モノづくりと旅の終わり

小説「くらやみ坂のナツミ」の制作もいよいよ佳境に入っています。

でも、その「佳境」がなかなか大変です。印刷所に入稿するまでにやらなけやいけないことがいくつもあるんです。

やらなきゃいけないことをリストアップして、工程表を作ります。

きっと「予定してない作業」がいろいろ出てくるだろうなと思って、少し日程に余裕をもって工程表を作ります。

すると、予想通りに「予定してない作業」が出てくるんですね。予定してるんだか、してないんだか。

たとえば、せっかく表紙を作ったのに、「トンボ」という枠に当てはめてみると、なんとタイトルの部分が断裁した時にちょん切れてしまうことが判明。慌てて作り直しました。

入稿前の最終チェックに小説を読み始めたら、行間が狭くて読みづらいことが判明。この行間の調節に手間取って、その日の作業は終わりました。

表紙を作ったり、ページを作ったり、他にも、値段を決めたり、宣伝方法を考えたり、小説を書くっていうよりも、小説の本を丸ごとプロデュースしている感覚です。

そして、各話ごとにばらばらだった原稿をまとめて、一つのデータにして、そのデータに「くらやみ坂のナツミ」とファイル名を付けた時、思わずふへへと笑ってしまいました。

この瞬間がたまらない。何か月もかけて作り続けてきた物が、形あるものとしての輪郭を持ち始めるまさにこの瞬間が。

モノづくりって旅に似てるんですよ。船旅でバルセロナに行ったとき、港から地図だけを頼りにサグラダ・ファミリアまで歩いて、建物のむこうにようやくあの特徴的なシルエットが見えた時のあの歓喜。「ついにここまでたどり着いた!」というあの歓喜に似ているんです。

むしろ、本当に完成した時は、達成感よりも「もののあはれ」の方が強いかもしれないですね。「ああ、旅が終わってしまう」という気持ち。さながら、旅が終わって地元に帰る新幹線ももう終わりに近づき、見覚えのあるビルが車窓に見えてくるような、あのもののあはれ。

とくに、友人たちと東北に旅行に行ったときなんか、みんな東京駅まで乗ってくんだけど僕は大宮駅で降りるので、一足先に自分だけ「じゃあ、また……」と新幹線を降りなきゃいけないあのもののあはれ……。

逆に友人が名古屋まで新幹線で帰るってときは、「ここから東京で乗り換えてまた新幹線に乗るの? 大変だねぇ。あ、僕ここで降りてあとは在来線だから、じゃ」というあの優越感……。

……何の話だよ。

とにもかくにも、「くらやみ坂のナツミ」の旅も、もうすぐ終わりを迎えるのです。いや、「作品づくり」から「本の販売」へと、乗り換えて旅は続くのかな。

投稿者: ノック

民俗学ZINE作家。 「バズらないモノづくり」をテーマとする「ノンバズル企画」を主宰。民俗学専門ZINE「民俗学は好きですか?」を企画・執筆・製本・販売しています。「民俗学とは『生きること』を探求する学問」をテーマに、民俗学の魅力をわかりやすく、面白く、奥深く紹介していきます。