埼玉県の西川口駅というと、かつては県内有数の風俗店街として有名だった。ところが最近、西川口駅周辺は中華料理店が増え、テレビにも取り上げられている。そういえば、西川口は家から近いのに、中華料理店が増えた西川口に行ったことがない。どうして西川口は中華料理店が増えたのだろう。なぜだ? なぜだ!? なぜなんだ!!?
西川口の歴史
埼玉県の玄関口、川口駅。その北に西川口がある。北にあるのに何で西川口? その答えは、「川口駅自体がそもそも、川口市内の中で割と西のほうにあるから」である。
川口市は東京のベッドタウンとして発展した。夜の京浜東北線(下りに乗っていると、ターミナル駅でもない川口駅でたくさんの人がおりていくのがわかる。加えて、古くから鋳物の街として知られ、今でも線路沿いには鋳物工場が並ぶ。僕は鋳物工場のわきで鉄くずを拾ったことがある。本当に溶けた鉄が適当な形で固まっただけの、使い道のない純粋な鉄くず。
通勤通学に便利で、市内の産業も発展し、その上オートレース場があり、浦和の競馬場や戸田の競艇場も近い。
そんな人が集まる街だからだろうか、西川口は埼玉県有数の風俗街が発展した街でもある。埼玉県内では「西川口に行く=風俗店に行く」で通じてしまうくらいの知名度だった。
とはいえ、住んでいる人からすれば迷惑な話だ。
そんな声が増えていったからなのか、はたまた、全国的にそんな流れだったのか、2000年代半ばに西川口の風俗店は次々と摘発されていき、西川口駅前はゴーストタウンのようになってしまった。
その西川口駅前の風俗店の跡地に、中華料理店が入るようになったのは、それから10年ほどしてからだ。
西川口はおいしかった
というわけで、時は2018年。新興の中華街として注目を集める西川口の西口に降り立った。
駅を降りていきなりすれ違う中国人(たぶん)。明らかに日本語ではない言葉をしゃべっている。
さっそく中華料理店の看板が見える。
ほかにも、駅前にはいろんな看板がある。
外国人向けの電話屋さん。
中国料理屋と、よくわからない漢字の店。
街の南側をぶらりと歩いてい見ると、確かに中華料理店の看板が多い。
軒を連ねるのは中華料理店だけではない。中国人向けの食料品店、雑貨店なども多い。
こういう、「その町で暮らす外国人向けのお店」があると、いよいよもって本物だ。
他にもこんな看板があった。
中国語カラオケである。僕だったら何を歌おうか。女子十二楽坊ぐらいしか知らないなぁ。
……歌詞ねぇよ、女子十二楽坊。
さらにはこんな看板も。
何の看板かはわからないが、とりあえず見たことない漢字だ。
こうやって歩いてみると、なんだか日本じゃないみたいだ。
見てるだけではもったいないので、実際に中華料理店に入ってみた。
入ってさっそく驚く。客がみな中国人だ。本当にこの店入っていいのかな、とちょっと不安になる。
店員さんもおそらく中国人なのだろうが、そこは日本で商売しているだけあって、日本語での接客もばっちりだ。
ところが、席に座ってまたまた驚く。
なんと、店員さんは、カラのコップを置いたのだ。
テーブルの上には水の入ったポットがあるので、自分で注げということなのだろう。
日本ではなかなかないシステムだが、思えばヨーロッパに行ったときは、カラのコップと水の入ったボトルを渡された。案外、こっちのほうがワールドスタンダードなのかもしれない。
カニチャーハンを注文してみた。
なるほど。日本のラーメン屋や定食屋で食べるチャーハンとは違う。
具体的にどう違うのかというと、油が多い。
断わっておくけど、決して「無駄に油っこい」わけではないぞ。
僕史上一番おいしかったチャーハンは、中国・北京で食べたやつなのだが、日本で食べた中ではあれに一番近かったと思う。
つまり、この油多めのチャーハンのほうが、本場の味というわけだ。
ボリュームも結構ある。これでカニがついて700円以下ならば安い。
え、どこの店かって。
すでに紹介した写真の中に答えはあるぜ。
探してみな。チャーハンのすべてをそこに置いてきた!
風俗街・西川口は死すとも、スケベは死なず
さて、そんな西川口だが、風俗店はどこへ行ってしまったのだろうか。すべてなくなってしまったのだろうか。
男子諸君、ご安心を(?)。
風俗店は、生きている!
とはいえ、駅前の1ブロックを中心にわずかに残っているにすぎない。県内のよその町に比べれば確かに数は多いのかもしれないが、「風俗街」と呼ぶにはちょっと物足りない。
とはいえ、「風俗の街、西川口」はまだかすかではあるが生きている。
しかし、ネットの中ではもはや風前の灯火なのかもしれない。yahooで検索をかけると、トップで「中華料理屋」がサジェストに上がる。だが、風俗店に関するサジェストは出てこない。
もはや、「西川口に行く=中華を食べに行く」、そういう時代なのだ。
中華料理と風俗店
なぜ、西川口に中華料理店が多いのだろうか。
もともと、西川口の隣町、蕨駅周辺は外国人が多い場所として知られていた。チャイナタウンとなりつつある団地もあるという。そういったところにあった風俗街が摘発を受けてゴーストタウンとなった。空いた場所で在日外国人たちが商売を始めた。
こうして西川口は中華料理の街になりましたとさ。おしまい。
……と、ここで面白いことに気付いた。
「外国人街」と「風俗店街」の組み合わせが関東地方には多い、ということに。
たとえば、関東最大の風俗店街と言ったらやはり新宿歌舞伎町だろう。特に歌舞伎町の北側はホテル街となっている。
そこから職安通りを挟んだすぐむこう側は、新大久保のコリアンタウンだ。
コリアンタウンというと、東京の北東部、三河島近辺も有名だ。
三河島のすぐ南に行けば、鶯谷がある。ここは都内でも特にラブホテルが密集する場所だ。
鶯谷の隣は上野だ。上野のアメ横は近年、アジア系のお店が並び、異国情緒があふれている。
外国人街と風俗街がセットになっているのは、東京だけではない。
中華街といえばやっぱり横浜中華街が有名だ。ここから徒歩30分ぐらいのところにある黄金町は、かつての風俗街として知られている。
このように、外国人街と風俗店街は、距離の近いところにある。
もちろん、例外はある。例えば、インド人が多いことで知られる西葛西周辺に風俗店街はない。最近、西葛西ばっかり歩いてる僕が言うのだから間違いない。
さて、今のところ、僕は「周辺」が関係しているのだと思う。
街の、都市の中心ではなく周辺。
西川口はベッドタウンだ。つまりは、「東京」という大きな経済圏の中心ではなく、周辺部に位置している。
新宿は今でこそ東京の中心の一つだが、戦後ぐらいまでは東京の「周辺部」だった。
上野は新宿よりも都心には近いが、あの町もまた「周辺」に位置している。これについては日を改めて詳しく書きたい。
そして横浜中華街と黄金町。ここもまた横浜の中心地ではない。周辺部だ。
こういった周辺部というのは、誤解を恐れずに言うと、昔から異質なものが集まりやすい場所なのではないか。
とはいえ、僕も日本国籍じゃない友人が何人かいるので、「外国人=異質なもの」と書いてしまうと、後で川にでも放り込まれそうな気がするが、決して差別的な意図で言っているわけではなく、「日本という枠組みの外から来た者、異なるアイデンティティを持つ者」という意味合いで使っている。
一方、風俗嬢の知り合いはいないので、そちらに関しては川に放り込まれる心配は全くしていない(実は隠れて……ってい人もいるかもしれないけど)。
さて、今のところ、外国人街と風俗店街が近いのがわかったのは関東だけだ。よその地域ではどうなのかはこれから調べていきたい。
この「周辺」という概念については、今後さらに研究していきたいテーマの一つだ。