見学も可能!ピースボートのオーシャンドリーム号の船内はこんな感じ

今回はピースボートの船、オーシャンドリーム号の船内について書こう。108日をこの船内で暮らした僕にとってはもはや家であるこの船は、定期的に見学会も行われている。ただ、ピースボートの見学に行ってもなかなかオーシャンドリーム号の全容把握しづらい。だって、デカいもん。この記事を読めば、見学会での理解が深まる……はず。


ピースボートの船は時代によって変わる

ネットを見ているとピースボートの船はひどい、という記事を見ることがある。

これについては、残念ながら、事実だった。

「事実だった」という言い方をするのは、「過去にはひどい船もあった」のは事実だからだ。何でも、船体に穴が開いたらしい。

ピースボートは自分で船を持っているわけではなく(そんなお金はないはず)、船会社から船を借りている。オーシャンドリーム号は2012年からチャーターしている船だ。

僕はオーシャンドリーム号に不満はないし、オーシャンドリーム号になってから船に対する悪評は聞いたことがない。

ちなみに、ピースボートが船を持っているわけではないと書いたが、最近になって「エコシップ」なるオリジナルの船を建造し始めたらしい。オーシャンドリーム号よりも大きく、2020年の就航を目指しているのだとか。就航後はオーシャンドリーム号と並行して海を走るそうだ。

オーシャンドリーム号の概要

「地球一周の船旅」と言われると、豪華客船の旅を想像しがちかもしれない。

そんな想像を抱いてオーシャンドリーム号に乗ると、ずいぶんとがっかりしてしまうらしい。

だから、先に言っておこう。オーシャンドリーム号は豪華客船ではない。海の上の合宿所、よくて海の上のビジネスホテルである。

だから、安いのである。

オーシャンドリーム号はパナマ船籍だ。法律上の問題で、日本船籍にすると手続きがいろいろめんどくさいからパナマ船籍にしている、ということを聞いたことがある。

総重量は35000t。地球一周できる船はある重さ以上ないといけない、と国際法で決まっているらしい。

速度は大体17ノットくらい。時速にすると約30km。何と、車の方が早い。どうりでゆっくり離岸していくと思った。

以前聞いた話では、船が1日かけて進む距離と飛行機が1時間で進む距離は同じらしい。飛行機って速いね。

屋上を含めて11階建て。ただし、乗客が立ち入れるのは4階から上である。

オーシャンドリーム号の船内 4階

4階には「リージェンシー」という大きなレストランがある。ホテルの高級レストランを想像してもらえるとわかるだろうか。

朝は和食が食べられ、昼はチャーハンなどが食べられる。ちなみにどちらも食べ放題。

夜はシェフが腕によりをかけた料理が食べられる。

船内の食事について詳しくはこちらへ!

毎日がタダで食べ放題? ピースボート船内の食事は実はこんな感じ

オーシャンドリーム号の船内 5階

5階はレセプションがある。寄港地でのツアーの追加やキャンセルはここで行う。また、酔い止めをもらったり落とし物が届いていたり(僕はなくしたパソコンが届けられていたことがある)もらったり、とにかくお世話になりっぱなしの場所だ。

オーシャンドリーム号の船内 6階

6階はオーシャンドリーム号のいわば商店街みたいなものだ。売店と美容院がある。

売店ではお菓子から日用雑貨、文房具、星座版といろんなものが揃っている。

美容院は予約制で、確か3000円だったと思う。

僕は美容院が予約でパンパンだったので、ベリーズシティの路上編みこみ屋さんみたいなところで切ってもらった。僕史上最も短い髪型になって、会う人会う人に驚かれた。

オーシャンドリーム号の船内 7階

7階前方にあるのは「ブロードウェイ」というイベントスペースである。ステージがあり、400人規模の客席がある。航路説明会や水先案内人の講演のほか、かくし芸大会、M-1グランプリ、のど自慢、紅白歌合戦、ダンス大会、新喜劇、ミュージカルと大規模なイベントが行われる。

ちなみに、僕はこのステージでかくし芸とカラオケとラップのライブを行ったことがある。照明の具合にもよるが、後ろの客席は意外と見えないので緊張せずに済む。

オーシャンドリーム号の船内 8階

4階から7階までは実はほとんどを客室が占めている。

だが、8階に客室はなく、そのすべてがオープンスペースだ。

まず、前方から。「スターライト」と呼ばれるイベントスペースがある。規模は200人ほど。バンドのライブをはじめ、割と軽めだけど、集客が見込める企画が行われる。

僕はこのステージでもラップをしたことがある。スターライトのステージは丸く、周囲270度ほどを客席に囲まれていて、客席との距離も近く、顔もよく見える。

8階中央を締めているおはフリースペースだ。ソファが置かれていたり、畳が敷かれていたりして、みんな、特に若者がまったりしている。ここでも企画が行われ、よくモノポリーを畳の上でやって遊んだ。

フリースペースの両脇は「プロムナード」と呼ばれる廊下だ。大きな窓があり、外の様子がよく見える。何か作業をするときは、海を見ながらというのが優雅なスタイルだ。

このプロムナードにはパソコンが置かれていて、インターネットができる。ただし、有料で時間制限があり、そのうえ、海の上はつながりにくい。

ネット環境について詳しくはこちらへ。

ピースボート乗船で初めて知った、海の上のアナログすぎる生活体験

8階の後ろの方はピアノの演奏を聞きながらお酒が楽しめる「ピアノ・バー」、お酒とカラオケが楽しめる「クラブ・バイーア」がある。それについてより詳しくはこちらへ。

毎日がタダで食べ放題? ピースボート船内の食事は実はこんな感じ

さて、8階の一番後方は屋外、オープンデッキだ。バーベキュー大会やアコースティックライブといったイベントが行われる。

プールやジャクジーもある。僕はよく、出港式でジャクジーで足湯をしていた。

ちなみに、ここで初めて知ったのだが、正しくは「ジャグジー」ではなく、「ジャクジー」である。

オーシャンドリーム号の船内 9階

9階中央はオープンデッキだ。「リド」と呼ばれるレストランがあり、朝は洋食が食べられ、昼は麺類、夜は丼物が食べ放題だ。

また、このスペースでは夏祭りや大動会も行われる。

リドの後ろには「パノラマ」というレストランがある。パノラマは屋内と屋外、二つの席がある。朝も昼も洋食系だ。

夜は「なみへい」という居酒屋になり、いつも賑わっている。合言葉は「船に終電はない」。

レストランについて詳しくはこちらへ。

毎日がタダで食べ放題? ピースボート船内の食事は実はこんな感じ

オーシャンドリーム号の船内 10階

10階はそのほとんどがオープンスペースだ。防球ネットがあって、ちょっと狭いけどサッカーやバスケができる。

また、スポーツジムもある。こちらもちょっと狭いけど。また、サウナもある。

10階にも客室があるが、10階の客してゃほかの会よりも豪華だ、と言われている。

オーシャンドリーム号の船内 11階

11階に屋根はない。要は屋上である。

あるのはジャクジーだけ。

ちなみに、夜は立ち入り禁止だ。勝手に入ると警備の人に怒られる。

怒られた本人が言っているのだから、間違いない。

オーシャンドリーム号の見学会

オーシャンドリーム号は年内に3回ほど見学会を行っている。地球一周の旅から帰り、次の旅までの間。年によってばらつきはあるが、だいたい春と夏と冬だ。横浜だけで行われる時もあれば、全国を回る時もある。

興味を持った方は是非見学会に行ってみるといい。実際に船を見ながら「ここで暮らすのか」と考えるとテンションが上がる。

ちなみに、あなたが見学会に行くことで、僕へのキャッシュバックは

……まったくない。

小説 あしたてんきになぁれ 第11話「惚気の長雨、口下手の夕暮れ」

「明日なんかどうでもいい」と援助交際で生活する少女、亜美。「明日が怖かった」と覚醒剤に手を出し、厚生施設に通い始めた少女、志保。「明日なんかいらない」と自殺未遂を繰り返す少女、たまき。3人は歓楽街のつぶれたキャバクラを不法占拠しながら暮らしている。今回は3人が出会って2か月がたったころのお話。

「あしなれ」第11話、スタート!


第10話「真夏日の犬と猫とフンコロガシ」

「あしたてんきになぁれ」によく出てくる人たち


写真はイメージです

長月の長雨はなかなかやまない。

雨の中わざわざ「城(キャッスル)」にやってきた舞は、「迷惑だ」と言いながらも笑いながらたまきの右手首に包帯を巻き始めた。

「ごめんなさい」

というたまきの伏し目がちな謝罪に対して舞は、

「お前が遠慮してあたしを呼ばずに自分で処置して、傷口を化膿させる方がもっと迷惑だから、切ったら必ずあたしを呼べ」

と、笑いながら返す。

「おどろいたよ~。トイレ開けたら、たまきちゃんの手首から血が流れててさ、たまきちゃんがそれ、じっと見てるんだもん」

志保はそういうとソファに深く沈み込み、本を読み始めた。お菓子の作り方に特化した本だ。

「いつぶりだっけ、リスカするの」

舞が、包帯がほどけないようにたまきの手首にしっかりと固定しながら尋ねた。

「……八月の半ばです」

「その前は?」

「……七月の終わりごろ……」

「お前が勝手に一人で処置したやつな。やっぱり、二週間に一回くらいか」

たまきは無言でうなづいた。二週間に一回、無性に死にたくなる時がある。別になにか嫌なことが二週間ごとにやってくるわけではなく、普段の生活の中でため込んだ毒素が限界になるのが、二週間という期間なのだとたまきは解釈している。

「志保、お前はどれくらい経つ?」

急に話を振られて、志保が驚いたような顔をして舞の方を見た。

「え? な、なんの話ですか?」

「クスリやめてからどのくらい経つかって聞いてるんだ」

「……一か月ちょっとですね。自己ベスト更新中です」

「……ほんとに使ってないんだろうな」

その言葉に、志保はさみしそうに下を向いた。

「……あたしのこと、信じてないんですか」

「人としては信じてるし、信じたい」

舞はたまきから手を放し、志保の方に向き合って、言葉をつづけた。

「だが、医者としては信じていない。残念ながらな」

「……ですよね」

志保は視線をとしたまま、左手で右の腕をさすった。

そこに、

「とう!」

という掛け声とともに、亜美が勢いよくドアを開けて帰ってきた。

「たっだいま~! あれ、先生、来てるんだ。さてはたまき、また切ったな?」

たまきが申し訳なさそうにうなづく。

「亜美、お前どこ行ってたんだ?」

「え? 隣町の理髪店」

亜美の答えにたまきは首をかしげたが、舞は

「理髪店? お前もそんなとこ行くんだな、つーか、そんな言葉知ってるんだな」

と言いながら、救急セットをカバンの中にしまった。

「志保~、晩飯は?」

「先生がせっかく来たから、一緒に外で食べないかって」

「マジで? おごり?」

亜美が目を輝かす。一方、たまきは憂鬱そうに体育座りをしている。極力外に出たくないのだ。

「あたしのおごりだ」

勝ち誇るような笑みの舞に向かって亜美は、

「ゴチになります!」

と、勢い良く頭を下げた。

 

写真はイメージです

東京の街並みは遠くから見るとまるでお城みたいだ、と言ったのはいったい誰だっただろうか。城郭のような高層ビルと城壁のような雑居ビルの群れの中に、中庭のように歓楽街が広がっている。

その中の太田ビルというビルの5階にある「城」という潰れたキャバクラに亜美、志保、たまきの三人は住み着いている。不法占拠というやつだ。

一階からコンビニ、ラーメン屋、雀荘、ビデオ屋、そして「城」と積みあがっている。上に行くごとにいかがわしさが増し、3階の雀荘にはガラの悪い人たちが出入りしている。4階のビデオ屋にいたっては、店長が金髪のパンチパーマにサングラスという強面だ。

そんなわけで、まともな人間ならば5階まで昇ろうなどとは思わない。5階まで、ましてや屋上に上る人など、よほど宿に困っているか、お金に困っているか、何が困っているかもわからず死のうとしている人くらいだ。

しとしとと続く雨音の中、コンクリート製の階段を下りて、4人が階下のラーメン屋へと向かう。一列に並ぶ姿は、なんだか某ファンタジーゲームみたいだ。

「へいらっしゃーい!」

自動ドアをくぐると、野菜を炒める音を暖簾のようにくぐった野太い声と甲高い声の大合唱。店内は凸の字型にカウンター席が伸び、奥にはテーブル席が三つほど。夕飯時だが、それほど混んでない。

4人は入口で食券を買うと、カウンターに座った。亜美、志保、そして舞は食券をカウンターの一段高くなったところに置き、それを見てたまきはそっと食券を同じところに置いた。

「いらっしゃい」

カウンターの向こうから顔を出し、ニッと笑顔を見せたミチに最初に気付いたのは亜美だった。

「は?」

続いて志保が

「あれ?」

舞が

「ん?」

最後にたまきが

「あ」

と声を上げた。

「何やってんだお前、こんなところで」

舞の問いかけにミチは笑顔で

「バイトっす」と返す。

そういえば、バイト始まったって言ってたし、飲食店っぽいことも言ってたなぁ、とたまきはぼんやりと考えた。

「なんでこのビルなんだよ」

亜美が半ばあきれたように質問した。

「いや、先輩がこの上のビデオ屋で働いてて、よくこの店連れてってもらってたんすよ。そしたらバイト募集って書いてあっから、応募してみたらすんなり通っちゃって」

ミチがにやにや笑いながら答えた。

たまきは背筋がぞわぞわするのを感じた。自分の生活圏に苦手な男子が入ってくると、なんだか背中がぞわぞわしてたまらない。

ミチはたまきの方に近づくと、

「びっくりした?」

と聞いてきた。たまきは、

「……あんまり」

と返す。

「っていうかたまきちゃん、ミニチャーハンでいいの!?」

とたまきの食券を見てミチがびっくりしたような声を出した。たまきは無言でこくりとうなづいた。

「ハイ、とんこつ醤油、とんこつ醤油大、レバニラ炒め、ミニチャーハン、ギョウザ一丁!」

厨房の奥からほーいと野太い声が聞こえ、ミチも厨房の奥へと向かっていた。あとに残るはなにかを炒める音ばかり。

たまきがぼうっとしていると、亜美が隣のたまきを肘で突っつく。

「あれじゃね? ミチ、お前のことおっかけてここでバイトしてるんじゃないの? あいつ、地味な女が好みだって言ってたぜ?」

にやける亜美の言葉を、たまきはかぶりを振って否定した。

「ないです。ミチ君、バイト先に好きな人いるって言ってました」

そういってからたまきは気づいた。バイト先って、ここじゃないか。

じゃあ、ここにいるのかなと思ったの同時に、たまきの背後からするりと手が伸びてきた。

「お待たせいたしました。ミニチャーハンととんこつ醤油大です」

女性の声に、たまきは声のした方を見る。

二十歳ぐらいだろうか。茶色く柔らかそうな髪を後ろでまとめている。かわいらしい顔立ちはいかにもモテそうだ。

「みっくん」

女性が声をかけると、ミチが厨房の奥から顔を出した。

「休憩入っていいよ」

「はい」

ミチがこれまで見せたこともないくらい顔をほころばせているのがたまきの目に映った。

 

四人が店を出ると、廊下の角でたばこを吸っていたミチが、あわててタバコを傍らのバケツに放り込んだ。灰交じりの黒い水の中にタバコがひとひらポトリと落ちる。ミチは舞の顔を見て、ばつの悪そうに笑った。

「ん~、べつに未成年だからって止めやしないぞ、ミチ。お前の寿命が減るだけだからな」

舞が皮肉めいた笑顔を見せる。

「ねえねえ、ところでさぁ」

と志保が妙ににやにやしながらミチの方に近づいた。

「ミチ君が好きな女の人って、さっきの店員さん?」

「ちょ! 誰から聞いたんすか!」

志保がクルリとたまきの方を振り向き、たまきが申し訳なさそうに下を向く。

「なかなかかわいい人じゃん」

「まあ、お前には高嶺の花だな」

意地悪そうに笑う舞に対し、ミチは

「実はですねぇ……」

と含み笑いで切り出した。

「え? まさか、もう付き合ってるとか?」

「なに? ヤッたの?」

亜美まで身を乗り出してくる。

「いや、そういうわけではないんすけど……」

ミチのその回答に亜美は

「なんだ」

とつまらなそうに背負向けたが、志保は

「なになに? そういうわけではないってどういう関係?」

と目を輝かせてミチに迫る。

「……2回くらいデートしてるっていうか……、今週末も約束してるっていうか……、キスしたっていうか……」

「え―!! なにそれ! つきあってんじゃん!」

志保が、雨粒がはじけ飛ぶんじゃないかというほどの大声を出す。

「いや、ちゃんと、付き合ってくださいとか言ったわけではないんすけど……」

「いやいや、つきあってんじゃん、それ!」

「……やっぱそうなんすかね」

「ガキっぽい顔しといて、やることやってんな」

舞が感心したように言う。

「えー、カノジョ、名前なんて言うの? 学生?」

「海乃(うみの)さんって言います。二十歳の専門学校生っす」

「二十歳? 年上じゃん! 年上カノジョじゃん!」

「ええ、まあ……」

ミチは困ったように笑っているが、本当に困っているわけではないようだ。店の白い外壁に、ミチの薄い影が儚く揺れる。

「えー! よかったじゃん! おめでとう!」

「あ、ありがとうッす。あ、デートの写真見ます?」

「えー! みたいみたい!」

「おっ、カノジョ、なかなかかわいいじゃん」

「先生もそう思うッすか?」

そんなやり取りを見ていたたまきだったが、盛り上がる輪の横をすり抜けると、階段を上っていった。

なんで志保がミチにカノジョができたという話を、あんなに喜べるのかがよくわからない。

ああいう他人の幸せを素直に祝福できる人っていうのは、余裕がある人なんだろう。今現在、志保にカレシはいないはずだが、たぶん、志保はその気になればカレシを作れるのだと思う。その余裕があるから、あんなに素直に他人の祝福が祝えるのだ。

なんだかんだ言って、志保はあっち側の人間なんだと思うと、階段の蛍光灯の灯りよりも、外の暗さの方がより一層強く、ミチや志保の弾んだ声よりも長雨の雨音の方がより一層大きく感じられた。

誰が誰と付き合うとか、たまきには関係ないし、どうでもいい話だ。

 

写真はイメージです

「城」のドアに手を書けてガチャリとドアを開ける。右手首の新しい傷がねじれて、また痛む。

鍵は亜美が持っていたはずだから、亜美は先に戻っているらしい。

「城」の中は明かりがついていて、亜美が冷蔵庫の中からビールを出して飲んでいる。亜美の「客」が手土産に持ってくるのだ。

「・・・・・・ただいまです」

たまきは力なくそう言うと、亜美から少し離れたソファに腰を下ろした。

「下、まだ騒いでんの?」

「はい」

二人は特に目を合わせることなく会話をしている。

「よく盛り上がれるよな、志保のやつ。他人のコイバナでさ」

「……亜美さんって、私のことはあれこれずかずか聞いてくるくせに、ミチ君のカノジョさんの話は、興味ないんですね」

「え? だって、あれくらいの男子が付き合うって、フツーじゃん。興味ないし。ヤッたってんなら、また別だけど」

私にとってはその「ふつう」がどれほど手を伸ばそうとも届かないものなのに……。

たまきは下を向きながら考え、ふと気づいた。

そうか。私は普通じゃないから、亜美さんは面白がって私のことをずかずかと聞いてくるんだ。

私が普通じゃないから……。

「何やってた? 下」

「……なんか、ミチ君のデートの写真見てました」

「ナニソレ?」

亜美が半ばあきれたように笑う。

「ヒトのノロケ写真見て何が楽しいの?」

「・・・・・・さあ。『幸せのおすそ分け』じゃないですか?」

「ナニソレ?」

亜美がいよいよあきれ返ったような顔をする。

「そーいや、中学のダチでウザい奴いたなぁ」

エアコンの音がせせらぎのように静かに流れる。その音を背景に亜美は話し出す。

「カレシの話ばっかする奴がいてさ、それこそ、『幸せのおすそ分け』つって。『カレシさえいればもう、何もいらない!』とかほざくんよ」

部屋の中をエアコンの音がノイジーに流れる。

「だからウチ、そいつに『なんもいらないんだったら、財布の中身全部よこせ』つったらよ、そいつ固まって、なんか言いわけ始めてやんの」

「……カツアゲじゃないですか」

今度はたまきが呆れたような顔をする番だった。

「はぁ? 先に『なんもいらない』っつったの、向こうだぞ? いらないんだったらウチが欲しいからよこせっつっただけだぜ?」

亜美はテーブルの上に足を投げ出しながら、半笑いで語気を強める。

「な~にが幸せのすそわけだよ。『すそ』ってズボンの余ったところだろ? すそなんかいらねぇんだよ。現ナマよこせっつーの」

亜美は缶ビールをあおる。

「結局、だれも幸せなんて、他人にはビタ一文渡す気なんてねぇんだよ」

空っぽになったアルミ缶をべこっと潰すと、亜美はテーブルの上に置いた。ふと、そこに置かれたチラシに目が行く。

「……なにこれ」

そこには「東京大収穫祭」と書かれていた。

「なんか、志保さんがそこでクレープ屋やるみたいです」

「クレープ屋? なんで?」

「施設の人たちと一緒にやるそうですよ」

「へ~」

亜美は興味深そうにチラシを眺めている。

「お、ライブステージとかあるじゃん。面白そ~」

「ミチ君のバンドも出るみたいですよ」

「なんだよ。みんな出るじゃん。ウチらもなんかやろうか」

「……何やるんですか」

たまきがソファの上で体育座りをしながら尋ねた。

「お笑いオンステージってのあるぞ。二人でコンビ組んで出ようぜ」

「……嫌です」

「……ツッコミ弱ぇなぁ」

 

写真はイメージです

「あ~、むずかしい~」

トクラがおたまを片手に苛立ちを見せる。

教会の中の小さなキッチンで、志保は数人の人たちとともに、クレープを作る練習をしていた。リーダーのトクラがホットプレートの上のとろりとした生地をおたまで広げるが、なかなかきれいな円形にならない。おまけに、生地の厚さにどうしてもムラができてしまう。

「クレープ屋とか、どうやってるんだろ?」

トクラが長い黒髪をかき分けながらつぶやく。

「なんか、ヘラ使ってるみたいですよ?」

トクラのつぶやきに志保が答える。

「ヘラ?」

「なんか、竹とんぼみたいなの」

「竹とんぼ?」

トクラがホットプレートを覗き込みながら首をかしげた。

「あ~、イライラする」

ホットプレートの上には、いびつなクレープのなりそこないが置かれたまま、キツネ色の焦げ目を作っていた。

 

「トクラさんって、美人だよね~」

二十歳ぐらいの女の子がつぶやく。確か、彼女はギャンブル依存症だと言っていた。

噂のトクラ本人は、トイレに行っている。

すると、中年のおじさんが口を開いた。

「トクラさんのお母さんは女優さんだって聞いたことあるよ」

「女優さん? 誰ですか?」

志保が訪ねた。「トクラ」なんて女優、聞いたことない。

「あくまでもそういう噂。お母さんっていうのも、大物女優らしいけど、普段は芸名で活動しているらしいよ」

「ふ~ん」

「にしても、トクラさん、遅いなぁ。もう一回練習したいのに」

おじさんがトイレの方をちらりと見る。水の流れる音がして、トイレからトクラが出てきた。

「よーし! もう一回、練習やろうよ!」

「トクラさん、みんなと話してたんですけど、専用の道具を買ってきた方がいいのかなってなって、あたし、帰りにちょっとデパート行ってみようかなって……」

志保の申し出をトクラは大声で遮った。

「だいじょーぶだいじょーぶ! ねー、生地、どこどこ?」

「生地はそこにあまりが……」

志保が言い終わらないうちに、トクラは生地の入ったボウルを手に取ると、泡だて器を突っ込み、勢いよくかき回しだした。

「ああ、もうかき回さなくていいんですよ! あまり、空気は入れない方が……」

志保の言葉も無視して、楽しそうにトクラは生地を泡立てる。

 

写真はイメージです

駅までは歩いて5分くらいのところにある。施設のある教会を出た志保は、駅へと向かう道の途中、ふと、視線を感じた。

振り返ると、トクラが歩いているのが見えた。トクラも志保を見つけると、にっこりとほほ笑む。

志保は少し歩くスピードを落とした。トクラも少し歩みを速めたらしく、すぐに志保の横に並んだ。

トクラの年は三十歳前後だろうか。並び立つと、決して小柄ではない志保よりもトクラのほうが背が高い。モデルのような顔立ちで、「女優の娘」とうわさされるのも納得ができる。少なくとも、それなりの風格があるのだ。

だが、その眼にはどこかゾッとさせるものもあった。

彼女は危険ドラッグの常習者だとどこかで耳にしたことがある。……自分もあんな目をしているのだろうか。

「カンザキさんも通いなんだ」

「あ、はい」

「電車? バス?」

「電車です。4駅先の……」

志保は繁華街のある駅の名を口にした。

「へぇ。あそこ住んでるんだ。すごいとこ住んでるね」

「い、いや、それほどでも……」

家賃を払っていないものだから、何とも言えない。

「トクラさんはどこの駅ですか?」

「私はバス」

「近いんですか?」

「まぁね」

志保もはっきりと数字を覚えているわけではないが、このあたりの家賃は高そうなイメージがある。「トクラは女優の娘」という噂の信憑性がまた一つ増した。

駅へと続く大通りはバスがけたたましく地面を揺らして走るが、人通りはあまりない。志保は、トクラの目を見ることなく、ぽつりと言った。

「……トイレの中で何してたんですか?」

「……聞くんだ」

志保はトクラの顔を見ていたわけではないが、声の感じから、トクラが笑っているのはわかった。

アスファルトに二人の影がくっきりと映される。そこだけ、光も熱も拒絶しているかのようだ。

「……トクラさんは、何のために通ってるんですか?」

「真面目だねぇ、カンザキさん」

トクラが歩みを止めたのを察し、志保も足を止める。トクラの方を向くと、相手も視線を落とし、志保の目を覗き込んでいた。

「その真面目さに首を絞められないようにね。じゃ、また」

そういうと、トクラは踵を返して、軽い足取りでバス停へと向かっていた。

 

携帯電話全盛の世の中となったが、駅前やコンビニの前、公園など、公衆電話を探そうと目を凝らせばまだまだ見つかる。

歓楽街のコンビニの前にある公衆電話に、たまきは十円玉を入れた。受話器を耳に当てながら自宅の番号を押すと、パ、ポ、ポ、と音が鳴る。

全部で十個のボタンを押すと、受話器からプルルルルと呼び出し音が流れる。

たまきは電話が大嫌いだ。自分からかけるのも、かかってくるのも大嫌いだ。

呼び出し音が途切れた。誰かの息遣いが聞こえた途端に、たまきは受話器を叩きつけるように戻すと、都立公園に向けて足早に歩きだした。

 

写真はイメージです

「東京大収穫祭」。その言葉を見聞きするのはいったい何度目だろう。

たまきは都立公園の木立の下の掲示板に貼られたチラシを見ていた。

「東京大収穫祭」と書かれたチラシは、志保が「城」に持ってきたものと同じものだった。

そういえば、ミチがイベントが行われる場所を「この公園」と言っていたような気がする。時期は十月の初めごろ。あと一カ月もすれば、この静かな公園が人で埋め尽くされてしまうのだろう。

たまきは下を向いて、とぼとぼと歩きだした。

たまきがよく訪れる公園で開かれる祭りには、志保やミチも参加する。

身近な存在となりつつある大収穫祭だったが、きっとそこに、たまきのような人間が入り込む余地はない。

そんな風に歩きながらおもむろに顔を上げたとき、再びたまきの目に「東京大収穫祭」という画数の多い6文字が飛び込んできた。

ただし、今度はチラシやポスターのような類ではない。それは上下に揺れながら、少しずつたまきから遠ざかっていく。

それは、人の背中に書かれた文字だった。濃いピンクのTシャツの背中に、白い字で例の6文字が書かれていたのだ。

書かれていた文字はそれだけではなかった。あと4文字、「実行委員」という文字が添えられていた。

同じTシャツを着た人2人が、たまきの少し前を歩いている。どういうわけか二人とも右側を見ながら、何か話している。おそらく二十歳くらいであろう女性二人だ。

「でもさ、ここは屋台とかブースとか置く予定じゃないし、べつにいいんじゃない?」

「でも、人が来た時に、あそこが目に入ったらみっともないよ」

二人の女性は林の奥の方を見つめながら何か話している。

あの林の奥には、仙人さんたちの庵があったはず……。

たまきにしては珍しく歩調を速め、女性たちとの距離を少しつめた。

「それに、あんな林の奥だったら目立たない、っていうか見つからないって」

「ダメダメ。イベントの時はああいうところが休憩場所みたいな感じになるんだってば。人目に付きにくいからって誰も来ないとは限らないんだよ」

「でも、去年の大収穫祭の時、あの掘立小屋、あったっけ?」

「……イベントの1週間前には、もうなかったよ。でも、その前の視察ではあったよ。おととしもそうだった」

「毎年、視察の時にはあるけど、本番の時にはなくなってるってこと?」

「ホームレスなりに気を使ってるんじゃない?」

右側の女性はそう言って笑った。

「どうせ毎年いなくなるなら、戻ってこなければいいのに」

もう片方の女性も大声で笑う。

「っていうか、さっきのおっさん見た? 昼間っから酒飲んでなかった?」

「サイテー。どうせどっかいくんだったらさ、酒飲んでないでとっとと出てけばいいのにね」

「っていうか、飲んでないで、働けよ」

「ほんとそれ」

そう言ってまた笑う。笑い声も話し声も、間違いなく庵まで届いているだろう。

たまきはいつしか、彼女たちの後を追うことをやめていた。立ち止まり、その後ろ姿をじっと見ている。

ことし最後かもしれないセミの鳴き声のリズムが、たまきの鼓動と同調して、響く。

笑い声は聞こえても、後ろからでは彼女たちの表情はよくわからなかった。

追いかけていって何か言い返してやりたいが、口下手なたまきにはその「なにか」にあたる言葉が思い浮かばない。

さっき見たイベントのチラシの文字が頭にちらつく。

『みんな、来てね!』

月並みな言葉が残酷に嗤う。

仙人さんは、「みんな」の中に入っていないんだ……。

なんで? 仙人さんは、ここにはいてはいけないの?

たまきはそら豆のおじさんの顔を思い出した。おじさんは仙人にあってから、笑顔が少し明るくなった。仙人にホームレスとしての生き方を教わっていると言っていた。仙人にあっていなかったら、今頃どうしていただろう。

たまきは、カバンからはみ出たスケッチブックを見た。たまきに絵をかくことの楽しさを思い出させてくれたのは、学校の誰かなんかじゃなく、ホームレスの仙人だった。

でも、きっと良識ある大人たちは、仙人がここにいてはいけないというのだろう。初めて仙人にあった時の、どしゃ降りの中でのミチの言葉がたまきの頭の中をぐるぐると廻る。

「ここおっさんたちの家じゃないじゃん。不法占拠だろ?」

……人間は、「ただ、ここにいる」、そんな当たり前のことをするのに、誰かの許可が必要らしい。

 

写真はイメージです

林の中を緑の落ち葉を踏み入って入ると、仙人をはじめとしたホームレスたちが数人いた。ベニヤ板のお化けのような庵の前に、折り畳み式のイスとテーブルを地面の上に置き、カップ酒で酒盛りをしている。

木陰の中をアルコールの幽かなにおいが漂う。

仙人はたまきを見つけると、笑いながら声をかけた。

「やあ、お嬢ちゃん」

「……こんにちは」

たまきはぺこりと頭を下げると、空いている椅子に座った。おじさんばかりのこの空間にも、少し慣れてきた。

「お嬢ちゃん、リンゴジュース飲むか?」

仙人は微笑みながらそう言うと、たまきにリンゴの絵の描かれたアルミ缶を差し出した。たまきはぺこりと頭を下げると、プルタブに親指を引っかける。

だが、何度やってもプルタブを持ち上げることなく、親指が外れてしまう。

「なんだ、開けられないのか。かしてみな」

仙人はたまきの手から感を取ると、ぷしゅっとプルタブを開けた。たまきはお礼にまた頭を下げると、両手で缶を持ち、飲み始めた。

少し飲んで缶を口から話すと、缶をテーブルに置き、たまきは視線を落とした。

「……怒らないんですか?」

「なににだい?」

「……さっきの人たちです」

この距離ならあの二人の会話は間違いなく聞こえていたはずだ。たまきは、自分の知り合いが馬鹿にされているのを聞いて、背筋から湯気のようなものが沸き立つ感覚と、胸の奥あたりが凍てつくような奇妙な感覚を同時に味わっていた。

「あの人たち、仙人さんたちのこと何も知らないのに、ホームレスだからってあんなふうにバカにして……」

だが、仙人はカップ酒をぐびっとあおると、はははと笑った。

「なぁに、百年たてば、歴史に笑われるのはあちらの方さ」

そう言って仙人はまた、はははと笑う。

「それに、『何も知らないのにバカにして』というのは少し違うぞ、お嬢ちゃん。何も知らないからバカにするんだ」

他のホームレスたちもゲラゲラ笑っている。

「絵を見せに来てくれたのかい? それは嬉しいが、お嬢ちゃんもあまりここには来ない方がいいぞ。さっきみたいな連中に、お嬢ちゃんも笑われてしまう」

仙人はハスキーな声で優しく言った。

「……笑われるのは、……慣れてます」

たまきは視線を上げることなく言った。

「仙人さんたちは……、お祭りのときはどうするんですか?」

「出ていくさ。わしらは、ここにはいてはいけないからな。毎年のことだ」

仙人はさも当り前のようにそう言った。カップ酒の最後の一滴をのどに押しやると、じっと自分のつま先を見つめるたまきの頭をぽんっと叩いた。

「なに、祭りが終わったら帰って来るさ。毎年のことだ」

それを聞いてたまきは視線を上げた。

「ただ、それもいつまで続くか、わからんけどな」

「……どういう意味ですか?」

「ここ数年、東京都がオリンピックを誘致しようとしとる。もし本当にオリンピックなんて来たら、わしらみたいなのはどこかに追いやられてしまうだろうさ。まあ、仕方あるまい。公園はみんなできれいに使うもの。その『みんな』の中に、わしらは入っていないのだからな。今から断食して、浮いたお金で都民税でも納めてみるか」

そういうと仙人はにやりと笑い、ほかのホームレスたちもゲラゲラ笑う。

 

林から出たたまきは、都庁を見上げた。ぶ厚い雲が日光を遮り、都庁に影を落としている。

いつかの亜美は都庁に向かって「バカヤロー!」と叫んでいたが、口下手なたまきには、今、自分の中でぐるぐる回っている感情に言葉を付けてあげることができない。

 

写真はイメージです

長月の夕暮はなかなかくれない。不死鳥の翼のように茜に染まった空に黄金色の雲が浮かび、一日の終わりをオーケストラのように彩っている。

亜美は煙草を片手に太田ビルの屋上へと出た。太田ビルはこの歓楽街ではひときわ古く、それでいて、ひときわ高い。東を見れば歓楽街が一望、とまではいかないがとてもよく見える。一方、西の空にはいくつものビルがそれこそ城郭のように立ち並んでいる。

ふと、柵に目をやると、小さな影が東側の策によりかかっている。

その影の正体がたまきだと気付いた時、亜美は初めてたまきとあった時のことを思い出し、汗が頬を伝り胸元へと落ちていったが、よく見るとたまきは柵に背中を預けて絵を描いているだけだと気付き、胸をなでおろした。

「ビビらせんなよ、おい。また死のうとしてるのかと……」

そう言って亜美はたまきに近づいたが、たまきがまるで睨むかのように西のビル群をじっと見据えながら、たまに視線をスケッチブックに落として絵を描いているのがわかり、亜美は何も言わずに横でそれを見ていることにした。

数分してたまきは絵を描きあげた。亜美はそれを少し離れたところから見る。

「相変わらず、お前が描くと魔王の城みたいだな」

そう言った途端、たまきは描かれた紙をスケッチブックから切り離した。たまきはプルタブも一人じゃ開けられない細い腕に力を込め、自分の描いた絵をやぶきはじめた。紙のちぎれる音が雷鳴のように亜美の鼓膜を打つ。まっすぐには破けず、途中で曲がり、結局、最後まで破ききることができなかった。

亜美はあわててたまきの正面へと回り込む。

「ごめん! ウチ、なんか余計なこと言っちゃった? いや、ウチはそういう絵、好きだよ? なんか、へヴィメタのジャケットみたいじゃん?」

亜美の言葉に、たまきはまるで、たった今亜美に気付いたように大きく目を見開いた。

「え? な、何の話ですか?」

「いや、ウチ、余計なこと言ったのかなって」

「え? 何か言いました?」

二人とも、夕焼け雲のように顔を赤くしている。

「だって、せっかく描いた絵を破ってさ、ウチの言ったことが気に入らなかったのかなって」

「え? いや、これは、その……」

たまきが恥ずかしそうに視線を落とす。

「この絵は……、最初から……、やぶくつもりで描いたんです……」

「え? なんで?」

下を向くたまきの顔を覗き込むように、亜美がたまきを見る。たまきは答えない。

「意味わかんない。ねえねえ、なんで最初っからやぶくつもりで、絵なんか描いたの?」

たまきはやぶれていびつな形になった紙を見つめた。描かれている都庁、らしき建物は引き裂かれ、たれ込めている。

「……私、口下手なんで」

そういうとたまきは、紙を手に、口を堅く結んで、搭屋へと入っていった。

つづく


次回 第12話「夕焼けスクランブル」

次回、トクラが志保を、ミチがたまきを、かき乱す!

続きはこちら!


クソ青春冒険小説「あしたてんきになぁれ」

毎日がタダで食べ放題? ピースボート船内の食事は実はこんな感じ

人間にとって一番大切なのは食事である。旅において大切なのも食事である。旅先でどれだけ素敵な景色に巡り合おうと、船内でどれだけ素敵な仲間に恵まれようと、ご飯がおいしくなければ台無しだ。今回はピースボートの船内の食事について書こう。ピースボートの船内は、毎日が実は……。


ピースボート船内の食事ってまずい?

ネットではたまに「ピースボートの食事はまずい」と書かれた文章を見る。

何も知らないアンチが書きこんでいるのかと思いいや、昔のピースボートの食事は本当にまずかったらしい。スタッフが「確かにまずかった」と言っていたのだから。

「昔の」と書いたのは、2017年現在ピースボートが使かってるオーシャンドリーム号よりも前の船の話だからだ。

僕はオーシャンドリーム号の食事しか知らない。

そしてオーシャンドリーム号の食事は……、美味い。安心してくれ。

ピースボート船内のレストラン

まず、ピースボートの船内には三つのレストランがある。そう、三つもあるのだ。これを理解していないとこの後の話はさっぱり分からない。

まずは4階にある「リージェンシー」。4回は乗客が立ち入れる一番下のスペースで、4階で乗客が立ち入れるのはこのリージェンシーだけだ。イメージはホテルの大きな食堂や結婚式場に近いかもしれない。三つのレストランのうちで一番豪華だ。

席はスタッフが案内してくれる。逆に言うと、こちらでは選べないのだが、知らない人と話せる機会だったりもする。

残る二つは9階にある。9階の中央にあるのが「リド」。真ん中は屋根がなく、プールがあってプールの周りをいすとテーブルが囲んでいる。

もう一つが9回後方の「パノラマ」。こちらは屋内だが、外にもいくつか席がある。

9階の二つは席が自由に選べる。

これらのレストランでの食事代は、すでに船代に含まれている。船内にいる限り、食費の心配をすることは全くない。

ピースボート船内の朝ごはん

まずは朝である。

4階のリージェンシーでは和食が食べられる。ご飯に味噌汁、しゃけの切り身や玉子焼きなど「ホテルで出てくる和食の朝ごはん」を想像してもらえるといい。

一方、9回の二つのレストランでは洋食を出している。トーストにスクランブルエッグなど。こっちは「ホテルで出てくる洋食の朝ごはん」を想像すればいい。

ちなみに、どちらも食べ放題である。朝から腹いっぱい食べようとする人は少ないと思うが。

朝ごはんのこぼれ話

エジプト、スエズ運河での朝。左側にアフリカ大陸の安定陸塊、右側にアラビア半島の砂漠が見えるという、この上なく贅沢な状態で朝ごはんである。

僕は仲の良いグローバルスクールのメンバーと一緒にリド(9階の屋外)で食事をとっていた。

ただ、スエズ運河の上というのはいつもこうなのか、ハエが大量発生していた。

うっかりハエを口にしないように気を付けながらの食事が強いられていた。エジプトの人たちは大変だなぁ、と思った朝だった。

ピースボート船内の昼ごはん

さて、お昼ご飯である。

4階のリージェンシーではよく、チャーハンが出ていたのが印象に残っている。普通のチャーハンだったり、キムチチャーハンだったり。

また、寄港地に停泊中でもリージェンシーは営業している。もちろん、ただなのでお金の節約にはもってこいだ。

こういうときはおにぎりや唐揚げといったメニューが多い。リージェンシーでの昼食を待ってから寄港地を散策したこともある。

9階中央のリドは麺料理が出てくる。うどん、そば、ラーメン、タイのフォーなどなど。若者に人気だ。

9回後方のパノラマではカレーだったり白身のフライをパンにはさんだり、フライドポテトだったりと洋食系だ。

ちなみに、どれも食べ放題である。そして、どこか一つのレストランしか行けないというルールは存在しないので、余裕があるものはリドとパノラマをはしごする、なんてこともよくある。

昼ごはんのこぼれ話

リドのラーメンは人気メニューだ。日本で食べるラーメンに比べればそれほどでもないのだが、とにかく船内でラーメンが食べられる機会はそうそうないので、大人気だ。割と早い段階でなくなってしまう。

ある日、8回のフリースペースでぼんやりしていると、「地球大学」という有料プログラムの受講生二人が声をかけてきた。「地球大学」とは船で地球を一周しながら、貧困や戦争など、世界のいろいろな問題について学ぶという有料プログラムだ。彼らはまいにち2時間ほど講義を受けている。

さて、僕に声をかけた二人は「我々は今、ある社会問題についての問題提起をするために、みんなの署名を集めている」と切り出した。いったい、どんな問題を扱っているのだろうか。貧困? それとも平和? 差別問題?

彼らが取り組んでいる問題、それは「地球大学生はリドのラーメンが食べられない、これは不公平だ!」という問題だった。

地球大学生はまいにち13時まで講義を受けている。ところが、講義が終わってリドに行ってみると、もうラーメンがなくなっているのだ。

同じ食事代を払っているのに、地球大学生だけラーメンが食べられない。これは不公平だ!

だから、ラーメンの日はなるべくおかわりをせず、地球大学生の分を残しておいてほしい!

というわけで、賛同してくれる人の署名を集めている、との話だった。

僕は署名した。「確かに、おいしいラーメンが食べられないのは不公平だ」と素直に思ったのと、「お前ら、よくそんなくだらねぇ話題で署名を集めよう、という気になったな。それこそ平和とか差別とか、もうちょいましな話題あっただろ?」という彼らの心意気に感動?したからである。面白ければそれでいいのだ。

あれ以来、僕はリドでラーメンのおかわりはしていない。

ピースボートのティータイム

午後三時になるとパノラマでティータイムがある。一口サイズの洋菓子と一緒にお茶を楽しめ、いつも大人気だ。

何か打ち合わせがあるときなどは「じゃあ、ティータイムでもしながら」と呼び出すのにとても便利だ。

ちなみに、無料のうえ食べ放題である。

もっとも、僕はあまり好きじゃなく、わざわざ売店でスコーンを買って(有料)食べていた。スコーンといっても洋菓子ではない、バーベキュー味とかチーズ味とかある、スナック菓子の方だ。

ピースボート船内の晩ごはん

夕食の目玉は何と言ってもリージェンシーである。豪華客船の旅っぽい、シェフが腕によりをかけた豪華な食事を楽しめる。これは残念ながら、食べ放題ではない。

また、誕生日の人は部屋にバースデーカードが届けられて、それを持っていけばバースデーケーキが出てくる。これは本人だけでなく、一緒に来たお友達も食べられる。僕も船内で誕生日は迎えなかったが、仲間のおこぼれで何回か食べた。

ただ、人によってはそういった上品な味が口に合わず、もっと庶民的などんぶり飯が食べたい、という人もいるだろう。

そんな奴いるのかと思うだろうが、そんな奴の本人がいまこの記事を書いている。

そういう人は9階のリドに行けばどんぶり飯が食べられる。スタミナ丼や牛丼のようなボリュームたっぷりのどんぶり飯だ。

こちらは食べ放題である。

ちなみに、この時間、「なみへい」という居酒屋として営業している。お酒はもちろんいわゆる居酒屋料理が食べられ、フライドポテトやたこ焼き、ラーメン、たまに新鮮なお刺身などが食べられるが、これはすべて有料なので注意すること。

酒を飲むか飲まないかで船内の生活費はだいぶ変わってくる。

晩ごはんこぼれ話

1日目の晩ごはんは何かどんぶり飯だった気がするのだが、船酔いがひどく、満足に食べられなかった。船内では腹が減っていなくても、ご飯は食えると気に食うべし。

晩ごはんこぼれ話

さて、さっきも書いたようにリドの夕食はどんぶり飯が基本だ。また、リージェンシーでは和食が食べられる。

そのため、地球一周の108日の中で、和食やごはんが恋しくなったことはない。よく、海外旅行だと和食やごはんが恋しくなると言うが、ピースボートの船内なら毎日食べられるのだ。

恋しくなったのは、チェーン店系の料理だ。

パナマのクナ族という部族のコミュニティを訪れたツアーの帰りのバス。横浜を出港して2か月がたていた僕と友人の女子二人は、「日本に帰ったら何が食べたい」で盛り上がっていた。

僕が挙げたのは地元・大宮のラーメンとうどん(うどんは「楽釜製麺」というチェーン店のものだ)。この「日本に帰ったら何が食べたい」という話題はとても盛り上がったと記憶している。

その日の夜、夢に大宮駅が出てきた。どうやら、よほど食べたかったらしい。

これが、地球一周の108日の中で僕が唯一、「日本に帰りたい」と思ったエピソードである。

船内のその他の食事処

実は、この三つのレストラン以外にも食事をができる場所がある。全部8階だ。あと、全部有料なので注意すること。

まずは、8階中央の「カサブランカ」。昼間はカフェとして、夜はバーとして営業している。カップめんもここで食べられる。

その後ろにあるのが「ピアノ・バー」。その名の通り、ピアニストの演奏を楽しみながらお酒が飲める。

8回後方にあるのがクラブ「バイーア」。ここでもお酒とカップめんが楽しめる。

バイーアの最大の特徴は「カラオケ機器がある」ということであろう。

ちなみに、カラオケ機器は一台だけ。自分の番が来るとクラブの中央に置かれたカラオケ機の前に立って、他のお客さんに囲まれながら歌うこととなる。

それでも、船内で唯一カラオケができる場所である。このカラオケとカップめん目当てで、僕は割とバイーアに入り浸っていた。

たぶん、船内の乗客は「なみへい」派と「バイーア」派にある程度わけられると思う。

カラオケはいつも多くの人が予約するので、1日2~3曲も歌えればいい方なのだが、何かのイベントの裏とかで一回、仲間内4人ぐらいで占拠したことがある(占拠と言っても、たまたま他のお客が来なかっただけなのだが)。運が良ければそういうこともできる。

また、船内で行われたオークションで友人が「カラオケ独占権」を落札して、仲間内で本当に占拠してしまったこともあった。

さて、8階の最後方、オープンデッキではたまにバーベキュー大会が行われる。これに参加するのは有料なのだが、結構いい思い出になるぞ。

夜食こぼれ話

以前、ピースボート地球一周の船内に持っていくべき、日本で簡単に手に入るアレとは?という記事にも書いたのだが、船内でカップめんは非常に人気だ。

寄港地でもカップめんは売っているが、現地の人向けの味なので、日本人の口には合わない。特にバルセロナで見た日清のカップヌードルは、パスタ風の味付けがされているような感じだった。

ただ、このカップめんはクルーズ終盤には売り切れてしまう。自分でいくつか持ち込んでおくことをお勧めする。

立憲民主党のツイッター#選挙に行かなかった理由42人の意外な真実

立憲民主党がツイッターで「#選挙に行かなかった理由」というハッシュタグで意見を募集した。「選挙に無理していかなくてもいい」と主張してきた僕にとっても、この立憲民主党の試みは興味深い(支持するしないとは別に)。なぜ、選挙に行かないのか。このツイッターに寄せられた意見をできる限り(42人分)収集し、分析してみた。


ツイッターでお説教する奴ら

まず、最初に言いたいのが、このハッシュタグをつけて「選挙に行かなかった人たち」にお説教をする奴らがいた、という残念な事実である。

選挙に行かなかった人たちに対して「民主主義に対する理解が低い」、「発想を転換しないとだめだ」、「もっと勉強しろ」、「日本がどうなってもいいのか」、「選挙権を取り上げろ」といった意見を書く輩が数名見受けられた。

まず、彼らの読解力の無さに絶望している。「#選挙に行かなかった理由」であって、「#選挙に行かなければいけない理由」を募集していますとはどこにも書いていない。

せっかく立憲民主党が「選挙に行かなかった理由を教えてください」と言っているのに、そのハッシュタグで頭ごなしに説教を始めたら、彼らは委縮して二度と本音を話してくれなくなるかもしれない。

そんな簡単なことすら想像ができない人間が「日本の将来を考えろ」と偉そうに語っている姿は、実に滑稽である。想像力の乏しい人間が想像する「日本の将来」とやらがどの程度のものなのか、ぜひ何かのハッシュタグをつけて聞かせてほしいものだ。

確かに、彼らの言っていることは正しい。

でも、全然やさしくない。

「日本がどうなってもいいのか」というが、こういう「他人の絶望に対する理解が低い」人間がのさばり、さも自分が高尚な存在化のように振る舞い、「意識の高い暴力」を平気でふるう社会はすでにどうかなってしまっていると思う。

一つ言えるとすれば、「選挙に行かなかった理由」をやさしく受け止めようとしない人間がいくら民主主義や日本の将来について語ろうと、そんなものはちっぽけな自尊心を埋めるためのおもちゃにすぎない、ということだ。彼らはさも、自分が大局を見ているかのように語るが、結局、何も見えていない。

長々と語ってしまったが、それでは「#選挙に行かなかった理由」の分析に入ろう。

#選挙に行かなかった理由「投票しても結果は変わらない」

職場の人曰く、「どうせ自民党が勝つんだから選挙に行っても無駄」だそうです。

心理学の用語で「ハロー効果」というものがある。簡単に言えば、「人は周りに流されやすい」という傾向だ。

例えば、事前のニュースで「自民大勝」と出れば本当に自民党は大勝するし、「希望の党、伸び悩む」と出れば本当に希望の党は伸び悩み、「立憲民主党、大躍進」と出れば本当に立憲民主党は躍進する。

事実、そうだったでしょ?

「あなたの投票で事前の予想を覆そう」などというのは、かなり非科学的な発言である。

#選挙に行かなかった理由「どこに投票しても変わらない」

投票して世の仲良くなったか?公約ちゃんと守ってるのか?

いまの投票システムは国民の意志を伝えるものじゃなくて政治家を肥えさせるためのシステムだぞ

公約破ったって何の責任も取らない奴らに国民の意思が伝わるわけがない

 

ママ友さん達は、「誰に入れたらいいか全然分からないし、入れても何か変わる気がしない」という感じでした。

 

どうせよくならない。政治を身近に感じない。

 

職場の9割は非正規、生活苦しいのに変わらないとあきらめムード。

 

私の周りはどうせ変わらないというのが多かった。

 

地方在住に友人の意見です

自分の一票で変わるという実感がわかない

 

どこだって同じ

 

生活にどのようにフィードバックされるのかがわかりづらいんです

 

同じ「変わらない」でも、こちらは「選挙の結果がどうであれ、今の生活はよくならない」という意味、すなわち、政治不信である。

「そんなことないよ! 君の選択で未来を変えられるよ!」……とでも意識高い系の人は言うのだろうか。

だが、「信じていないものを信じてください」と言って信じる奴はいない。

例えば、テレビの占いコーナーで「今日、素敵な出会いがあるかも!」といったところで、占いを信じない人は信じない。「いかにこの占いは当たるか」と説き伏せても効果はない。

そんな人に占いを信じさせる方法はただ一つ、本当に占い通りに素敵な出会いが起きることだ。

一回占い通りの日があってもまだ弱いだろう。3日連続で占い通り、ぐらいじゃないとたぶん効果がない。

すなわち、政治不信の人に政治を信じてもらうには、一票が云々というお説教ではなく、「政治で生活がよくなった」という実感である。

ただ、二度の政権交代を経て「結局何も変わらない」という結論を出したのならば、これを覆すのもまた大変なことである。

#選挙に行かなかった理由「投票制度の問題」

住民票を移動できないため

 

公示日の時点で帰国後3ヶ月たっておらず、投票権がなかった

 

都内に住む親友は、選挙に行かないと言っていました。理由は住民票を実家(千葉)から移してないから面倒とのことでした。

 

制度上投票できないのならばしょうがない。ちなみに、住民票を移す手続きは、ひっこす2週間前と2週間後に2回。それをうっかり忘れたらもう移せない。期限がある意味が分からない。

#選挙に行かなかった理由「仕事の都合」

旦那の話ですけど、内航船とか外航船とかの人は無理ですよね。戦争でもなったら船乗りなんてすぐ巻き込まれるのに!

 

仕事で忙しかったです!♡

 

海外出張のため公示前に出国して、投票日までに帰国できない場合はどうしようもないですよね?

船に乗っていたら投票できない、というのは船で地球一周した経験のある僕にはとてもよくわかる話だ。

ネット投票を実施すれば、これらの問題もある程度解消できると思う。憲法改正よりもネット選挙の是非の方を議論するのが先だと思うのだが。

#選挙に行かなかった理由「体力的/距離的な問題」

私の母は今まで投票していましたが、今回は高齢(87)で体がきつくて歩いて投票所へ行けませんでした。

 

足腰の悪い80代の両親、電動車椅子で投票所へついても、体育館の中が自力で歩けない。選管に問い合わせたら「どうにもなりません」との回答。こんなことで選挙を諦めさせられているのはおかしいと思います。

 

金曜日に職場で大怪我をしました。日曜日はなんとしてでも投票所へ行こうと、上下のカッパと長靴を用意して雨脚が弱まるのを待っていましたが、終日大雨の中、慣れない松葉杖で出かけるのは危険と判断し、結果棄権となりました。

ネット投票ができたらと悔しかったです。

 

 

行きたかったのに行けませんでした。投票区から離れた病院に入院していると、選管の指定医院でない限り、不在者投票ができないそうです。総務省などにも確認しましたが、どうにもならないと言われ、郵送による投票も身障者手帳がないと不可能だそうです。

 

毎日のように寝込んで過ごし投票所にも行けない

 

投票所まで行くのが遠くて、交通手段もないし歩いて30分以上かかる。

……なぜネット投票の議論を国会でしない。憲法改正とかモリカケ問題とかよりも、明らかに優先度が高い気がする。これだけ実際に困っている人がいるのだから。

これらの意見をまとめてつぶさに思うのは、「本当は行きたかったんだけど、体力的な問題で行けなかった」ということである。「這ってでも行く」なんて口でいうのは簡単だが、実際はかなり大変なのだ。僕は、本当に這っていっている人を見たことがない。

以前、「選挙に行かないなら意志の示しようがないから、そんなやつの意見は聞く必要がない」と言われたことがあるが、その言葉がいかに視野の狭いものであるかが、これらの意見を見ると切に思う。

#選挙に行かなかった理由「選挙という制度が嫌い/無意味」

選挙自体が嫌い

自分の母がこれでした。

よくわからないから人に聞くとご近所トラブルになると言ってました。田舎なので…

 

日本の選挙は、安倍政権のような暴走政権が生まれやすく、その政権を国民が止めることが難しい制度になっている。

こんな制度の選挙では意味がない。

 

主人は現在の選挙制度に不満だから行かないのだそうです。

 

大別すれば『どこに投票しても変わらない』と同じ政治不信なのだろうが、こちらは「今の選挙のやり方では国民の意思を反映できない」という考え方だ。

こんな言葉がある。

「民主主義は最悪の方法だ。ただし、これまでの歴史の中のどの制度よりも優れた方法である」

つまり、「民主主義/選挙より優れた制度は今のところないけど、決して完璧じゃないってことを肝に銘じてね」という話だ。

選挙は最善ではあるが完璧な方法ではない。必ず、選挙では拾い切れない声が存在する。

例えば、自分の投じた一票が毎回結果に影響を及ぼさなかったとしたら、「今の選挙のシステムじゃ自分の意思は反映できないから、投票する意味がない」と考えるのも至極当然の発想ではないだろうか。

#選挙に行かなかった理由「興味がない/わからない」

都内で日本語を教えています。帰化して日本国籍を取得している人も複数いるので聞きましたが、「わからない」からでした。

 

今の私の周りの人たちが選挙に行かないのは、よくわからないから、ただただ無関心層、危機を知らない。

 

政策が多すぎるんですよ。イメージしやすい政策を掲げてほしかったです。(学生時代、選挙に行かなかった理由です)

 

勉強していないからどこがいいかわからない

 

選挙推進派が批判の槍玉にあげていたのは彼らのような人たちだろう。ここまで読んでいただければわかると思うが、「政治に無関心」という層は、どうやら選挙に行かない人たちの主流派ではないようだ。選挙推進派が「大局を見ているようで、実は何も見えていない」というのがあるていど証明できたのではないだろうか。

さて、彼らを選挙に向かわせるにはどうすればいいのだろうか。「政治に関心を持ってもらおう!」と考えたそこのあなた、ぜひ、次の項目も読んでほしい。

#選挙に行かなかった理由「軽い気持ちで行きたくない」

友達の話したことだけど、「ちゃんと勉強していないのに行けといわれて、軽い気持ちで投票したくない

 

政治の知識のないままに浅い知識で投票するのもどうかと…

 

初めての選挙の時に政治に関心がなく適当に書いたが、その党に入れたことをすぐに後悔したから。

 

政治そのものに関心があっても、正しい判断材料がなければ責任を持って投票できない。至極真っ当な意見だと思う。

各党のマニフェストを見比べるだけでひと手間である。昔、予備校の世界史の先生が「長い歴史の中で、勉強とは裕福な暇人がするものだ」と語っていた。裕福な暇人でなければマニフェストを読もうとも思わないのかもしれない。

かつて、民主党が政権を取った時にテレビのインタビューで「今まで自民党に入れていたけど、今回は民主党に入れた」とのんきに語るおじさんを見たことがある。「過去の投票に対して反省はないのか」と唖然としたのを覚えている。

同様のことは自民党が政権を奪還した時にもあった。「やっぱり、民主党じゃダメだ」。投票した責任というやつを感じないのか。

一票の重みを感じて投票に行かないのと、一票の重みを感じずに投票するのと、どちらが大罪なのだろうか。

#選挙に行かなかった理由「日本に興味がない」

日本に興味ないし

 

「まったく興味がないから」だそうです

 

「日本がどうなってもいいのか」と息巻いていた誰かさん、これが答えです。

たぶん、多くの人が「こんな無関心ではいけない/よくない」と思うことだろう。

考えてみてほしい。例えば、自分を愛してくれているとはとうてい思えない人間から「僕のことを/私のことを、愛してくれ!」と言われたら、どう思うだろうか。

たぶん、多くの人が警察にストーカーの相談に行くはずだ。

つまりは、そういうことである。自分への愛を感じられないものに愛を与える人はそうそういない。彼らが「日本に興味がない」というのは、日本が、政治や彼らの周りの人間が、彼らに関心を払わなかったことの裏返しではないだろうか。

「この国を変えたい」と思うには、「この国に自分の居場所がある」という実感が必要だ。

#選挙に行かなかった理由「生活に不満がなかった」

行かなくても生活に困らなかったから

 

「どうせ変わらない」と対極にあるようで似ている意見だ。「変える必要がない」、なるほど、それも確かに行かない理由だろう。

#選挙に行かなかった理由「政権争いにあきれている/信用できない」

「野党内でもめる」ことも理由です。

 

立候補者の演説がよいことしか言わないため、信用できない」

 

センセイと呼ばれ高そうだけどセンスの悪いスーツ着て普段は地主や業界団体としか付き合っていない脂ぎったオッサンが選挙の時だけ朝駅前で頭下げられても白ける。

 

90歳越えの祖母曰く、

昔の議員はいつも地元にいて、どんな人でどんな考えか分かっていた。常に口に出し発信していた。

それがだんだん選挙時しか町で見なくなり、見ても当たり障りのない挨拶化敵陣の批判しか言わない。

……だそうです、立憲民主党さん。

「どこに入れても変わらない」と同じ政治不信ではあるけれど、あちらが「政治は信頼できない」なのに対し、こちらは「政治家が信用できない」。要は、人としての政治家に不信感が強いわけである。

#選挙に行かなかった理由「入れたい候補がいない」

初めて選挙を棄権しました。

小選挙区は、携帯電話にNHKの受信料を付加するという自民党。政治塾に1日いっただけで立候補した地元で無名の希望。あとは共産・・・

比例は、ビラ配りしているのにもかかわらず私だけ配らない、立件の比例候補。こんな選挙は、初めてでした。

 

立候補者がいない

 

入れたい候補がいないから選挙に行かない。これまた、当たり前の話だ。

それでも白票でいいから選挙に行くべき、という意見をたまに見るが、白票にどんな効果があるのだろうか。無効票、すなわち、書き損じと一緒にされてしまうだけだ。だったら、投票に行かずに投票率を下げて社会問題にした方が効果的ではないだろうか。

#選挙に行かなかった理由「子連れの投票が難しい」

これだけ雨が続くと赤ちゃんを連れて投票所に行くのは困難

 

こういった意見がある一方、「子供を投票所に連れて行くべき」という意見もあった。

大人の投票する姿を見て育った子供は自然に投票に行くようになるのかなと思います。

 

残念ながら、この推測は的外れである。理由は簡単。子供の頃、毎回親の投票についていき、大人の投票する姿を見て育った人間がいま、この記事を書いている、ということだ。

#選挙に行かなかった理由「地域社会の問題」

ご近所の方は「町内の婦人会の人が受け付けをやっているのが嫌、プライバシーをのぞかれるのが嫌」という理由で行かないそうです。

 

たぶん、この婦人会の人たちは人のうわさをぺらぺらと喋り散らすのではないだろうか。「〇〇さんち、日曜日の昼間に投票に来てたわよ。日曜日だっていうのにどこにも行かないなんて、あれじゃお子さんがかわいそうよね~」なんて噂が立ってしまったら、もうその町では生きていけないのかもしれない。

#選挙に行かなかった理由「時間がなかった」

期日前は、朝7時に自宅を出て、大学の授業が終わって、バイトが終わると夜10時。選挙当日は、朝7時に遊びに行って、帰宅が夜21時。

月曜から土曜まで毎日15時間学業とアルバイトに励み、週に一度の休日を惜しむかのように遊び倒す。そんな彼/彼女に「遊びに行かずに投票に来い」なんて残酷なセリフは僕には言えない。

#選挙に行かなかった理由「深い絶望から」

病んでた頃はとにかく死ぬことしか頭になくて、投票に行く気など全く起こらなかった。一緒に行こうと言われるのも苦痛だった。

 

人生を諦めているから

 

社会への不満は投票へとつながるが、社会への絶望は投票にはつながらない。

立憲民主党さん、これが答えのようです

以上、42人分の声である。

巷で言われがちな「政治への無関心」というのは意外と少数、全体の15%ほどだった。

それよりも目立ったのが「政治を信頼できない、政治家を信用できない」という声だ。全体の4割ほどを占めていた。

しかも、これらの意見は「僕個人がそう思っています」というよりも「私の周りの何人かがそう言っていました」というパターンが多い。だとすると、選挙に行かなかった人の半分以上がそう感じている可能性があるということだ。

今回の選挙の「不投票率」は47.3%。この半分、つまり国民の4人にひとりが「政治は信用/信頼できない」と言っているわけだ。これは深刻である。

また、選挙のシステムの都合上、投票したくてもできなかったという声も多い。住民票の問題だったり、仕事の都合だったり、体力的な問題だったり。

こちらは全体の三分の一を占めていた。「不投票率」から考えると、国民の15%は行きたくても行けなかったということになる。

今の選挙のシステムは、どうやらやさしくないらしい。

選挙に行かなかった理由をまとめてみると、みんなちゃんと考えたうえでの結論だった、ということをひしひしと感じる。もちろん、その考え方自体が間違っている可能性はある。しかし、それでもちゃんと考えに考えた結果出した答えが「選挙に行かない」である場合が実は結構多いのだ。

選挙に行くのが面倒な奴らは選挙に行かなかった理由を考えるのもめんどくさいんだろう

 

というツイートがあったが、僕から言わせれば、選挙に行かなかった理由を考えるのを面倒くさがっているのは、こんな風に意識高い系のお説教を垂れている連中の方ではないのか。大局を見ているかのようで、実際ははなに一つ見ていないのだ。むしろ、自分の頭で考え、「選挙に行く」という常識を疑い、答えを出せる人間の方がまだ、視野が広いのかもしれない。

最後に、SEKAI NO OWARIの「Hey Ho」という楽曲の歌詞の一節を引用して終わりたい。

「君が誰かに手を差し伸べるときは今じゃないかもしれない。いつかその時が来るまで……それでいい」

無理して投票に行かなければいけない理由なんて、どこにもない。