あてのない旅

「あてのない旅」ほど難しいものです。

「あてのない旅に出ます」といってはみるものの、実際はある程度の「あて」がないと、ちっとも動けない。

ホントのホントにあてのないまま旅に出たところで、立ちはだかる問題が「今夜、どこに泊まるか」です。

あてのないままふらりとどこかの田舎を旅して、日が暮れたからさあ泊まる場所を探そう、と思っても、空きがなかったり、そもそも近くにホテルがちっともなかったりすると、絶望です。あてのない旅から一転、宿のない旅になっちゃいます。

そうならないためには、事前にホテルを予約しないといけない。

するとその時点でもう、「あて」ができてしまうんですね。

予約する時、チェックインの時間を入力しなければいけません。あてのない旅なんだから何時に到着するかなんて知らねぇよ、と思いつつも、「必須」と書いてあるので仕方なしに時間を入力する。

さらに言えば、せっかく予約したのに万が一にでもたどり着けないとキャンセル料をとられてしまうから、当日の新幹線の席も押さえちゃう。

新幹線のチケットを買うと、現地への到着時間もだいたいわかってきます。そんで、この街だとやっぱここははずせないよね、で、ここの施設の営業がこの時間までで、で、チェックインがこの時間だからそれまでに夕飯をだいたいこのへんで食べ……、

あてだらけじゃないか!

くっそ~。宿を予約しただけなのに、ドミノ倒しのようにほかの予定まで決まってしまった。不条理だ。納得できない。

「あてのない旅」を邪魔するトラップはまだまだあって。

電車に乗るとき、「あてのない旅」なので途中で気になった駅に降りてみることもあります。

だから、料金が前払いの切符よりも、後払いのICカードの方が都合がよい。

そんで、途中で気になった田舎町の良さげな雰囲気あふれる駅でいきなり降りちゃう。これぞまさに、憧れのあてのない旅!

でも、「田舎町の良さげな駅」は、けっこうな確率で無人駅だったりします。

そして、無人駅はけっこうな確率で、ICカードで乗り降りする設備がない!

つまり、ICカードで乗っちゃうと、改札から出られない! おまけに次の電車も全然来ない。

無人駅だから、誰も対応してくれない!

……無人駅なんだから、勝手に出てもバレないバレない。どうせまたこの駅に戻って電車に乗るんだから、無銭乗車には……。

と思って天井を見上げると、ちゃっかり防犯カメラなんてものがあって、こっちを睨んでいるのです。その予算をさ……ICカードの設備の方に……。

こうして、「あてのない旅」は「出られない駅」、そして「電車来ない時間」へと様変わりするのでした。

投稿者: ノック

民俗学ZINE作家。 「バズらないモノづくり」をテーマとする「ノンバズル企画」を主宰。民俗学専門ZINE「民俗学は好きですか?」を企画・執筆・製本・販売しています。「民俗学とは『生きること』を探求する学問」をテーマに、民俗学の魅力をわかりやすく、面白く、奥深く紹介していきます。