埼玉・入間の住宅街にアメリカの町が!~ジョンソンタウンの旅~

埼玉県入間市に「ジョンソンタウン」という町がある。かつてアメリカ軍基地があったこの場所には、今でもアメリカ風の建物が残っていて、雑貨屋やカフェなど、おしゃれな店が立ち並んでいる。そんな埼玉のアメリカ、ジョンソンタウンに行ってみた。とんでもない誤解をしていたとも知らずに……。


きっかけはHOSONO HOUSE

おしゃれな店は、全部東京にある。

本を読んでいても、テレビを見ていても、ちょっと行ってみたいと思った店は、全部東京。

埼玉はすぐ隣なのに、みんな馬鹿の一つ覚えのように、東京に店を構える。

「住みたいまちナンバーワン」として知られる吉祥寺にみんなが住みたがる理由が、「都心に近いけど自然もあるから」と聞いて、以前マツコ・デラックスが「埼玉とどう違うんだ!」と吠えていたが、全くその通りだと思う。

そんな中、埼玉に「ジョンソンタウン」というおしゃれな町があることを知った。

ジョンソンタウンのことを知ったのは、『ドロップアウトのえらいひと』を読んでいた時のこと。

誰の項目を読んでいたのか忘れたが、こんな文章があった。

その昔、狭山には「アメリカ村」と呼ばれるアメリカンな町があった。その町は、返還された米軍基地跡地にあった、米軍の兵士が家族と暮らした家々を使っているらしい。

基地の名前は「ジョンソン基地」。

そしてそこには「Y.M.O」や「はっぴぃえんど」で有名な細野晴臣をはじめ、多くのミュージシャンが集まって暮らしていたという。

そんなアメリカ村の、細野晴臣の家で録音されたアルバムが「HOSONO HOUSE」という音源なのだとか。

つまり、ボヘミアンが集まる街が、埼玉にあったというのだ。

しかも、場所が狭山。狭山という場所は「となりのトトロ」のモデルにもなった場所で、要は田舎だ。

僕はトトロの森の中に忽然と現れたアメリカチックな町を想像した。

調べてみると、狭山に隣接する入間市に「ジョンソンタウン」という町があり、そこは今でも当時の雰囲気を残しているのだとか。

というわけで、ジョンソンタウンに行ってみた。

埼玉のアメリカ村、ジョンソンタウンの旅

西武池袋線に乗って入間市駅を目指す。所沢から電車で15分。少しずつ、少しずつ畑が増えていき、やがて冬の森の中を電車は疾走する。

そこを抜けると入間市だ。駅は結構大きく、ちょっとした駅ビルもある。

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入間市は以前ピースボートのポスター貼りで訪れていたのでだいたいわかる。駅前にはお店が多く、大きなショッピングビルもある。道路も整備されているという印象だ。

団地の中を突っ切って真っ直ぐ南へ

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入間市役所を抜けてそのまんま東へ

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すると、大通り沿いにジョンソンタウンが現れた。

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中にはおしゃれな雑貨屋がいっぱい。こちらのお店はアメリカンな雑貨が所狭しと並んでいた。

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こちらのお店は雑貨屋とカフェをやっている。なんだか、海外の寄港地を巡っているかのような雰囲気だ。

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町の広さはちょっとしたショッピングモールくらい。ジョンソンタウンのお店のほとんどが雑貨、カフェ、洋服屋などの原宿にも負けないくらいのおしゃれなお店なのだけれども、中には整骨院や歯医者、不動産屋、ダンススタジオなどもあり、この街はテーマパークではなく、れっきとした町なんだということを思わされる。現に、この町に住んでいる人もいるのだ。

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クロアチアの旧市街地に行った時を思い出した。あの町もとても美しい城塞都市で、テーマパークのようだったが、路地へ入ると家からパラボラアンテナが伸びていたり洗濯物がつるしてあったり、れっきとした町であることを思い知らされた。

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いくつかのお店を巡っていると、面白い店を見つけた。

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中では、独特なバッジやポストカードなどを売っていた。ふと、二階を見上げると、若い男性が壁に青いペンキを塗っている。

なにこれ? 改装中? それとも、アート?

などと思っていると、別の店員さんが声をかけてきた。

この店は、ここで働く二人を含め、いろんなアーティストさんの作品を販売しているらしい。ただ販売しているだけでなく、それぞれのアーティストを紹介するような形になっている。

アメコミみたいな絵の雑貨や、ソフトなタッチなんだけどなかなかインパクトのあるのポストカード。もこもこしたペンケース、などなど。

後で調べてみると、メインは服屋さんだったみたい。

ANANSE TONTAN

せっかくなので、ノートを購入。

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作ったのはイマイサトミというアーティストらしい。

東京ではなく埼玉にボヘミアンな町はは確かにあったのだ。

このジョンソンタウン、立地もなかなか面白い。

道路から入って反対側に抜けると、広い公園である。

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さらに、その周囲も普通の住宅街である。

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面白いのが、ジョンソンタウンには明確な境界線がないのだ。普通の住宅街を歩いていたら、突如アメリカンな街並みがあらわれた、そんな感覚。

さらに、アメリカンな町の中にふつうのおうちが紛れ込んだりもしている。

これが何の写真か、おわかりいただけるだろうか。

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ジョンソンタウンに紛れ込んだ小料理屋を撮った写真である。

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隣はもう、アメリカンな建物である。

休日なのもあってか、昼間のジョンソンタウンは多くの人でごった返していた。しかし、夜になったらここはどうなるんだろうか。公園もあるし、案外静かなのかもしれない。

さて、細野晴臣たちはこのジョンソンタウンから1kmほど離れた稲荷山公園で10年ほど前に音楽フェスを開いていた。僕も稲荷山公園に向かって歩き出した。

ジョンソンタウンの向かいにあるこの公園も、米軍基地の跡地を使って作られた。多くの人でにぎわっている。

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基地の町に栄えたミュージシャンの村。そう考えると、J-POPはつくづく米軍基地とは切り離せない関係なのだから不思議だ。

J-POPの担い手となったミュージシャンたちは、戦後間もなく、進駐軍のクラブでアメリカ人兵士たちのためにジャズを演奏していた。この時学んだジャズの要素が日本の音楽に変化をもたらし、今日のJ-POPに発展していったと言われている。

また、この時、ミュージシャンを集めて進駐軍のクラブに送る仕事をしていた人たちが、後の芸能プロダクションである。

その辺の歴史は、荻原聖人やオダギリジョーなどが出演している2004年の映画「この世の外へ クラブ進駐軍」で詳しく書かれている。5人のジャズバンドマンの物語だが、ほとんど楽器が弾けないのに、食うために「ドラム経験がある」とウソついてバンドに入ったメンバーがいたり、家族が共産主義者で警察に睨まれているメンバーがいたり、ヒロポン中毒に陥ったメンバーがいたりと、当時の世相がよくわかる。

公園を抜けると自衛隊の入間基地。基地沿いに歩いていると、敷地内に古い戦闘機が止まっているのが見える。たぶん、展示用だろう。

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入間川方面。奥に見えるのは秩父の山々だろうか。

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稲荷山公園。名前の通り小高い山の上にあり、周囲は森に囲まれている。

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稲荷山公園駅から帰路についた。

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とんでもない誤解をしていた……

さて、こうしてジョンソンタウンを訪れ、HOSONO HOUSEの雰囲気に浸ってきたのだが、

どうやら僕が味わったのは、本当に「当時の雰囲気」だけだったらしい。

実は、この記事を書くに当たり最後の調査を行ったところ、とんでもない誤解をしていたことが分かったのだ。

ズバリ、細野晴臣はジョンソンタウンには住んでいない!

彼らが住んでいた「狭山のアメリカ村」は、確かにジョンソン基地跡地ではあるのだが、入間市の「ジョンソンタウン」ではなかったのだ!

どうやら、かつての狭山・入間地方にはジョンソンタウンのような街がほかにもあったらしい。

どおりでジョンソンタウンは入間市なのに、「HOSONO HOUSEは細野晴臣が狭山のアメリカ村に住んでいたころ……」という書き方をされていると思った。

雰囲気はジョンソンタウンと一緒だということで間違いないと思う。当時の「雰囲気」を知りたければ、ジョンソンタウンへ行くべきだろう。

だが、HOSONO HOUSEはココではなかった。

では、一体どこにあったのかというと……。

どうやら、稲荷山公園駅の近くだったらしい。

つまり、

こことか、

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こことか、

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この近くだったのである!

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……もっと時間をかけて探索すればよかった。

これは、また行かねばならないようだ。今度は稲荷山公園駅を中心に……。

細野晴臣の足跡 狭山アメリカ村の旅・完結(はっぴいえんど)編

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投稿者: ノック

民俗学ZINE作家。 「バズらないモノづくり」をテーマとする「ノンバズル企画」を主宰。民俗学専門ZINE「民俗学は好きですか?」を企画・執筆・製本・販売しています。「民俗学とは『生きること』を探求する学問」をテーマに、民俗学の魅力をわかりやすく、面白く、奥深く紹介していきます。