ピースボートのボランティアで出会った、心の温かい日本人たち

ピースボートの真骨頂と言えば国際交流、様々な国籍の人と出会えることだ。一方で、船に乗る前のポスター貼りのボランティアでは、日本のいろんな町を巡り、いろんな人と出会う。そこで今回は、僕がボランティアを通して出会った心温まる日本人の皆さんのエピソードを紹介しよう。


ピースボートのボランティアについてはこちら。

ピースボートのボランティアスタッフになったらこんな毎日だった

ピースボートは反日?

たまに「ピースボートは反日だ」という声を聞く。

アホ言え。

こちとら、日本(主に埼玉)にピースボートのポスターを3000枚貼っている。1店舗1枚というわけではないのだが、ざっと数えてもおそらく2000人以上の日本人の無償のご厚意で船に乗せてもらい、地球一周した身だ。

嫌いなわけなかろう。むしろ感謝しかないわ。

今回の記事はそんな2000人への感謝の意もある。

じゃあ、どういった日本人が嫌いなのかというと、

「反日」とか「親日」とかいったレッテルでしか人間を判断できない奴だ。日本人に限らず、僕はこういう輩が嫌いだ。こういった輩は大局を見ている風で、結局なにひとつ見えていない。

人間は反日とか親日とかそんな単純なレッテルで区別できるものではない。ポスターを3000枚貼って、その10倍近く頭下げて街を回ればさすがにそれくらいわかる。

だいたい、相手が自分のことを好きなら仲良くするとか、嫌いなら仲良くしないとか、そういう狭い了見が気に食わない。相手が自分のことをどう思っていようがそれで態度を変えるなんて子供のやることだし、相手の印象なんて後から変えられる。むしろ、「あの国は反日だから仲良くしない!」なんてやってたら反日感情に油を注ぐようなものだ。

そろそろ本題に入ろうか。

心温まる日本人 励ましてくれた人たち

ここからの話は全て埼玉県での話だ。プライバシー保護のために町の名前はぼかして書くことにする。

最初のエピソードは、かつて県内最大の風俗街として知られた街の話だ(もう、埼玉県民にはぼかした意味はないと思う)。

その日、僕は60枚のポスターをもってその町に降り立ったのだが、午後五時を過ぎた時点で17枚しか貼れていなかった(よくまあリアルに枚数を覚えてるなと、自分でも驚いている)。

ピースボートには住所別のポスターの枚数のデータがり、それをもとに枚数が晴れそうなエリアはもう行きつくしてしまった。あとは居酒屋など夜に営業するお店にかけるしかないが、そこで残り43枚が貼りきれるとは思えない。

僕は賭けに出た。データ上では1~2枚しか貼れないとされているエリアが、今いる場所から離れたところにある。そこにまだまだ未知の店があると信じていってみることにしたのだ。居酒屋はもっと夜遅くになっても行ける。しかし、普通の商店はもたもたしていたら閉店してしまうかもしれない。

大きな県道をとぼとぼと歩く。与えられたエリアの端っこ近くまで歩いたとき、一件の自転車屋にであった。

交渉してみるとガラス戸に貼っていいという。ガラス戸は中からも外からも見えるため、「両面貼り」と言って2枚のポスターを背中合わせにして貼る。一気に2枚稼げるのだ。

ポスターを貼らせてもらっていると、自転車屋の主人が「若いうちに世界を見てきた方がいい」と言ってくれた。なんだか、自分のやっていることを肯定してくれたみたいでうれしかった。

ここから駅に向かって戻っていく。同じ道を通ってもしょうがないので、住宅街を歩きながら、ふいに出てくるクリーニング屋とかに交渉していく。

駅から少し離れたところに居酒屋があった。おかみさんが一人で切り盛りしている。

貼らせてもらえることになったのだが、貼る場所が少々変わっていた。

2階へと続く階段の下、階段に合わせて天井がななめとなっている、そこに貼らせてもらうこととなったのだ。

重力の影響が強くて少々貼りづらいのだが、そこしかなかったのだろう。貼らせてもらえるだけでもありがたいし、結構目立つ。

貼り終わるとおかみさんがこんなことを言ってくれた。

「あんたたちのこと、応援してるんだからね」

ふたを開けてみれば、17時から21時までの4時間で23枚を貼り、40枚ジャストでその日は終えた。けれども、枚数以上に印象に残った日だった。

心温まる日本人 やさしい人が多い街

その翌日。その日は市街地から離れた古い街道沿いの町を訪れていた。

持って行った枚数は50枚。今日こそは全部貼りきるぞと意気込んでいたものの、県道を行って帰って17時を過ぎて20枚ちょっと。

昨日の町と違い駅前に居酒屋なんて全くなく、この先30枚近く貼れるとはちょっと思えない。

そんな夕暮れに出会ったのがある美容院。

そこの奥さんはあちこち海外旅行をしていたらしく、「大学生の孫にぜひピースボートに乗って、世界を見てきてほしいと思っている」という話をしてくれた。

さて、残り30枚どうしよう。

そこで僕はまたしてもデータを無視し、坂道を登ってみることにした。データ上では全部回っても10枚ほどしか貼れないはずだが、データにない店があるかもしれない。

坂道を登り始めると大きな通りになっていて、両側にお店は多い。案外イケちゃうかもと期待していると、店先に椅子を置いてお茶を飲みお菓子を食べている人たちが目に入った。

目が合った瞬間に店の主人が「あんちゃん、ちょっと休んでけ!」

とても驚いた。僕はたまたま取り掛かり、目が合っただけである。目が合った瞬間に「あんちゃん休んでけ!」と言われ、椅子に座らされ、お茶を振る舞われた。

たまたま通りかかった通行人にお茶を振る舞うような人が、この日本にいるのだ!

残念ながらその店は大家さんの許可がないとポスターは貼れない、ということだったが、代わりに桃味の飴玉を一個もらった。なんだか、ポスターを貼れた時よりもうれしかったような気がするし、今でも覚えている。

坂道を登ってとある商店に行き着いた。

実は、僕はこの店を見たことがある。以前、テレビの旅番組で出ていたのだ。

店のおばちゃんが、ロケでその町を訪れた芸能人にいろいろ親切に商品である食べ物を渡していた。

そして、この店のおばちゃんは芸能人だけでなく、「素性不明の『ポスターを貼らせてくれ』と頼む怪しい男」、すなわち僕にも優しかったのだ。

店の中と南側の壁に合わせて2枚気前良く貼らせてくれた。僕が調子乗って北側の壁にも貼らせてくれとお願いしたら、「兄ちゃん、それはちょっと調子が良すぎるよ」と笑いながら言われたので「ですよね~」と引き下がり、談笑をしていた。

楽しく談笑していたところ急に「兄ちゃん、北側の壁にも貼っていけ!」

さっきダメだって言ってたじゃん! しかも、僕からはそのご一言も「もう1枚貼らせてくれ」などと厚かましいことは言っていない。話が盛り上がったからなのか急にもう一枚貼らせてくれることになったのだ。

その後も、道路の反対側にあったとある店に入ろうとすると、道路の向こう側から大声で「兄ちゃん、その店はダメだ~! 隣の店に行け!」

理由はわからないが、おそらく店の主人が偏屈ですぐ怒るとかそう言った理由なのかもしれない。おばちゃんのおかげで地雷を踏むことを回避できた。

テレビに出てくる面白素人さんは、芸能人だからやさしく接しているのではない。誰にでもやさしいのだ。

別の町にもそういった人がいた。ごく普通の飲食店なのだが、マスターのキャラが面白く、とある番組では度々登場していた。僕が訪れると、何とピースボートの見学会に訪れたことがあるとかで、快く貼らせてくれた。僕が「テレビに出てる飲みましたよ」というと、うれしそうに顔をほころばせていた。

もう一度言う。テレビに出てくる面白素人さんは、芸能人だからやさしく接しているのではない。誰にでもやさしいのだ。

さて、さっきの町に話を戻すが、ある美容室をとずれると(さっきの美容室とは別)、なんとその人もピースボートの過去乗船者で、ポスター貼り経験者だった。

「ポスター貼り大変だよねぇ」といい、「何枚でも貼っていっていいよ」と言ってくれたので、すでに4枚貼っていあるところをもう1枚増やして5枚にさせてもらった。ポスター貼りを経験すると人は優しくなれる。僕も町で配っているティッシュはなるべくもらうようにしている。

その日は21時まで粘って、50枚すべてを貼り終えた。坂の上の街道沿いに意外と店が多かったのだ。貼りきれたという感動と、優しい人にたくさん出会ったという感動が相まって、この日のことはとても印象に残っている。

心温まる日本人 夏の暑い日

ごくたまにではあるが、食べ物や飲み物をごちそうになることがある。

特に夏の暑い日、「熱いでしょう」と飲み物のペットボトルや、キンキンに冷えたコーラを振る舞ってもらったことが何回かあった。

飲み物そのものよりも、その心配りがうれしかった。

やさしいのは日本人だけじゃないぞ

とまあここまで心温まる日本人の話をしてきたが、優しいのは日本人だけではない。

僕の経験上、韓国料理屋とインド料理屋は、ポスターを貼らせてくれる確率が結構高い。次点で中華料理屋。

結局のところ、国籍関係なく、人間はやさしいのだ。

投稿者: ノック

民俗学ZINE作家。 「バズらないモノづくり」をテーマとする「ノンバズル企画」を主宰。民俗学専門ZINE「民俗学は好きですか?」を企画・執筆・製本・販売しています。「民俗学とは『生きること』を探求する学問」をテーマに、民俗学の魅力をわかりやすく、面白く、奥深く紹介していきます。