熱中症より怖いもの

夏になってもう二回も、道端で熱中症のバアさんを介抱する羽目になりました。

二人も介抱して思うのが、どっちのババ……バアさんも、認識が甘いなぁ、ということなんですよ。

自分の体調の異変、体力の衰え、夏の異常な暑さ、そういうものへの認識が甘いなぁ、と思うんです。

70過ぎのバアさんが、40℃になるかならないかニュースで騒がれてる日の真昼間に、どうして外をうろついているのか。

70過ぎのバアさんが、日傘とか帽子とか熱中症対策を全くせず、どうして夏の真昼間を歩いているのか。

で、見てみるとどちらものバアさんも買い物袋をぶら下げてるんですよ。

買い物なんて、夕方にしろぉ!

わざわざ昼間に外に出て、熱中症になりました、歩けません、助けてください、と言われても、正直「知らんがな!」というのが本音ですよ。

で、塩タブレット持ってたんで、それ渡してとりあえず舐めてください、と言っても舐めないんです。

ぼおっとして頭が回らない、というわけではないみたいです。こっちの言ってる内容は通じて、理解してる。

でも、「私にはまだ必要ない」「そこまで体調悪くない」そんな風に思ってるように見えるんです。まともに歩けてないのに。

猛暑をナメるな、塩をナメろ! と、イライラしてくるわけです。

ただ、後になって思うのが、もしやあれが「正常化バイアス」というやつだったんじゃないかな。

正常化バイアスっていうのは、事故とか災害とか何か異常が起きたときに「こんなの大したことない」「自分は大丈夫だろう」と思い込んでしまうこと、だそうです。

熱中症で明らかにまともに歩けてないのに、すぐそこだからと家に帰ろうとする。

まっすぐ歩けないのに、「自分はそこまで体調悪くない」「ちょっと休めば大丈夫」くらいにしか思ってないんですよ。ナメてる、というよりはやっぱり、正常化バイアスだったんじゃないか。

ウ~む、だとしたら、イライラして悪かったなぁ。

でもね、お水飲んでください、とペットボトルを差し出しても、「私は大丈夫だから、このお水はあなたが飲みなさい」と言って返してくるんですよ。息も絶え絶えに。

イラっとするわけですね。なんだ、曇りの日でも万全の熱中症対策をしてるこの俺が、アンタより体調悪そうに見えるか? と。俺の足元がふらついてるんじゃない、アンタがふらついてるんだ、と。

何より、他人に気を使う前に、自分の体調に気を使って、外出を控えるとか、ネッククーラーつけるとか、もっとちゃんと対策してれば、道端で熱中症になることもないんだよ! とイライラするわけです。

そして、私、学びました。正常化バイアスに陥っている人に向けて、「塩タブレット舐めてくださいね」「お水飲んでくださいね」なんて親切そうな言い方をしても、動いてくれない。

「なんだと、俺の水が飲めないっていうのか!? つべこべ言わずに黙って飲めクソバ〇ア!」ぐらい強い言い方をしないと、お水を飲んでくれないんです。

悪い言い方をすれば、「脅す」。そのくらいしないと、お水飲んでくれない、マジで。

少し前に津波警報が出ましたけど、テレビをつけると「にげて!」「にげろ!」と強い言葉で書かれてるんですね。あれは「避難してください」なんて丁寧な言葉じゃ逃げずに津波に飲まれてしまった人がいたという、東日本大震災の経験からなのですね。これもまた、正常化バイアスのせいだといわれています。やっぱり、ちょっと脅すぐらいのつもりじゃないと、危機意識を抱いてはくれないみたいです。

という、熱中症よりも正常化バイアスの方が怖いかもよ、というお話でした。

投稿者: ノック

民俗学ZINE作家。 「バズらないモノづくり」をテーマとする「ノンバズル企画」を主宰。民俗学専門ZINE「民俗学は好きですか?」を企画・執筆・製本・販売しています。「民俗学とは『生きること』を探求する学問」をテーマに、民俗学の魅力をわかりやすく、面白く、奥深く紹介していきます。