、「もうロケハンとかしないでアップしちゃっていんじゃね?」と頭をよぎったことがあったのですが、

行ってみて気づきました。「ロケハン、大事」。

「ああ、ここからはこんな風に見えるんだ」

「あれ、こことここ、意外と近いぞ」

「ああ、実際にはこんな風に見えるんだ」

「あれ、ここ、思ったより活気ない……」

「ああ、このシーン、必要だな」

というわけで、無事にロケハンと写真撮影を終えたので、3月15日に「あしたてんきになぁれ」第34話「モノレール、のちブレスレット」を公開します! そうです! 舞台はモノレールが走ってるあの街です!

感動なんていらない!

よく、スポーツとかで「感動をもらった!」「勇気をもらった!」って言葉を聞くんですけど、あれを聞くたびにいつも首をかしげるんですよ。

他人から「感動をもらう」「勇気をもらう」、そんなことはあり得るのか、って

僕は他人から、感動とか勇気とか元気とやらをもらったことは、一度としてないです。

だって、感動も勇気も、要は感情でしょ?

たしかにそのきっかけとなる出来事は他人にあるのかもしれないけど、感情である以上は、結局は自分の内側から湧き上がってくるものでしょ?

それを「人からもらう」なんてことはあり得るのか?

人からもらえるものなのならば、「いらないよ!」って返すこともできるはずです。捨てることだってできるはずです。

できないということは、それは人からもらったものではなく、自分の中から湧き上がってきたものなんです。

きっかけは確かに他人だったのかもしれない。でも、スポーツや映画を見ただけで感動するんじゃなく、それを自分の経験と照らし合わせて、何かリンクするものがあって、初めて人は感動したり勇気が湧いてきたりするわけです。

【自分が】感動してるんです。

【自分が】元気にしてるんです。

それを人のせいにするんじゃない!

何でもかんでも人のせいにしてるんじゃない! まったくもう!

逆に「見てる人に元気を与えたい」みたいなことを言う人がいると、イライラするわけです。

何様のつもりだ!

逆に俺がお前に元気を送り返してやる!

ワハハハハ! おまえもハイテンションにしてやろうか!!

「元気を与えたい」なんて言っていいのは、オロナミンCを売ってる人だけです。

まあつまり、あんまり自分を卑下するもんじゃないよ、と言う話です。

「感動をありがとう!」

いや、おまえが感動してんねん! おまえがおまえの人生に照らし合わせて感動してんねん! おまえがお前のがんばったこととかを思い出してリンクして、感動してんねん!

もっと自分に自信を持て! あの時の俺よ、感動をありがとう!

「元気をもらいました!」

いや、おまえが元気になってんねん! おまえがおまえの夢とか目標とかに照らし合わせてリンクして、元気になってんねん!

もっと自分に自信を持て! 未来の俺よ、元気をありがとう!

「見てる人に勇気を届けたいです」

「見てる人に夢を分け与えたいです」

施しはいらん! 返す! 着払いで返す!

なぜなら、勇気も夢も、すでに誰しもの心の中に持ってるものだからです。持ってるものを届けられても困ります。

まあつまり、あんまり人間というものを卑下するんじゃないよ、と言う話なんですか?