アニメというよりも、ライブ

今期のアニメは豊作じゃ! 始まる前から面白そうなアニメが多いなぁ、とは思ってたけど、今期はかなりの豊作! 大豊作! 左門豊作!

「夜のクラゲは泳げない」、「怪異と乙女と神隠し」このへんもなかなか面白い。

「終末トレインどこへいく?」は僕にもなじみのある西武沿線が舞台で、好きな声優さんもそろってて、毎週楽しみに見てます。内容がカオスすぎて見終わった後の感想が「あれは一体なんだったんでしょうか……」しか出てこなくて困ってるのですが。

ただ、今期で一番ハマってるアニメはやっぱりこれかな。

「ガールズバンドクライ」

私の周りでも、毎週のように話題です。しかし今期は、10文字前後のタイトルのアニメが多いなぁ。

タイトルにある通りガールズバンドのアニメなんだけど、一話目を見てなかなか良かったなぁ、とエンディングのクレジットを見ていたら、なんと脚本が花田十輝先生だったんです!(僕は原則として、アニメを見る前の下調べは一切しない)

花田脚本のアニメはいっぱいあるけど、僕は「宇宙よりも遠い場所」と「ラブライブ!サンシャイン!!」が大好きです。ラブライブサンシャインは二回見て、「よりもい」はもはや数えきれないほど見てます。

そして今度の「ガールズバンドクライ」もさすが花田脚本な内容。

まずやっぱりチームの書き方が上手いんですよ。最近のアニメは、とりあえず癖の濃いおもしろキャラクターを並べとけばいいだろってだけで、キャラの関係性を描くことができず、チームを描くということができない作品が多い中で、花田脚本は「この4人の関係性がいいなぁ」「このグループいいなぁ」「このバンドいいなぁ」としっかりチームの良さを描いてる。

また、「よりもい」や「ラブライブ!サンシャイン!!」のように、特別な才能を持つ主人公が活躍するような話じゃなくて、ごく普通の何物でもない女の子が、何者かになろうとして必死でもがく、そんな話なんです。

「ガールズバンドクライ」でも主人公の仁菜はバンドのボーカルなんだけど、「天性の歌声」とか「唯一無二の歌声で人を魅了する」みたいな天才っぽい描写はない。もちろん、ちゃんと歌の上手い人をキャスティングしてるんだけど、劇中での彼女の歌の評価は「心の中のダークな部分をロックにぶつけるところ」とか、「承認欲求で歌ってるわけじゃないところ」など、才能とか技術とかではなく、歌への向き合い方を魅力として描いています。

性格ははっきり言ってメンヘラ。「厄介」とか「正論モンスター」とか言われてる。

でも、それもネットで話題になるだろうとかネタとしてウケるだろうとかそういう計算で書いてるんじゃなく(実際にはだいぶネットで話題だけど)、やっぱり仁菜という人間をしっかりと描こうという想いを感じるんですよ。つまりは、ネットやオタクに媚びてない。

毎回の進め方もすごくいいです。ガールズバンドクライはバンドのアニメなので、たまにEDの代わりに演奏シーンで締めくくることがあるんだけど、その演奏シーンがかっこよくなるようにお話が進められていくんです。

特に、第8話は圧巻だった。冒頭から積み重ねられてきた感情がクライマックスで一気にぶつかり合う。アニメじゃなくてバンドのライブを見てたんじゃないかっていう高揚感でした。

ガールズバンドクライ、いろいろ書いたけど、その魅力を一言で言うならばまあ、ロックなんです。

小説「あしたてんきになぁれ」 第41話「ローラーのちハケ、ところにより筆」

たまきのはじめてのアルバイト。そして「鳥のラクガキ」探しにも新たな展開が……。「あしなれ」第41話、スタート!


第40話「バイト、ときどきファミコン」 

クソ青春冒険小説「あしたてんきになぁれ」


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六月も半ばになった。

たまきは、青いジャージを着て、行信寺の塀の前に立っていた。足元には青いペンキの缶と、バケツ。バケツの中には、塗装に必要な用具がいくつか入っている。塀には脚立も立てかけられている。

本格的な梅雨が来る前に、このラクガキだらけの壁を青いペンキで塗りつぶす。それがたまきのバイト初めての大仕事だ。

それと同時に、壁に描く仏像のデザインも進めておかなくてはいけない。

理想のスケジュールとしては、今週中に壁を青いペンキでで塗りつぶし、梅雨が来たらデザインの方を進めていき、梅雨明けには青一色となった壁に仏像を描いていく作業に入れるようにしたい。

デザインの第一案は、この日の午前中に住職に渡していた。たまきは仏教の知識が全くないので、お寺にあった仏像の写真がいっぱい載っている本を借りて、それを見ながらスケッチを描いた。

ラフなスケッチだったけど、自分で思っていたよりもうまく描けた。スケッチを後ろから覗き込んでいた亜美も

「なんだ、ちゃんと描けてんじゃん」

と、若干つまらなそうにぼやいた。もっとおどろおどろしくなるものと期待していたらしい。

そのスケッチを先ほど住職に見せたわけだ。住職は「なるほどなるほど、さすが上手ねぇ」とは言ってくれたが、

「でもたまきちゃん、これってペンキで描けるのかしら?」

と首をかしげた。

確かに、たまきのスケッチは鉛筆で描いたもので、曲線のうねり具合、影のつけ方、模様の細かさ、全てが鉛筆ならではのものだった。

そして今、たまきはペンキ用具一式をもって、本番のキャンバスとなる壁に向かっている。

こうやって見てみると、部屋でスケッチしていたときとはかなり条件が違う。絵を描く壁の材質は紙ではなくブロック。鉛筆ではなくハケや筆を使い、どろりとしたペンキで描く。さらに、部屋でスケッチしていた時は水平なスケッチブックに描いていたのに対して、垂直な壁に重力に逆らって絵を描かなければならない。

下絵のスケッチで上手に描けてもダメなのだ。「硬い壁にペンキで描く」ということを意識しながら、スケッチを描かなければならない。スケッチはそれ自体が作品なのではなく、壁にペンキで描くための設計図なのだ。

そうなると、「そもそも、ペンキで仏像なんて描けるのだろうか?」とたまきは首をかしげてしまう。もっとも、住職も別にどうしても仏像を描いてほしいわけではなく、お寺だからとりあえず仏像でも描いておいたら、ぐらいのものなので、何か他にいいデザインが思い浮かべば、別に無理に仏像にこだわることもなさそうだ。

具体的なデザインはまだ決まっていないけど、「背景は青一色」というオーダーがすでに住職から出ていた。それも何か仏教的な意味があるのかと聞いてみたところ、

「あら、青って爽快感があるじゃない?」

という返事だった。

 

さてと、とたまきは道路の上に新聞紙を敷き、その上に自分の身長の倍近くの高さがある脚立を立てて上った。3メートル近くの高さがある塀の上の部分に目線が来るように座る。右手には青いペンキの缶が握られ、脚立の下の段を使って重さを支えている。

缶の中にはすでに、ローラーが青いペンキの湖に沈められていた。このローラーを使って壁を一気に青一色で塗りつぶす。脚立を上り下りしたり、脚立や新聞紙を動かしたりするのが面倒だけど、まあ今日一日で作業は終わるだろう。

作業に入る前に、たまきは塀をじっと見降ろした。

例の鳥のラクガキはこの塀には見つからなかった。だが、そもそもこの塀はラクガキが多すぎる。たまきが見落としているだけかもしれないし、ほかのラクガキに上書きされて隠れているのかもしれない。ペンキを塗る前に、視点を変えて上から、もう一度ラクガキを探してみることにした。

横幅が十メートル近くある墓地の塀の、一番左の端にたまきはいる。とりあえず、今いる場所から見える範囲には、それらしきラクガキは見つからなかった。

それじゃあ、とたまきはペンキの缶からローラーを取り出すと、ペンキが下に垂れないように余分なペンキを落してから、ブロックの壁にあてがった。

ローラーがコロコロとまわり、ラクガキだらけの薄汚れた塀が、空のようなブルーに染まっていく。

が、ほんの三十センチほど動かしただけで、たまきの手は止まった。

たまきの想像と違い、ところどころペンキが塗れていない部分が目立つのだ。古いブロック塀はところどころ欠けていたり削れていたりでくぼみがあって、ローラーではそのくぼみにペンキが全然届かなかったのである。

たまきは、ジャージの上着のポケットを探った。そこにはハケと筆が入っている。ハケは今回の作業のために住職が買ったもので、筆の方は書道用のものが古くなって使わなくなったとのことで住職がたまきに渡したのだ。

たまきはハケの方を手に取ると、ペンキをちょんちょんとつけた後、ブロック塀のくぼみにあてがった。

だが、ここでもまたたまきの想定外のことが起こる。

ハケを使っても、くぼみの中にペンキが届かないのだ。ハケの横幅に対してくぼみの方が小さい。それでもハケは一本一本の毛のようなものの集まりなのだから器用にくぼみの中に入っていけると思ったのだが、どうやらそういうものでもないらしい。

仕方なしに、たまきはポッケの中の筆を手に取った。ハケに残ったペンキを筆につけて、くぼみの中でちょこちょこと動かす。これでようやく、ひとつのくぼみが青に埋まった。

だが、くぼみは何も一つだけではない。全然くぼみのないブロックもあれば、無数のくぼみがあるブロックもある。この無数のくぼみ一つ一つを、筆で青に塗りつぶさなければいけない。この手間を考えると、どうやら今日一日で終わる作業ではないかもしれない。

ラクガキ探しをするときによく見る「ラクガキするな!」と書かれている看板がたまきの頭の中をかすめた。なぜラクガキをしてはいけないのか、たまきはようやく理解した。ラクガキを上から青一色で塗りつぶすだけで、こんなに大変でめんどくさいんだ。

 

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結局その日は、壁全体の四分の一ほどしか作業は進まなかった。

くぼみの中を塗る作業に手間取ったうえ、常に重たいペンキの缶を右手に持ったまま、脚立を上ったり、脚立を動かしたり。ペンキを塗るときも、支えはあるとはいえずっと缶の取っ手を握りっぱなし。これがたまきの体力をみるみる奪い、どんどんペースが落ちていった。時間の見積もりが甘く、午後から作業を始めてしまったため、時間がそもそも足りなかったともいえる。

そのうえ、根気よく鳥のラクガキを探しては見たものの、結局見つけることはできなかった。

「まあ、明日から梅雨入りってわけじゃないから、今週いっぱいかけて少しずつ進めていきましょ。作業が増えた分のお給料は、ちゃんと考えとくわ」

と住職は笑いながら言った。今日は火曜日で、天気予報だと梅雨入りは来週のどこか、と言っている。確かに、今週中に終わらせれば問題はなさそうだ。しかし、壁全体を塗るのにあと3日はかかるだろう。3日間をこの重労働に費やすのかと思うと、たまきは憂鬱になってきた。

今日の作業を終えて、たまきはとぼとぼと歩いて『城』へと戻った。

学校にも行けずバイトもしてないたまきが、これならたまきに向いていると太鼓判を押されて始めたバイトだったけど、今のところ、ちっとも自分に向いているとは思えない。

「ただいまです……」

たまきは左手で『城』のドアを押し開けた。今日はもう、右手には何も作業をさせたくない。かといって、左手もローラーを動かしたり筆を動かしたりと使い続けていたので、右手とは別種の疲労がたまっていて、極力動かしたくない。つまりたまきは、今日はもう何もしたくないのだ。

「お、おかえりー」

『城』の中には亜美が一人でいて、相変わらずゲームをしている。

「バイト、どうだった?」

「……疲れました」

「まあ、そうやって働いて、みんな大人になってくんだよ」

と、ろくに働きもしない亜美が言った。そして亜美は立ち上がり、ゲーム機に二つ目のコントローラーをいそいそとつける作業をしながら、

「よし、この前のリベンジしようぜ」

と言った。

「……リベンジ?」

「この前のゲームの続きだよ。ほら」

と、亜美はたまきにコントローラーを差し出す。

リベンジしようと言われても、リベンジしたいのは負けた亜美だけで、たまきにリベンジするつもりは全くないのだが。

今日はもう手を動かしたくないんだけどな、と思いながら、たまきは仕方なくコントローラーを手に取った。

 

翌日、たまきは頑張って早起きして、朝の九時に目覚めた。

頑張って起きたはいいものの、頭がぼうっとして、エンジンのから回った車のように、うんともすんとも言わずにただ座っている。そんな状態が一時間ほど続いた。

十時になって、行信寺にバイトに行く志保にくっついて『城』を出た。まだ頭の半分は眠ったまんま、ゾンビのようにふらふらと志保の後をついていく。

寺までの十数分の移動距離で、まるで氷を溶かすかのように、たまきは少しずつ目が覚めていった。寺につき、倉庫から脚立とペンキをがたがたと出して、昨日の続きの場所にセットする頃には、脳みそは八分咲きと言ったところか。

たまきはペンキの缶をもって脚立の上部に座り、大あくびをして、ローラーを壁にあてがった。頑張って早起きをしたから、昨日より二時間ほど作業時間は増えてるはずだ。

お昼休憩を挟み、午後からもまた壁に向かい合う。

途中で一度、志保が様子を見に来た。壁面を一目見るなり、

「すごい。ちゃんときれいに塗れてるじゃん」

と手を叩いて喜ぶ。たまきが壁にローラーをあてがって転がすと「すごいすごい」、ペンキの届かなかったくぼみを筆で埋めていくと「すごいすごい」、挙句の果てには、脚立を移動させてよじ登っただけで「すごーい」。

志保にそんなつもりはないのだろうけど、ここまで一挙手一投足を誉められると、一周まわってバカにされてるような気がしてくる。

まあ、これまで何もせず、ただ寝転がるかお絵描きするかだった奴が、ろくに面接もなかったとはいえ、一応バイトをしてるとなればそれだけで「すごーい」なのかもしれない、とたまきは思い直した。

 

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二時間だけ労働時間が増えたのに、なんだか昨日の倍疲れている気がする。たまきはゆっくりゆっくりと、太田ビルの階段を上っていった。手の疲れに加え、脚立の上り下りのせいで足にまで疲れが出ている。

二階のラーメン屋の前まで来た。ここまで、階段を上り始めてから二分かかった。

ふう、っとため息をついてラーメン屋の方を見ると、廊下の奥、従業員が休憩するベンチに、調理服を着たミチが腰かけてタバコを吸っていた。たまきの姿を見るなり

「お、お疲れ」

と声をかける。

たまきは無言でペコリとお辞儀だけして、ミチに背を向けて階段を上るとした。するとミチが

「あれ? 今日、なんかいつもと違くない?」

と言うと、ベンチから立ち上がり、たまきの方へと寄ってきた。

ミチが言う「いつもと違くない?」と言うのは、たまきの態度のことではないだろう。むしろ、ここでミチに会った時のたまきの対応としては、かなりいつも通りだ。ミチが「違くない?」と言うのは、たまきの服装のことだろう。いつも上から下まで黒一色か、ミチからもらった薄群青のパーカーを着るかぐらいのたまきが、住職が用意してくれた上下グレーのジャージを着ているうえ、ところどころ青いペンキが付着している。おまけに、顔にもちょっとペンキがついている。服装に無頓着なたまきの見た目がいつもと違うのは、それだけでとんでもない変化なのだ。

「どしたの、その格好?」

「……まあ……その……」

ミチにあまり詮索されたくない気持ちと、照れくささと、ちょっとだけ自慢したい気持ちがないまぜになったまま、たまきは

「……バイトで」

と答えた。

「……バイトって、あのバイト?」

ほかにどのバイトがあるのだろうか。まさか、メガバイトだのギガバイトだのの話をしてるとでも思ってるのだろうか。

次の瞬間、ミチの口からは

「ウソぉ!!?」

という失礼極まりない言葉が飛び出した。

「え、たまきちゃん、絶対バイトなんかしないと思ってたのに」

ふつうにバイトをしてるだけで、どうしてそんな裏切られたかのようなことを言われなければいけないのか。

「え、何のバイトしてるの?」

「まあ……、その……」

たまきはミチから目線を外した。

「絵を描くバイトを……」

実際のところは、まだ絵を描く段階に至っていない。ひたすらブロック塀を塗装しているだけだ。じゃあ、塗装のバイトだと胸を張って言えるかと言うと、別にそんなにうまく塗装しているわけでもない。

「あ、それでペンキまみれなんだ」

と、ミチはたまきの全身をじろじろ見た。たまきはさらにミチから目線をそらす。

ふいに、ミチの右手がたまきの視界に入ってきた。そして、

「髪にもペンキついちゃってんじゃん」

と、たまきの髪の毛を手に取った。

たまきはとっさに体を激しくよじってミチの手を振りほどいた。

「か、勝手に触らないでください!」

ミチの方を見ることなくそういうと、

「……言いつけますよ」

と付け足した。

そう言ってから、一体誰に言いつけるんだ、とたまきは自分の言葉を反芻した。一方でミチは

「あ、ごめん」

と、バツの悪そうに後ずさった。おそらく、たまきとミチの共通の知り合いの中での「言いつけられたら困る人」の誰かの顔が浮かんだのだろう。どうやら、この文言は割と効果があるようだ。今後も使っていこう、とたまきはひそかに思った。

 

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ペンキ塗りの作業も三日目に入った。一生終わらないように思えたけれど、昨日までの作業で半分が終わった。この調子で行けば、明日までにはすべての作業が終わるだろう、と思いながら、たまきは今日の仕事の準備を始める。ペンキ塗りはただの下準備であって、本当の仕事はまだ始まってすらいない、ということにたまきが気付くのはもう少し先の話、この日の夕方になってからだ。

お昼過ぎ、たまきは相変わらずペンキのローラーを転がしていた。そこに、

「お、ここか」

と、聞きなれた声がきこえてきた。

声がした方を向くと、亜美が立っていた。右手に火のついたタバコ、左手にはビールの缶を持っている。

亜美はたまきの顔を見るなり、

「マジか! ホントにバイトしてんじゃん! マジウケる!」

といって大爆笑した。

志保には赤ちゃんのように褒められ、ミチには仰天され、亜美には大爆笑される。もしかしたらこの人たちもミチのお姉ちゃんみたいに、たまきをペットのネコか何かだと思っているのだろうか。なるほど、ネコが一丁前にバイトを始めたら、ただそれだけで褒められるし驚かれるし笑われるだろう。いつか何かで見返してやる、とたまきは心に誓った。

たまきは返事をすることなく、黙々と作業を進めた。

「ここ? オカマのボウズがいる寺って?」

「……まあ」

少し間を開けてからたまきは、

「住職さん、今日はお寺にいるけど、会ってきますか?」

と尋ねた。

「いや、パスするわ。そのオカマでガタイのいいボウズってのがいまいちピンとこないんだよなぁ。ホントにいるのか、そんなやつ?」

亜美の言うことは一言一言が甚だ失礼である。こんな人は住職さんには会わせられないな、と思いながら、たまきは黙々と作業を進めた。

「そうそう、おまえに言いたいことがあったんだよ」

「そうですか」

「なんだったっけなぁ~?」

というと、亜美は缶の中のビールを一気にグイッと飲み干した。

「そういや、さっきここ来る前に下のラーメン屋でミチにあったから、あいつにもこの寺のこと教えておいたぞ」

「え?」

たまきは危うくペンキの缶を落としそうになった。

「な、何でミチ君に教えるんですか?」

「あいつが、たまきちゃんのバイト先ってどこっすか~?って聞いてきたから、ケータイで地図見せながら教えといたぞ。なんだよ? 見られて恥ずかしいようなバイトじゃねぇだろ?」

「ま、まあ、そうかもしれませんけど……」

たまきにとって、人に見られて恥ずかしくないものの方が少ない。

「い、言いたかったことっていうのは、そ、それですか?」

「いや、それじゃなくて今のはついでで、ほかになんかあったんだよなぁ」

と亜美は煙草を空になったビール缶の中にねじ込む。

「そうそう、思い出した。さっき先生から電話あったんだよ」

「舞先生から……ですか?」

「そうそう。たまきが寺でバイト始めたって聞いたけど、ちゃんとやってんのか? って。そうそう、それでウチが様子を見に来たってわけよ。先生言ってたぞ。しばらくたまきの顔見てないけど、元気なのか、って」

たまきの作業の手がふと止まった。言われてみればここしばらく、舞に会っていない。

「そういやおまえさ、ここんとこリスカしてないんじゃね? だから先生とも会ってないんじゃねぇの?」

「え?」

いよいよたまきの手は完全に止まり、上半身を亜美の方に向けた。

「私、最近リスカしてなかったんですか? いつから?」

「いや、おまえの手首の話だよ。ウチに聞くなよ。まあ、確かにここしばらくないよなぁ」

たまきは作業の手を止めて、右手首の包帯をじっと眺めた。

確かに、言われてみればここ最近はリストカットをしていない。いったい、いつからだろう。

記憶を掘り返してみるけれど、最後にリストカットしたのがいつだったのかあまりはっきりしない。

でも、なんとなく確信の持てることがあった。

たぶん、鳥のラクガキを探し始めてからは、リストカットをしていない、そんな気がするのだ。

それと同時に、急に不安になってきた。ここしばらくは鳥のラクガキを見つけられていない、ということに。

ふと気づくと、たまきの左手からペンキのローラーがなくなっていた。

どこかに落としたかとあたりを見渡してみると、すぐ目の前で亜美がローラーをブロック塀にあてがっていた。いつの間にかたまきの手から奪い取ったらしい。

「な、何してるんですか?」

「見りゃわかんだろ。手伝ってやってんだよ」

そういうと亜美はガーガーとローラーを転がす。

だけど、その塗り跡が地面に対して垂直ではない。微妙に傾いている。そのため、たまきの塗ってきた箇所から次第に離れ、塗り残しが広がっていく。

たまきはその都度ローラーを止めてもう一回塗り直すなり筆で塗り残しをつぶすなりしていたのだけど、亜美は塀の上から下までノンストップで一気にローラーを転がす。そして、あらゆる塗り残しを一切無視して隣の場所からまた上から下までローラーを転がす。

「なんだよ、こんなの、カンタンに終わるじゃん」

仕方がないので、塗り残しの部分はたまきがあとから筆で塗りつぶしていった。どうせ手伝ってくれるのなら、めんどくさい方をやって欲しかった。

亜美は三分ほど作業をした。いや、たまきから見ればただ適当にローラーを転がしていただけで、断じて「作業」と呼べるようなものではない。

亜美は急にぴたりと立ち止まると、

「なんか、飽きた」

というとたまきにローラーを返した。

そして、片手に握っていた空き缶を、全く無造作に放り捨てた。

「じゃあなー。あ、手伝った分のバイト代はいらねーからなー」

たまきは、路面にからころと転がる空き缶を見た。飲み口から中にねじ込んだ吸い殻が顔を出した。

次に、余白だらけのペンキの塗り跡を見ながら、しばらく立ちすくんだ。

やがて脚立によじ登ると、亜美の作った塗り残しをつぶす作業を始めた。

世の中には自分よりもバイトに向いていない人がいる。それがわかっただけでもよかった、ということにしておこう。

 

四日目。前日までに壁の八割を塗り終わった。作業に慣れたこともあってスピードも少し早くなった。この調子なら今日の昼過ぎにはすべての作業が終わる。

はずだった。

午前中、たまきがお寺の裏口につくと、すでに住職が立っていた。

「たまきちゃん、がっかりしないでね」

たまきが住職と一緒に「仕事場」に行ってみると、青いペンキで塗りつぶしてきたスペースの3分の1ほどに、黒いスプレーで新しいラクガキが描かれていた。何かの文字を崩したような形だけど、何なのかは判別できない。

「夜中にやられちゃったみたいねぇ。塗り直しの追加のバイト代はちゃんと考えておくから」

「……はい」

この日の作業は、ラクガキされた箇所の塗り直しから始まった。

壁の大部分を塗りつぶされたわけでなく、スプレーでにょろにょろと黒い線を描かれただけなので、そこまで厄介な作業ではない。しかし、青いペンキをバケツごとぶちまけて消せるのならばどんなにラクか。

ふと、たまきはいつか見た張り紙を思い出した。

『落書き厳禁! 迷惑してます!』

思い返してみると、たまきはこれまで「鳥のラクガキ」探しに、いかに無責任にはしゃいできたことか。じぶんちの壁にラクガキされて嬉しい人などいないのだ。それが、誰のどんなラクガキであっても。たとえ天才画家といわれる人だったとしても、ラクガキはあくまでラクガキなのだ。

よくよく考えてみればたまきは、人の建物に勝手に住んで、壁に勝手に描かれた落書きを探して回ってる。ちっともほめられたことじゃない。

だからこそ、少しでも褒められる人間になりたくて、たまきは今日もローラーをあてがうのだった。

 

一時間ほどで塗り直しを終え、いよいよ最後の作業に入った。余計な時間を使ってしまった分、たまきは作業のスピードアップを図ることにした。

これまでは、ローラーをあてがう前にまず、その一帯をよく確認して、例の鳥のラクガキがないか、ほかのラクガキに潰されていないかをチェックしていた。その時間を削ることにした。

もう、いちいち確認などしないで、さっさと作業を進める。もしも鳥のラクガキがあったとしても、お構いなしに塗りつぶす。それがたまきの仕事なのだ。

 

お昼休憩を終えてさらに作業を進める。

たまきはふと、人が近づいてくる気配を感じて、そっちの方を向いた。

道路の奥から、ミチが近づいてくるのが見えた。そういえば、亜美がここでたまきがバイトをしてると余計なことを教えたのだった。

絶対、笑いに来たに決まってる。

ミチは両手をズボンのポケットに突っ込んで、ガムをくちゃくちゃとかみながら近づいてきた。たまきはギリギリまで知らない人のふりをしようと決めた。

案の定、ミチはたまきに近づくなり、

「うわ、マジでバイトしてんじゃん!」

と大きな声を上げた。亜美のように爆笑しなかったのは少し意外だったけど。

笑わないのはいいことだったけど、こともあろうにミチは、携帯電話を取り出して、カメラをたまきに向けた。

「え……な、何してるんですか?」

「いや、姉ちゃんに見せるだけだからさ」

「や、やめてください」

たまきは右手を精一杯持ち上げて、ペンキの缶でなるべく顔を隠した。

「ちょっとぐらいいいじゃん。ホントに姉ちゃんに見せるだけだって。見せたらすぐ消すから」

そう言って、前にも「消す」と言ってた写真を消さなかった前科がある。信用できない。

「やめてください。言いつけますよ」

たまきは、ペンキの缶越しに、ミチをにらんだ。

「わ、わかったよ。ごめんって」

ミチは携帯電話をしまった。どうやら、魔法の呪文「言いつけますよ」はまだコイツに対して効果があるらしい。

たまきは、顔を隠していた右手を降ろした。でも、相変わらずミチをにらんだままだ。

「用が済んだら帰ってください。その……仕事の邪魔です」

ここでは魔法の呪文は使わない。魔法というものは乱発したら効果が薄れるのだ、きっと。ここぞという時に取っておかないと。

「いや、まだ用事終わってねーし」

これ以上どんな邪魔をするというのか。

「たまきちゃんさ、なんかヘンな鳥のラクガキ、さがしてたじゃん?」

たまきは返事をしなかった。「鳥のラクガキ」なら探してるけど、「ヘンな鳥のラクガキ」を探してる覚えはない。

だいたい、ミチはこの前、鳥のラクガキに興味なさそうだったではないか。

「でさ、知り合いのレコ屋の店長がさ、むかしストリートアートをやってたって話思い出してさ、鳥のラクガキのこと話してみたらさ、描いた人のこと知ってるって言ってさ」

「……え?」

たまきは、うっかりペンキの缶を落としそうになった。

「……あのラクガキ描いた人のこと、知ってるんですか?」

「そうそう。俺もまだ詳しくは聞けてないんだけど」

「知ってるって……、名前とか……」

「えっとね……、セナっつってたな」

「せな……」

たまきはその名前を反芻した。

「女の人……ですか……?」

「そんな名前だったと思うけど。うん、女の人の名前だったなぁ」

やっぱり。なんとなく、そんな気がしていたのだ。

たまきの仕事の手は、完全に止まっていた。仕事どころではない。聞きたいことがいっぱいあるのだ。

「その人って、今、どこにいるんですか?」

「ごめん、俺もそこまでは聞いてないんだ」

「そうですか……何歳ぐらいの人なんですか?」

「それも詳しくは……。ただ、レコ屋の店長は四十才ぐらいなんだけど、それよりも若いんじゃないかな?で、その店長さ、セナって人がラクガキ描くところとかも見ててさ、それこそ、俺らが公園で見つけたラクガキあったじゃん。あれ、どうやって描いたかっていうと……」

「ま、待ってください!」

たまきにしては少し強めの声で、ミチの話を遮った。

「そ……その話は……いいです」

「……え?」

「だから……その……どうやって描いたかって話は……別に……」

「え、だって、気にならない? っていうか、そういうの知りたくて探してたんじゃないの?」

たまきは首を横に振った。

聞きたいことはいっぱいあった。でも、その話だけは聞きたくない。

どのラクガキも、たしかに描くのが難しそうな場所にある。

でも、絶対に不可能というわけではない。

どうやって描いたのか、正直、ある程度の予想はできている。

でも、だからこそ、「どうやって描いたのか」だけは知りたくなかった。あれは魔法か何かで描いたんだ、たまきはそういうことにしておきたかった。

ミチとしては、話を遮られてしまって、釈然としない感じだ。

「ま、まあ、とにかくさ、その店長さんにたまきちゃんのこと話したんよ。その、鳥のラクガキを探して回ってる子がいるって。そしたら、直接セナって人の話をしてもいいっていうんだけどさ」

「……その店長さんが、私に……ですか?」

「そう」

「その……もしかしたら……セナって人にも会えますか?」

「あ、そこまでは聞いてない」

「そうですか……。あの……その……」

「なに?」

「……どうしてミチ君がそこまでしてくれるんですか?」

「……どうして?」

どうしてと聞かれても、困る。

「……とにかくさ、たまきちゃんが話聞きたいって言うなら紹介するけど、どうする?」

「えっと……その……」

たまきはうつむきがちに言った。

「……お願いします」

「オッケー。じゃ、あとで話しとおしとくわ」

「それと……その……」

そのあとにたまきは何かを付け足したが、ミチにはよく聞き取れなかった。

たまきは、ローラーをしっかりと握ると、壁に向き合った。

ラクガキは見つからなかったけど、その代わり、思ってもなかった話が降ってわいてきた。

でもまずは、このバイトをしっかりと終わらせよう。たまきは、壁にローラーをあてがった。

つづく


次回 第42話「ジャングルのちライオン、ところにより鳥」(仮)

ミチに連れられてレコード屋の店長に会いに行くたまき。「鳥のラクガキ探し」もいよいよ佳境か? 7月公開予定!


クソ青春冒険小説「あしたてんきになぁれ」

ピーマンの日々

ピーマンに生活を左右されてます。

夏野菜を植え付ける時期になって、先週の土曜日、畑にピーマンを一株植えたんです。

農園からの説明だと、ピーマンは水を多めにやらなきゃいけないみたいで、特に植えてからしばらくは週に二回のペースで水やりをしなければいけないとのこと。

週二はなかなかに難しいなぁ、と思いながら天気予報を見ると、水曜木曜と雨の予報。

雨が降るなら、わざわざ水やりに行く必要もないでしょう。むしろ、水のやり過ぎはよくないというものです。「週二回」のうちの一回は自然の雨に任せて、次の水やりは週末にしよう、と、水曜日は畑とは反対方向の駅前でいろいろと仕事をしていたわけです。

……雨なんか降らないじゃないか!

予報では「昼過ぎから大雨」と言っていたから、畑にはいかなくていいやとこっちに来たのに、昼下がりまでカンカン照り。

雨雲レーダーを見てみると、よその地域は土砂降りだというのに、僕の地元だけ巧妙に雨雲が避けているんですよ。

週末まで畑に行かない、ということで予定を立てていたのに、この後も雨が降らなかったら、予定を立て直して木曜日に畑に行かなきゃいけない。木曜日に畑に行くということは、木曜日の予定を他の曜日にずらすということで、木曜日の予定を他の曜日にずらすということは、ほかの曜日の予定をまた別の曜日にずらすということで、中にはずらしようのない予定もあって……。

ピィ~~~~~! ピーマン、ピィ~~~~~~~~!

そんなことを考えながら、水曜日の空模様を見つめていると、次第に水墨画のように黒い雲がモクモクと沸き立ち、世界の終わりかと思わんばかりに空は雲に覆われ、夕方から一気に土砂降りになりました。

良かったよかった。これで予定を立て直ししなくて済む。土砂降り土砂降り、ランランラン♪

畑には他にも、ナス、ミニトマト、エダマメ、バジル、サンチュ、マリーゴールドを植えています。わずか二畝だけど、野菜と葉っぱとお花でいっぱいです。

ミニトマトを植えるのは二回目で、わきにはバジルを植えています。これはミニトマトが水を嫌う一方で、バジルが水を好むので、近くに植えておけばバジルが余分な水を吸ってくれるからだそうで。

それでもなお、ミニトマトはデリケートです。去年もいくつかひび割れたミニトマトがあって、どうやら水の与え過ぎが原因ではないかと……。

さっき、土砂降りが降ったがね。そこまで降らなくてもいいよってくらいに。

ピィ~~~~~~! ミニトマト、ピィ~~~~~~~~~~!

諏訪の旅々

諏訪を旅してきました。15年ぶりです。

学生の頃、民俗学の先生が「諏訪の民俗は他と違う!」というのを力説していて。

そのうえ、先生いわく「諏訪の人は顔立ちもよそと違う!」

それはさすがにないだろう、炎上案件ですぜ先生と思いながらも、「諏訪がほかとは違う」というのがずっと記憶に残ってました。

調べれば調べるほど、あの周辺は歴史がとても深い。それも、数万年単位で。

まず最初に行ったのが、富士見町にある井戸尻考古館

もともと、縄文時代のすごい史料館が「井戸尻」というところにあるという噂は耳にしていたんだけど、少し前に大宮の博物館で縄文の企画展をやっていた時に、すごいと思う土器の多くが井戸尻考古館から借りてきたものだと書いてあって、おまけにそれが諏訪の近くだと知って、いつか行ってみたいと思っていた場所です。

今回の諏訪と歴史を巡る旅は、この縄文の扉がある町から始まるのです。

駅の名前は「信濃境」という山梨から長野に入ってすぐの、まさに長野県の玄関口にあたる駅です。山の斜面に作られた駅で、駅を出て考古館までは15分ほどただひたすら下り坂。

自然豊かな場所で、きっと縄文の時代からそんなに風景が変わってないのでしょう。

さて、井戸尻考古館を見学してきたのですが、驚いたのがその出土品の量。バスケのコートぐらいの広さの部屋にずらりと並べられた土器、土偶、石器。「県内各地から集めました」って感じの量なんだけど、出土したのは全部信濃境駅の周辺だというのだから、驚きです。たった一つの地域からこれだけの量の遺物が出土したのか、と。まさに、縄文の都。

そんな信濃境から電車に揺られてさらに山の奥へ。諏訪湖の近くのゲストハウスで一泊しました。

長野県のど真ん中。周囲を2000m3000mクラスのの山に囲まれ、もしかしたら日本で一番海から遠い場所かもしれない。

そんなところに、海と見まがうばかりの巨大な湖があるのです。険しい山々を越えた先の標高750mのところにあるまさに「天上の一雫」

古代人が山を乗り越えた先にこの諏訪湖を見つけた時、どれほど驚いただろうか。

船旅をしていた時は、何もない海の上を見て、今まで自分が生きていた世界は何て狭かったんだ!と価値観がぶっ壊れたわけです。

一方で、この諏訪は周囲を山に囲まれ、真ん中には海のような湖があり、その周りを囲む街の規模もかなり大きい。まるで世界の縮図みたい。

ここに来ると逆に世界というのはこの山々に囲まれた湖のある一画だけで、あの山の向こうにはもう何もないんじゃないかと錯覚を起こすから不思議です。

そして、諏訪はそう思わせるだけの説得力があるんですよ。諏訪湖全体が、諏訪大社の祭神であるタケミナカタなんじゃないか、この湖とそれを囲む町全体が一つの聖域なんじゃないかと思わせるだけの力が。

タケミナカタは蛇や竜の姿で描かれることが多い神様ですが、諏訪の街中も無数の川が蛇のように走り、諏訪湖めがけて集まっていきます。

そしてそれはやがて天竜川として、浜松の遠州灘めがけて山々を駆け下りる。

この諏訪湖と天竜川の境目も見てきたのですが、諏訪湖の方が、天竜川よりも水位が高いんですよ。それを水門で調整して、天竜川に少しずつ水を流している。

ということは、水門ができる以前の天竜川には、もっととんでもない量の水が流れていたことに……。

まさに、山の上の天から駆け下りる竜そのものです。

諏訪は長野県のほかの場所に行くにも起点にしやすい場所なので、また近いうちに訪れたいものです。

やっぱり大好き「宇宙よりも遠い場所」

アニメ「宇宙よりも遠い場所」(通称「よりもい」)の再放送が終わりました。

6年前にリアタイで見てから、もう3回4回と見てるんだけど、何度見てもいいアニメ。

僕のアニメの見方は、視聴するタイトルを絞って、気に入ったおなじアニメを繰り返し繰り返し見るタイプです。「ヤマノススメ」「プリンセス・プリンシパル」「刀使ノ巫女」と、おなじアニメを繰り返し繰り返し見ています。

「よりもい」も僕にとってはそんなアニメの一つ。何度見ても飽きない!

脚本が花田十輝先生なんですよね。やっぱり花田先生の脚本は、キャラの見せ方がいいし、描き方が丁寧。いろいろやってる人だけど、ほかの作品だと「ラブライブサンシャイン」が好きです。

世の中似たようなアニメが多い中で、「女子高生たちが本気で南極を目指す」という、どこともかぶらないお話です。

女子高生が南極になんてホントに行けるの? ってところから始まり、周りにばかにされながらも南極行きの切符をつかみ、パスポートなくしかけたり、船酔いに悩まされたりしながら、南極にたどり着く、そんなお話です。

僕にとっての「よりもい」の魅力は何だろうって考えると、やっぱり「どんなにバカげた夢でも、全肯定してくれる」ってところだと思います。

宇宙よりも遠い場所・南極に女子高生が行くという、途方もなくばかげた夢を全肯定しているアニメですから。それも、特別な才能があるわけでも、想像を絶する努力をするわけでもない、ホントにごく普通の女子高生たち(一人中退してるけど)が南極に行くのだから、これ以上バカげた夢はないです。それを全肯定しているアニメなのだから、見てる側がどんなにバカげた夢を胸に秘めていても、「突き進め!」と肯定してくれるわけです。

むしろ夢というのは人に言ったらバカにされて笑われるくらいじゃないとおもしろくない。

あと、南極には行ってないけど(寒いの嫌いだから行きたくもないけど)船旅をしてた僕にとっては、荒唐無稽どころかものすごくリアルな話だというのも好きなポイントです。

海外でパスポートなくしかけるとか(焦りで軽く死ねますね。経験者は語る)。

船酔いでグロッキーになるとか(マジで軽く死ねますね。経験者は語る)。

出発の日の朝の何とも言えない雰囲気とか、帰国して普通に電車に乗って一気に現実に帰ってくる気持ちとか。

つまりまあ、一つ一つの描き方が丁寧なのです。

そして実はお話の構成がものすごくシンプル。

舞台は群馬からシンガポール、船に乗って南極へと世界単位で移動し、登場人物も毎回いっぱい登場する。でも、基本は「四人の女の子が南極を目指してからたどり着くまで」を描いたお話で、キマリ、報瀬、ひなた、結月の4人さえ覚えておけば、十分お話を楽しめる。

名作と呼ばれる作品ほど、余計な脱線をしないで、シンプルに話を進めるものです。

そして今回、全話録画したので、もういつでも「よりもい」が見れる! やったね!

「よりもい」放送から6年、ついに「いつでもよりもいが見れる生活」がはじまります。軽く死ねますね。

「舟を編む」を見る

久々に連ドラを見てます。

NHK BSで日曜日に放送しているドラマ「舟を編む」

小説を原作とした、出版社の辞書編集部を舞台とする物語です。

前から興味はあったんだけど、小説も映画もなかなか手を出すのはおっくうで。

で、今度連ドラでやるというので、とりあえず初回だけでも見てみようかなと。見続けるかどうかはそれから考えるということで見始めたんですけど、一話目がしっかり面白くて、見続けてます。

辞書作りに没頭する馬締さんの役を、RAD WIMPSの野田洋次郎が演じてるっていうのがいいです。

稀代の作詞家である野田さんが、言葉を探求する辞書編集者を演じるというのは、説得力があります。

RADの時の野田さんはどこかクールな印象があったので、その野田さんがさえないけどキマジメで、言葉と真摯に向き合う辞書編集者を演じてるというのはなかなか面白い。RADの曲を聴いてても、「この歌を歌ってる人が、『舟を編む』の馬締さんを演じてるんだっけ?」と、どうしても頭の中でつながらない。

キャスト的には、かっこいい刑事役のイメージが強い柴田恭兵さんが、紳士的な国語学者を演じているというのも、なかなか面白いです。

キャストだけでなく、ストーリーももちろん面白い。「SHIROBAKO」もそうだけど、僕はこういうモノづくりをテーマにしたお話が好きみたいです。

特に面白いのが、辞書のソフト面である「言葉」だけじゃなくて、ハード面である「紙」へのこだわりも描かれているところ。他社よりも軽い辞書にしたいと考える馬締さん。だけどそのオーダーを受けて製紙会社の人が持ってきたサンプルをチェックした馬締さんは首を横に振る。

「ぬめり感がなくなっています」

以前のサンプルにはあった「ページをめくるときに手に吸い付いてめくりやすくなる感覚」が新しいサンプルにはないのだそうで。おまけに、紙を軽くするということはつまり薄くするということで、そのぶん強度が弱くなることでもあるのです。

本当に、モノづくりを始めると、ソフトだけでなく、ハードの部分にもこだわり始めます。沼です。

ここで言う「沼」とは辞書的に言えば「俗用」というやつで、「一度はまると奥が深くて抜け出せなくなる状態」というやつですね。

でも、僕はこの言葉はあんまり好きじゃなくて。

だって、沼にはまったらもう死ぬしかないじゃないですか。ヤダよ、そんなの。

「沼にハマる」よりも「森に迷い込む」の方が僕はしっくりきます。森なら生きていけるし、沼よりも視界は開けてるし。

イヤぁ、言葉って面白い。

そして、言葉を詰め込んだ辞書作りを描く「舟を編む」も面白い。

ただ、ひとつ心配事があって。

今回のドラマ、原作にかなり変更を入れているらしいんですよ。

ドラマと原作の関係が何かと言われている昨今、原作にだいぶ手を加えているみたいだけど、大丈夫なのかな。

と思ったけど、番組のホームページで原作者・三浦しをんさんのコメントがあって、「脚本を笑いながら読ませていただきました」と書いてあったので、大丈夫なのかな。

まあ、『舟を編む』は2011年の作品で、これまで映画化されたりアニメ化されたりしている小説ですから、それをいま改めてドラマ化するとなると、「原作とは少し違う形で」というのがベストなのかもしれません。

6年目突入!

僕の立ち上げたZINEレーベル「ノンバズル企画」も、今月で活動5周年になりました。

5年間、長いような、短いような、体感にして5年くらいというか。

まさか5年後も活動を続けてられるとは、30%くらいしか思ってなかったですよ。いや、やり続けるつもりではいたけど、どうせ誰にも見向きされないんだろうと思ってましたから。その覚悟で始めたことですから。

というわけで、今月から6年生です。

5年目は「予算管理」を意識し始めた年でした。どんぶり勘定はやめて、「前回までの売り上げがこれくらいだから、今回の予算はこれだけ!」を徹底してやるようになりました。

参加したいイベントがあってもむやみに応募するんじゃなくて、まずは予算とにらめっこ。参加するだけの予算がなかったら、もちろん参加は見送ります。

でも、ちゃんと予算を管理するようになったことで、「予算があまって余裕があるから、台車が買える! 椅子も買おう!」と、今までケチって渋っていた備品が買えるようになりました。

お金を使わないための予算管理であると同時に、お金を使うための予算管理なのです。

あと、最近は予算の中で「広告費」という名目を用意するようになりました。

このイベントに参加しても採算は取れないだろうけど、宣伝にはなるぞ、みたいなときに使うお金。これまた、「予算のうちのこの部分は広告費! 採算は取れなくていい!」と腹をくくったからこそできること。

予算管理って大事なんです。

それに加えて、6年目は「スケジュール管理」も今まで以上に徹底していこうと思ってます。

なんのスケジュールかというと、製作スケジュールですね。

何月はこれをやって、何月までにこれをやって、今週はあれをやって、来週はこれをやって……。

どうしてスケジュール管理にこだわるのかというと、今年から同時に二冊のZINEを作るからです。

これまで作ってきた「民俗学は好きですか?」シリーズに加えて、いま、小説「くらやみ坂のナツミ」を執筆しています。年末の文学フリマ東京に向けて製作中です。

二冊同時に作っているからこそ、スケジュール管理が重要。どっちがどこまで進んでいるのか。どっちの製作が遅れているのか。どっちの製作を優先し、どっちにより時間を割かなければいけないのか。

スケジュール管理を模索しながら、探り探りでやっています。

今のところ、「民俗学は好きですか?」の制作に支障はないし、「くらやみ坂のナツミ」も予定通りに書き進んでいます。

予算管理も、スケジュール管理も、二冊同時製作も、全てが挑戦です。いや、モノづくりと販売はいつだって挑戦です。

結果の出る出ないは別として、挑戦し続けることこそが一番大事だと思うのです。すべての挑戦者に幸あれ。

8年前のドカ雪

この前は久々のドカ雪でした。畑仕事をはじめて、はじめて、はじめての冬です。あれ? はじめて一個多いかな?

人や車が往来する道路には雪は残らなくても、畑にはしっかり雪が残ってました。

屋外の流し場にも雪が積もって泡風呂みたいになってました。

雪の中で野菜の様子をチェックしようと「トンネル」と呼ばれる装備を外そうとするけど、雪解けの泥でぐちゃぐちゃ。ただ野菜の様子を見たかっただけなのに泥遊びをする羽目に。

ニュースを見てると参考までにと、8年前の大雪の映像を流してました。

ああ、懐かしいなぁ。

2015年2月14日。あの日のことはいまだに忘れない。血のバレンタインならぬ、ドカ雪のバレンタイン。

その日、大好きなHOME MADE 家族のライブが、さいたま新都心のライブハウスであったんです。

ところが、異例の大雪。電車は動くのか、ライブは開催されるのか、そもそもHOME MADE 家族は会場に来れるのか。不安は尽きません。

ただ幸いなことに、さいたま新都心はぎりぎり徒歩圏内だったので、交通機関が止まっても会場に行ける。大雪の中をひいひい言いながらライブハウスまで歩きました。

無事ライブも始まり、HOME MADE 家族はステージに立つなり、「今日は本当によく来たな!」。ふつうのライブの10倍くらい歓迎されました。

会場はいつものライブより若干すきまがあって、ああ大雪で諦めて来れなかった人もいっぱいいたんだろうなぁ、と。

そして始まるライブ。「アイコトバ」「少年ハート」などの定番の名曲から、新曲まで、ライブパフォーマンスがすぐ目の前で繰り広げられます。その曲で飛び跳ねたり踊ったりするぼくたちオーディエンス。

武道館で一万人を前に歌ったり、テレビで電波に乗せて歌ったり、ラジオで何度も流れたりして、大勢の人が聞いてる曲たちを、今日このライブハウスに大雪のなか必死でたどり着いた数百人のためだけに今歌ってくれてる、これはライブの究極の醍醐味だなぁ。たぶんアーティスト側の視点でも、「大雪の中で必死で来てくれた限られた人たちのためだけに歌う」ということはなかなかないんじゃないかな。

それから半月ほどして、毎週見ていた深夜の番組「さまぁず×さまぁず」を見ていた時です。

「さまさま」はさまぁずの二人がお客さんの前でトークをする、というだけのシンプルな番組。でも、毎週録画するほど好きでした。

さまぁずの二人がお客さんの前に出てきて、あいさつをしてからトークが始まるのですが、その回は出てくるなりお客さんに向かって、「今日は本当によく来てくれた!」といつもの10倍の大歓迎。

ああ、あの日だ。あの日の収録だ。

きっと、さまぁずの二人も、お客さんも、ひいひい言いながらテレ朝のスタジオに行ったんだろうなぁ。

君たちはどう疲れをとるか

最近、「いかに疲れをリカバリーするか」に力を入れています。

一流のアスリートは「どれだけ練習するか」よりも、「いかに体をケアして、いつも通りの実力を発揮するか」に力を注ぐって言います。

僕も一流の市民なので、「いかに疲れをとって、次の日も元気に動けるか」を考えねばなりません。

たとえば、マッサージチェア。近所のイオンに100円200円でできるマッサージチェアがあって、たまに使うのですが、凝りがほぐれてホニャホニャになります。

よし! マッサージチェを買おう!

と思ったけど、いくつか問題が。

まず、シンプルに値段が高い! 旅館に泊まって温泉に浸かった方がマシじゃ! ってくらいの値段がします。

おまけにデカくて場所をとる。

マッサージチェアを買ってしまったら、今ある椅子は邪魔なので捨てなきゃいけません。壊れてもいないのにマッサージができないただの椅子だから捨てられるとは、なんて不憫な子。

あと、マッサージチェアではいつも全身コースでやってるんだけど、

よくよく考えると、別に全身やってもらう必要はなくて、腰だけだったり、背中だけだったり、肩だけだったりでいいような……。

でも、せっかくだしもったいないからと全身コースで10分15分ほどやってみるんだけど、終わってからやっぱり思う、「腰だけでよかったな……。肩とか腕とか、いらんかったな……。そのぶん腰を重点的にやってもらえばよかったな……」

全身やってもらう必要がないんだったら、あんなにバカでかい必要もないわけで。もっとコンパクトなものにして、その時その時で必要な個所を重点的にマッサージすればいいのでは……。

というわけで、マッサージ器具があるお店をいろいろとまわってみました。

で、この前2000円ぐらいで買ったのがのが、このイボイボ付き鉄アレイみたいなやつ。樹脂なので鉄よりずっと軽いけど。

これを椅子と背中・肩の間に挟んだり、足で挟んだり、布団においてこれの上に直接寝たり、

これだけで硬くなった筋肉がほぐれて、ホニャホニャになります。

あと、こいつを枕元に置いておけば、朝起きれないときにこれを背中と敷布団の間に挟めば、「痛い! 痛い! 起きる! 起きます!」ってこともできます。

痛いということは、それだけ筋肉が凝り固まってるということ。どうやら寝てるだけでもそれなりに筋肉が固まってしまうようです。だから朝がだるいのか。

80㎏まで耐えられるので、僕が全力で踏んづけなければ大丈夫。

いま、さらに5000円の「超電動ブルブルボール」、と僕が勝手に呼んでるやつを買おうかどうかを考えています。イボイボと電力、二つの力を使いこなせれば、さらなるホニャホニャの境地に達することができるんじゃないか、と。

あと、イボイボは加減を間違えるとかえって体を痛めるし。

理想は、疲れを残さず、翌日も元気に動き回ること。

今のところ、イボイボのおかげで翌日に疲れが残らなくなりましたとさ。

これは発明だ!

引き続きですね、大人数の飲み会には参加したくない、っていう話です。

思えば、そもそも居酒屋の机自体が、20人、30人という大所帯の飲み会に向いてないんじゃないですかね。

どこのお店に行っても、お客さんが大所帯となると、机をくっつけて、テトリスの長~い棒みたいな形にしてます。

これだと、何十人で来ようが結局、隣と正面とはす向かいの5人ぐらいしか会話できません。遠く離れた席で会話が盛り上がってても、聞こえやしない。だったら最初から四、五人で来るのとそんなに変わらないじゃないか。

そういえばあのダ・ヴィンチの「最後の晩餐」に描かれているのも、長~い机でした(しかもなぜか、全員が同じ方を向いている)。これだと端っこの人は、イエス・キリストの話が聞けていなかったかもしれません。

イエス「この中に裏切り者がいる……」

弟子「え、なになに? よく聞こえない」

絵をよく見てみると、一番左端の弟子はイエスの方に向けて身を乗り出しています。やっぱりよく聞こえてないじゃないか。

右端の3人は話に夢中でイエスの方を見ていません。やっぱり聞こえてないじゃないか。

なにが「最後の晩餐」。これじゃまるで「よくある飲み会」です。最後の晩餐なんだから、もっと配慮した机を用意してあげてよ……。

そういや、イエスはもともと大工じゃないか。だったら、その場で机をのこぎりで半分に切るとかさ、色々と工夫が……。

なんの話だっけ?

やっぱり、細長い机っていうのがよくない。

特に、僕は左利きなので、僕の左側に右利きの人が来ると、高い確率で食事の時に肘がぶつかっちゃう。

つまり、細長~いテーブルの場合、僕が座れる席は列の一番左端の二か所しかないんです。

だからいつも、しゃべれる相手は、正面、横、はす向かいの4人だけ。

どーりで大人数の飲み会が楽しくないわけだ。

そう考えると、中華料理屋の丸テーブル、あれこそ、大勢で食事する時にうってつけの机なんじゃないのか?

細長いテーブルだと、テーブルをどう並べようが「一番遠い人」はめちゃくちゃ遠くなります。

でも、丸テーブルなら「一番遠い人」はなんと真正面に来る!

これは、発明だ!

しかも、中華の丸テーブルなら真ん中が料理を乗せてぐるぐる回るから、後輩が料理を取り分けるみたいな気づかいもいらない!

これは、発明だ!

そうなんですよ。「円」という図形は、数学的には「中心から同じ距離の場所を線で引いたら浮かび上がる図形」なので、丸テーブルの真ん中に料理を置けば、全員から等しく同じ距離になるのです。

これは発明だ!

そのうえ、丸テーブルに左端なんてない!

これは発明だ!

よし、特許をとろう!